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人間原基  作者: 黒鍵猫三朗
第二章 変化は起こり始めると止められない
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2−3



ラーティン帝国歴一八〇七年六月六日。


ユキコが死の森にあるログハウスに入ってから三日経った夜。

ユキコ姫のメイドサコとチコ、そして執事のミギトは困った表情を浮かべていた。


「サコさん……」


「サコ……」


「何も言わないで。まさかそんな……」


三人の前には黒い騎士団服の女と男が立っていた。

女の方はサコに何も持っていない手を差し出している。


「あの。ユキコ姫の髪の毛をどうぞ……。

 これで仲間だと言うことを示せると聞いたのだけれど?」


サコは困ったように首を振る。


「ええ、その通りですが……。

 髪の毛を渡そうとする。その行為自体が暗号ですが……。

 まさか本当にそんなことをしてくる人が現れるなんて思いもよらなかったので……」


サコたちは困惑の表情のまま固まっていた。

リサコはとりあえず話し続けることにした。


「とりあえず、いきなり完全に信頼してもらうなんて無理な話だろうからおいおい仲良くしてくれればいい。

 まずは自己紹介といこう」


リサコは自分の胸を指差すと言う。


「私はリサコ。王直属部隊ゴーストの隊長で、じつはユキコとは昔なじみ。

 五年前からドワイト王を内偵してたわ。私の得意なことは剣術と情報秘匿。

 この部屋にかかっていた盗聴の“ギフト”を相手に悟られないように解いておいた。よろしく」


「そんなことができるの……?」


「まぁね。ま、私は“ギフト”が使えないけど、その割にEE鉱石の使い方には詳しいのよ。

 会話らしい音声を流し続けるような“ギフト”を閉じ込めたEE鉱石とかあるの」


「なるほど……」


感心するユキコの格好をしたサコ。

リサコは自分の後ろに控えている男に発言を促す。


「俺は、レイト。ゴーストの副隊長だ。よろしく」


サコは頷くとミギトを見る。


「私の番ですか。

 私はミギト・ダルケル。

 ユキコ様が生まれた時から執事として使えさせていただいております。

 執事として姫様の生活の一切を取り仕切っております」


「私はチコ・ムスエラ。

 孤児院にユキコ姫がいらっしゃった時に声をかけてもらったの。

 基本的なメイドの仕事に加えて戦闘員として置いてもらってます。

 使える“ギフト”はげふぅぅぅぅ!!!」


ユキコに扮したサコがチコの脇腹を思い切り蹴り飛ばした。


「何、速攻でバラそうとしてんじゃい!

 あんたの“ギフト”は戦うその時まで秘密!

 そう言う約束でしょうが!」


チコは頭から壁にめり込んでいる。

リサコは汗を垂らしてその様子を見ていた。


「私はサコ・ムスエラ。私も孤児院の出よ。

 姫様に“ギフト”を見出してもらってお仕えすることになったの。

 まぁ、“ギフト”の内容に関しては見るからにわかるわよね」


リサコは頷く。レイトも驚いてサコをまじまじと見つめる。


「姫様が大丈夫と言っていたのはこのことだったのですね。

 まさか、ここまで完璧な影武者がいるとは……」


ユキコ姫に使えるチームユキコのメンバーを確認したところでサコは切り出す。


「さて、噂のゴーストの人たちが入ったことで戦力がだいぶ増強されました。

 リサコのおかげで盗聴の心配もなくなったのでひとまず、状況を整理しておきましょう」


サコはそう言うと全員を座らせる。

チコはユキコ姫のベッドの上に、リサコとレイトは床の上に。

ミギトは頑なに座ろうとしなかったのでサコは諦めて話し始める。


「この宮殿で今、ユキコ姫はとても追い詰められています。

 声が出ないと言うことが広まってしまった姫様はすでに宮殿内での発言権を奪われました。

 今はカント様に全て操作されてしまっています。

 ユウト様は姫専属医師の座を追われ、すでにユウト様の兄、カズト様が姫専属医師の座を手にし、婚約者には近衛兵団長カント様が選ばれています」


「カントなら今、自分の部屋で寝てるぜ。

 ここ数日の記憶が消えるようにしておいたから、ユキコ様が逃げ出したことは知らないはずだ」


リサコはそう言う。サコは一礼して感謝を表明してつづける。


「ありがとうございます。

 話の続きです。専属医師も婚約者もまだ、正式に公布されていない内定ですから、公に彼らと行動を共にすることはありません。

 今は、ユキコ様が疲労による体調不良ということでこれまでの側近である私やチコ、ミギトのみが近寄れることになっていますが……。

 いつ、彼らがユキコをほしいままにしようとするのかわかりません」


サコは悲しそうな顔をして言った。レイトは渋い顔をしてその話を聞いている。


「すごい、やりたい放題ですね」


リサコは腕を組みながらウンウン頷いている。


「そりゃ、ユキコ、可愛いもんな〜。

 それに、声を失ってしまった女の子を好き放題していいって言われれば男が寄ってたかるのも無理はないね。

 私もそんな罪な女になりたいわ」


「隊長じゃ無理ですね」


「何言ってんだレイト。

 私にだって穴はある。

 山もなかなか大きい。

 顔も悪くない。

 そんな風になれると思うんだが?」


「そういうところですよ」


「そういうとこ?」


キョトンとしたリサコに、サコはエッホンと大げさに咳払いをすると言う。


「いいですか?

 そうして王位継承権第一位の権力をどうにかして手に入れようとしている人たちがいます。

 この人たちは常に姫様の体を狙っています。

 勘違いしたバカが姫様を我が物にしようとする可能性はありますが、基本的に姫様の命を狙うことはありません」


ミギトは拳をきつく握りしめ言う。


「たとえ、サコ殿が変わり身となっていたとしても、ユキコ姫の体がそこらへんのゴミどもに蹂躙されようものなら、私はそいつを必ず殺します」


ミギトから殺気がほとばしる。

リサコはその雰囲気の変わりようにゾッとした。

普段の優しそうなおじいさんと言う雰囲気は全く残っていなかった。


——ユキコのやつ……とんでもない猛獣を飼ってるな……。


リサコは思わず握りしめた剣の柄から手を離す。


「ミギトさん。抑えて」


チコがあたふたして立ち上がるとミギトの固く握られた手を包む。

だが、チコもそんな輩がいたら必ず殺してやろうと覚悟していた。

ユキコ姫は優しい方だ。

もし、そうなったとしても政治のバランスなどと言うことを考えて許し、泣き寝入りしてしまう。


サコはミギトにニコッと笑って頷く。


「もちろん、私も同じ気持ちです。

 ですが、命より大事なものはありません。

 ユキコに取り入ろうとする方はまだ良いのです。

 少なくとも命を狙ったりはしませんから。

 それよりも重要な問題は王位継承権第二位、第三位の方々です」


リサコは眉をひそめて言う。


「王位継承権第二位、アルスト・フォン・ラーティン。

 王位継承権第三位、ミズコ・フォン・ラーティンか」


「ええ」


レイトは頷いたサコに反論する。


「しかし、サコ。王位継承権第三位のミズコは王になるつもりはないと公言しています。

 それほど警戒する必要はないのでは?」


「そうですね。彼女自身はレイトの言う通りですがその側近や後ろ盾には注意する必要があるでしょう」


「と言ってもだ。誰がついているかわからないじゃないか」


リサコはついにあぐらをかいて座る。

レイトはそんなリサコを怪訝そうな表情で見ている。


「わたしらゴーストは暗殺が目的で作られているから情報収集にはあまり強くない。

 だが、いつ誰を殺せと言われるかわからない分、できる限り情報を集めておくのが鉄則だ。

 そんな私らでは彼らの情報は集められなかった」


「情報が集められないと言うのは?」


サコはそう聞いた。


「いや、実際には集まるんだ。

 だが、その全てが事実のように聞こえ、そしてその全てがデタラメのように聞こえるんだ。

 本物の情報を見極める決め手となるような、確固たる情報が集まらないんだ。

 王にならないと公言してはいるが、何を考えているか全くわからん」


「不気味だね……」


チコは寒気でも感じているかのように両手で体を抱いた。

リサコはそんなチコを安心させるかのようにニコッと笑うと言う。


「まあ、王位継承権第二位のアルストの方はもっと単純だ。単純に王位を狙っている」


「彼は王になって何がしたいのでしょう?」


サコはリサコにそう問いかける。

リサコは両手を広げて馬鹿にするような表情で言う。


「自分のことだけさ。

 あのデブはEEが無くなっちまっては趣味も何もないからな。

 好きなようにEE鉱石を確保しておきたいんだろ」


レイトが手を上げて発言する。


「自分は一時期、アルストの情報を集めていたのですが、実際の彼自体にはそれほど脅威はありません。

 才能も努力も全て怠っている凡人以下の能力しかありません。

 しかし、彼には強力なメイドが付いています」


「ああ……」


サコとチコはドリアンの匂いでも嗅いでまったかのような表情を浮かべる。

リサコはニンマリ笑うとそのメイドの解説を高らかに始める。


「そう、リュッコというメイドだな。

 どうやって取り入ったのかわからないが娼婦の出身の女だな。

 だが、これがなかなか厄介でな。人を集め、その才能を見出すのがうまい。

 アルストの配下は今やミズコを越え、ゴーストが加わったユキコ姫の陣営よりも充実しているだろうと考えられる」


「やはり、アルストが一番危険ですね……。アルストの情報は集められますか?」


「もう無理だな。

 ゴーストのメンバーを派遣しようものなら殺されているし、“ギフト”やその他手段も意味を成さねぇ」


「くそっ。結局、ユキコ姫を狙っているのが誰なのかはよくわからずじまいですか……」


サコは悔しそうな表情で俯いてしまった。

リサコはそんなサコをしたから覗き込むと聞く。


「ユキコ姫はどうやって狙われてたんだ?」


「それが、獣化症という病気に……」


サコはユキコがある日から急に獣になってしまった話をリサコに伝えた。

自分たちでは何もできず、結局ユウトがいなければ彼女の病気は直せなかったこと。

獣化症を自在に発症させそれを秘匿することができる、そんな凄腕の集団がどこかに潜んでいる可能性があること。


「なるほどな……。狙って相手を獣にできる。

 そんな“ギフト”聞いたことねぇが……。

 ユキコ姫はそんなすげぇやばい技術を持った相手から狙われているのか。

 にしても獣化症か……」

ユキコを狙う奴らとは…??


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