表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間原基  作者: 黒鍵猫三朗
第二章 変化は起こり始めると止められない
39/50

2−5

王を交えた会議は円卓で行われる。

これは伝統であり、この話し合いでは立場関係なく平等に話し合うと言う意識を表明しているものだと言われている。


実際には立場によって座る位置が決められており、王の座る椅子は豪華絢爛に飾られている。

初めてこの会議場をユキコと見たときには呆れてしまった。

平等に会議を行うと言う精神はすでに失われていたのだ。


サコはドワイト王に向けて一礼する。


ドワイト・フォン・ラーティン。

ラーティン帝国の王。

政治に無関心な王として知られ、ものすごい大食漢である。

椅子は一人で二つ占有している。

その体重はすでに二百キロを超えているらしい。

美食家らしいが、最近はその食事もほとんど一人でとるようになったようだった。

リサコによると最近は人が変わったように何にも興味を示さなくなったらしい。


その隣に座るのはユリコ・フォン・ラーティン。

第一皇女。

銀色の髪に美しい美貌。

ほとんど声を発さない、物静かな点が特徴でありユキコとは似ても似つかない。

だが、容姿はユキコにそっくりである。

ユキコもあと二十年歳を取ればこんな感じになるだろう。

この人も政治に口を出すことはない。庭いじりが趣味らしい。


サコは長い礼を終え、席に着く。

後ろにミギト、レイトが立つ。

ミギトは執事の格好。

レイトは黒い騎士団服をきている。

どちらもピカピカと光り輝いている。


その後ろにチコとリサコが待機している。

もしもの時は後ろから飛び出す手筈になっている。


「アルスト・フォン・ラーティン!

 入場!」


次の号令がかかる。

ユキコが入ってきた扉から見て右側の扉が開く。


先頭はアルスト。

こちらも大食漢であり、明らかなデブである。

EEで作るおもちゃなどが好きで、宮殿の倉庫一つを占領し、一人で誰の役にも立たなさそうなおもちゃを作っては遊んでいる。

典型的なオタクであり、加えて自分が良ければいいというタイプだ。

ユキコとは全くそりが合わない。


後ろに続くのはピチピチのチャイナドレスのような赤い服に身を包んだリュッコ。

アルストの専属医師だ。

横の切れ込みは随分高い位置まで入っている。

リサコ情報ではリュッコは切れ者らしく、人材を確保するのがとても上手らしい。

場違いな甘い匂いを振りまきながらアルストの後ろに待機する。


最後に、超巨大な大男が入ってくる。

アルストの近衛兵団長。

デクトという名前らしいが、いったいどこの出身なのか全くわからないらしい。

レイトもかなりの大男だが、そのレイトが小さく見える。

身長が三メートル以上あるだろう。

明らかに用心棒といったところだ。

会議場には武器の持ち込みが禁止されているが、巨大な金棒が似合いそうだった。

顔は兜で見えない。


アルストはユキコ(サコ)をちらりと見て、ドワイト王に礼をする。

礼を終え、席に着く。

彼の椅子も太った人用の大きなものが用意されていた。

自信満々のアルストは、座ると仰々しく背もたれに体を預け、椅子をギシギシ言わせる。


後ろに控えるリュッコが舐めるようにユキコ(サコ)のことを見る。


——何なの……?


まるで、お宝のありかを知った盗賊のような表情だった。


「ミズコ・フォン・ラーティン!入場!」


最後、誰も出てきていない扉からミズコが入場する。

身長が百三十センチほどしかないので歩いている時机の上に出ているのは肩から上だった。

だが、自身に満ちたその顔は年齢に似合わぬほどである。

すでに亡くなっている第三皇女から生まれたミズコ。

顔はどちらかというと東を匂わせるような童顔であり、胸もない。

黒髪は会議室に差し込む日の光を受けてツヤツヤと輝いている。

母親はあまり美人とは言われなかったものの、ドワイトは死ぬ間際まで通ったらしい。


——彼女は王位を狙っていない。

これが本当であれば気楽なものだが……。


ミズコはユキコ(サコ)ににこっと笑いかける。

ユキコ(サコ)も笑顔で返す。

舐められてはいけない。

すでに、会議は始まっているのだ。


ミズコの後ろには青い騎士団服を着たキザな男が立つ。

ミズコの近衛兵団長、エストと呼ばれる男だ。ミズコお抱えの騎士であり、リサコによるとその素性は謎に包まれている。

唯一分かっているのは貴族出身でないことだった。


——なんらかの能力を買われてそこに立っているのだろうけれど……。

ミズコの場合は暇つぶしのためのおもちゃと言う可能性もある。

私たちの情報はどこまで集められているのだろうか……。


最後に国の権力の一部をドワイト王から分け与えられている大臣たちが入場する。


宮内大臣     エート・コンスタン:メガネをかけた神経質そうな男

科学大臣     ルビロト・ラトイスク:昔はイケメンだった初老の男

軍務大臣     ナデシコ・アームストロング:力こそ正義と信じるショートヘアの女

内務大臣     リト・ガウアー:最も若く最も貧乏。仕事も雑用ばかりのニキビが残る男

工務大臣     ブルーコ・オールディス:産業を一手に担うインテリ。濃い顔で猿っぽい。


全員、帝国大学出身のエリートたちである。

その人選は王に一任されるがドワイト王は結局、前任者をそのまま使い、仕事ができなくなった大臣はその子供を仕事に当てさせていた。


円卓にはドワイト王を北側に、西側にユキコ、南側にアルスト、東側にミズコが座っていた。

それぞれの陣営には、それぞれ信頼を置く配下の者たちを後ろに控えさせている。


南側の奥、壁際に大臣たちは並び会議の様子を伺っている。

この会議で決まることが彼らの明日を決めてしまう可能性があるのだ。


全員が決められた場所に着くと、会議場はシンと水を打ったように静かになった。

ここにいる全員が一人の男の発言を待っているのだった。


ドワイト王が重々しく口を開いた。

特徴のある野太い声が会議室に響く。

まるでカエルが喋っているようだ。

とはユキコのたとえ話であるが、サコは言い得て妙だと思っている。


「さて、諸君。今日、お前たちを集めたのは他でもない。

 我が帝国を今後どうしていくのか、お前たちの意見を聞きたくてな」


ユキコ(サコ)はドワイト王を見据える。

全く無気力そうな表情。

言っていることと本人の雰囲気の不一致がはなはだしい。


——誰かに言わされてる見たい……。


そこで、ミズコが手をあげる。


「まず初めにお聞きしてもよろしいですか?」


「ミズコか。言ってみよ」


「はい。ユキコ様の声が出なくなったというのは本当ですの?」


早速きた。

ミズコの問いかけにミギトが手をあげる。

その行為だけでミズコは理解したらしい。


「ユキコ様、本人がお答えにならないことが何よりの証拠ですわね」


ミギトはミズコの発言に続けて答える。


「僭越ながら、ユキコ様のお声は一時的に失っているにすぎません。

 しばらく休養すれば、すぐにお声も戻られると思われます」


「でも、今は喋れないということね」


ミギトができる返事はもう一つしかなかった。


「……はい」


「つまり、この会議ではもう発言できない、何を言おうと無意味ということになりますわね?」


ユキコ(サコ)は心の中で舌打ちをする。


ミズコは抜け目がない。

どうせ、喋れないことなど知っていたに違いない。

情報操作に長けた人物が彼女の裏にいることはわかっている。

こちらの情報はほとんど筒抜けだろう。

その上で、ユキコが喋れないことを再確認した。


ユキコの発言権を奪うつもりだろうけれど、そうはさせないわ。

ここまでは想定通り。

必ず誰かがその話を持ち出すとわかっていた。


——ミギト、お願いしますよ!


「お待ちください、ここに一つ書類がございます。

 こちらは、ユキコ様がまだ喋ることができていた時に書かれたもの。

 陛下の署名もあります。

 この書類に関しては有効性がまだあると思われますが、いかがでしょうか、国王陛下」


ドワイト王は書類を見る。

ミギトたちが昨日、ユキコの机の上にある棚にずっと刺してあったものを取り出してきた書類だった。

表紙にはドワイト王のサインがあった。

ずいぶん昔にユキコ姫が使っていた書類だった。

EE鉱石がほとんど無いことを王に知らせるための書類だったが、当時のユキコがその中にいろんな話をねじ込んである。

内容を確認せずにサインする王に対して、自分に何があっても自分の意見を通すために作っておいた保険だった。


この内容をうまく曲解すれば、ギリギリ議論をすることができる。

今頃、話題にすることなどあの件以外にはない。

それが、サコたちが考えた声を失ったことに対する対策だった。


「いいだろう。その書類に書いてあることならば意見として提出することを許す」


ユキコ(サコ)はミズコを見る。

だが、対した表情は浮かべていなかった。

頬杖をついてやり取りを聞いていた。

彼女の身長に対して高すぎる机で頬杖を付いているので、顔が大変な形になってしまっている。


——彼女にとっては、ユキコたちの発言権がどうなるかなどあまり興味がなかったのだろうか。

なぜ、ユキコの発言権を奪おうとしたの?


サコはミズコの狙いがわからず混乱する。

相変わらず全く読めない。


——日頃の生活すら秘密にされているって。情報統制され過ぎじゃない……?

それだけ隠したいことがあるってこと……?


「して、国王陛下〜? この国を今後どうしていくのかについての意見ですけれども〜。

 私たちは具体的にどのようなことについて意見すればいいのかしら〜?」


男に媚びる、生暖かいこんにゃくのような声音で話すのは王位継承権第二位アルストのメイド、リュッコ。

赤いチャイナドレスはここでは完全に場違いだが、本人は全く気にしていない。

猫なでの声は巷の男に受けるらしい。


ドワイト王もそのことに関してとやかく言うつもりはないらしい。

おそらく、彼女は謁見のたびにその格好をしていたのだろう。


「うむ。だが、一つ目は済んでしまったな。

 ユキコの声の件だが、この会議では書類を元に発言してもらう。

 声が戻る可能性があるそうだが、それについては戻った時に考えさせてもらおう。

 一度失ったものはなかなか戻るものではない」


悔しいが、王の言うことは正しい。

結局のところユキコの声次第だ。

だが、正しいが故にサコは不思議に思う。

どうしていつもは政治に口を出さず、会議に参加してもほとんど発言しないドワイト王が、今日に限ってこんなに饒舌なのか。


ちらっとミズコ、アルストを見ても特に不自然がることもなく平然としている。


——なんだか、不気味ね……。まるで、王の饒舌さが普通みたいじゃない。


サコは内心、冷や汗をかいていた。


「かしこまりました」


ミギトは恭しく礼をする。ユキコ(サコ)は小さく嘆息する。


——わからない。わからないことが多すぎる。こんな時ユキコなら……!


アルスト、ミズコからユキコの声について不平が出ることはなかった。


——ひとまず第一関門は突破したと言っていいと思うけど……。

なんか腑に落ちないことが多いわね。


しかし、ドワイト王の次の一言が会議場を沸かせることとなる。

「だが、一国の王たるものが喋れないのでは、文字通り話にならん。

 そこで、王位継承権の序列を決め直すことを宣言する!」

王位継承権剥奪!?


読んでいただきありがおとうございます!!

よければブクマしていただけると嬉しいです!

評価、感想も待ってます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=780216534&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ