深き森の奥で
村人もけして立ち入ることのない、深い深い森の奥にポツンとその家はあった。小さな木造の家ではあったが、よく手入れされどこか温もりを感じさせるその家で私は育った。
厳しい父に優しい母。幼い頃より父には厳しく躾られ、容赦なく剣術を教え込まれた私は、毎日傷だらけでよく泣いた…と思う。でも、不器用な父なりに私を愛してくれていることを私は知っていたし、私は父が大好きだった。そして、優しい母に抱き締められて、健やかに育っていた。
父と母しかいない毎日で、友達と言えば森に住む動物達というこの生活が当たり前だと思っていた。
ある日、私は父が家にいない日があることに気づいた。月に1回ほど、早朝から出かけ、夕方くらいに戻ってくる父。幼心に父の出かける先が気になった私は、友達になった鳥達に頼み、父が出かけた早朝に窓を嘴で叩いて起こしてもらい、フワフワの毛を持ち野を駆け回る事が大好きなオーマの背に乗せてもらって、鳥達に案内されながら父の後を追った。
オーマの足でも2時間ほどかかっただろうか。町という所の近くまでくると、オーマはこれ以上は近くに行けないと私に伝え、私にもここで自分と待つようにと言った。町には私のように人が沢山住んでいるが、その人達はけしてお前には優しくないのだからと教えてくれた。
(でも、お父様はこの町にいるのでしょう?どうして、優しくない人のいる町に来ているのかしら?お父様一人で大丈夫かしら…?)
一緒に居てくれるオーマを抱き締め、木の陰から町を伺っていると、森の家とは比べ物にならない数の家や人が沢山いるのが見える。父と母以外の人を見たことがなかった私は、オーマが止めるのも聞かず、町へと足を踏み入れた。