沢山の友達
泣きながら走って走って、人がいない建物の隅を見つけてうずくまってまた泣いた。自分が裏切り者の娘と呼ばれたこと、父が裏切り者と呼ばれたこと。そんな父の姿を見たことを気づかれてはいけないと本能的に悟って走って逃げた自分。
(森に帰りたい。)
オーマの言うことを聞いていればと悔やんでも遅い。森のあの小さな家に帰りたいと泣いていると、行きに道案内をしてくれた鳥の声がした。
『見つけた!帰ろう!』
鳥の後をついていくと、オーマが見えた。駆け出して、オーマを抱き締める。
「オーマの言うとおりだったよ。人は怖い…」
オーマのフワフワの毛に顔を埋めて泣く。オーマの毛が私の涙と鼻水で濡れてしまってもオーマはずっと私に抱き締められていてくれた。
オーマの背に乗って森の家の近くまで戻ってきたが、オーマの背にしがみついたまま降りない私をオーマが後ろを振り返って見た。
『どうした、帰りたくないのかい?』
「…オーマは知っている?お父様は何で裏切り者と呼ばれているのか…」
『…私が知っているのは、この森に住み始めてからのお前の父と母、そしてお前が泣いたり笑ったり楽しそうに成長していく姿。獣なのでな、人のあれこれは知らないのだよ。ただ、お前の父が町に行って優しくされてないことは町に行くお喋りな友達に聞いていてな』
『…リリアーヌ、お前はもう父さんが嫌いかい?』
「…ううん、大好き…」
『私は人ではないし、人の心っていうのはわからないかもしれない。だけど、私は自分の仲間や家族がとても大切だ。大切だからこそ、仲間達に何かあったら自分は側にいる。寄り添い傷ついた仲間の側にいるのだよ。』
『リリアーヌ、まだ幼い人の子のお前には少し難しいかもしれないが、お前の父は誰よりお前のことを愛しているよ。裏切り者と呼ばれることになったことはお前がよくわかるように大きくなってから父の口から聞くといい。』
『それにお前には人ではないが沢山の友達がいるだろう?』
オーマの声に顔を上げると、オーマの頭に乗った鳥が優しく私のおでこををつつく。木の上で心配していた耳の長い小さなまるっとした形の毛玉みたいなマリオン達がわらわらと降りてきて、体にまとわりついてくる。頭に肩にと乗ってきて、小さな声で励ましてくれる。
『リリアーヌ、痛いの?』『リリアーヌ、悲しいの?』『大丈夫だよ、痛くない痛くない』
小さな手でペタペタと触って声をかけてくれるマリオン達に自然と笑みが溢れる。
「皆、ありがとう…」
(私はお父様が大好きだもの。今は忘れよう。)
オーマ達に手を振り、家へと走った。
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家に帰った後、朝からリリアーヌが居なくなり、探し回って心配していた母にまず抱き締められた後、何も言わずに動物達と遊びに行った事にたいして(ということにした)、いつもはとても優しい母にこっぴどく叱られて大泣きしたことは皆には内緒だ。