2 取るべきリスクは自分で選べ
リサコたちゴーストの面々と別れ森の中に入ったミヤコ、ユキコ、エルザ。
そしてその背中に横たわるユウト。
相変わらずユウトからひどい臭いがしている。
——ある意味天然の虫除けね……。
などとユキコはひどいことを考えていた。
ユウトのことをぼんやりと見ていたユキコにミヤコは言う。
「ユキコ、気をつけなさい。ここから先は死の森。道から少し外れるだけで命を落とす森なのよ」
「……わかったわ」
ユキコはゴクリと唾を飲む。
ミヤコが住んでいると聞いたから、そんなに心配していなかったが、どうやらその考えは甘かったらしい。
ミヤコには見えていると言う道。
というがユキコには道というようなものは見えない。
せいぜい草がちょっと低いかな?くらいのものだった。
足の踏み場も無いような草をかき分け少しずつ進んでいるとミヤコが急に声をあげる。
「ユキコ! よそ見しないで!」
「えっ?」
ミヤコが急に曲がったことに、ユキコは気がつかなかった。
足を突っ込んでしまったところは坂になってた。
右足がズルズルっと坂を降り始めていくのをユキコはスローモーションのようにみていた。
「あ、やばっ…」
ユキコは自分の体が穴の中に飲み込まれる感覚を得ていた。
慌てて近くの草を掴んだ。
しかし、そんな草ではユキコの体重を支えられなかった。
あっさりと根っこから抜けてしまい、ユキコの体が穴へと滑り落ちていく。
「きゃあ!」
ユキコは目を閉じた。
だが、いつまでたっても体の沈み込むような感覚はなかった。
ゆっくりと目を開けると、ミヤコがユキコの手を握ってくれていた。
ミヤコの手はユキコの手をしっかりと握りしめていた。
その力の強さにユキコは驚いた顔をしてミヤコを見つめる。
「ちょっと。早く登りなさい。あなた、重たいのよ」
「はぁ!?」
ユキコはとんっと地面を蹴るとひらりと宙返り。
ミヤコの隣に立つ。
手に持っていた草を投げ捨てミヤコをひと睨みするユキコだが、背中にふわりとした感覚を得る。
どうやらエルザが頭をこすりつけたようだった。
「ユキコ。命拾いしたわね。これはモリガニの巣よ。
蟻地獄のようにすり鉢状の巣を作るのだけど、そのすり鉢を草木で隠すのよ。
狡猾なカニね」
「そんなカニが……」
ミヤコは少し怒った顔をしてユキコを見つめている。
「都会で育ったあんたにはわからないものがこの森にはたくさんあるの。
こうして集中力を切らすなら、その重たい体引きずって帰ってもらえるかしら」
ユキコは眉をひそめる。
「重い重いってうるさいのよ。
あんたこそ私をしっかり誘導しなさいよ。
森のことはよくしっていらっしゃるんでしょう?」
「はぁ? あなた、人にものを頼む時の態度がなってないわよ!?」
「正しいわよ! 私のお母様もこうして人にものを頼んでいたわ!」
「あんた、何様のつもり!?」
「姫様!」
ユキコは腰に手を当てると胸を膨らませ威張る。
ミヤコは頭を振って苛立ちを吹き飛ばすと冷めた表情で言う。
しかし、彼女はいま隠密用の黒い服に身を包み、靴もさらには顔まで真っ黒だった。
どう見ても、炭鉱で真っ黒になった労働者だった。
その割にはやたらと細身なところがおかしいだけだった。
「わかったわ。もし仮にあなたが姫だったとしても、それは人の世界でのこと。
森の中では有用しないわ。ちっぽけな一生き物として振る舞いなさい」
「望むところよ」
ユキコとミヤコはふんっっと顔を背け合う。
ミヤコが顔を背けた先にはエルザがいた。
エルザは前足を口元に当て、ニヤついていた。
「エルザ。何ニヤついてるの?」
「いや、ちゃんと忠告してあげるなんて偉いね……」
「顔を緩めてないで集中しなさい。森を抜けるわよ」
「は〜い」
「ユキコ、ついてきなさい。次はないわよ」
「わかってるわ」
ミヤコはたんっと軽く地面を蹴ると飛び上がる。
枝の上を鳥のように飛ぶ。
ミヤコの無駄のない動きにユキコは感心する。
「なかなかやるじゃない」
ユキコも枝を飛んでいくのは子供の頃に練習した。
ミヤコが乗った枝を正確に追いかけ、一本一本飛ぶ。
途中、眼科にはこの世のものとは思えない植物や動物たちがうごめいていた。
植物のつるに絡め取られ動けなくなったハイエナ、体の一部が溶けて肋骨が見えていた。
お互いに食べあう植物もあった。
片方の口の中に入った植物の先端が、相手の体を突き破って途中から外に出ていた。
森の中の雰囲気は一言で言えば混沌だった。
弱肉強食のシンプルなルールの中でそれぞれの生き物が恐ろしい勢いで進化し、競い合っていた。
人の世界の何と生温いことか。
ユキコは背筋に冷や汗を浮かべずにはいられなかった。
こんな森を昔開拓した人たちがいるという話は国の中では有名な話だった。
だが、その苦労がどれほどのものだったのか、真の意味で理解しているものは国内にいないだろう。
危険な森であるから法律で立ち入りが禁止されているが……。
「死の森なんていう優しい名前はやめて殺人の森という名前に変えたほうがいいわね」
「殺人? 殺すのは人だけじゃないわ。どうしてそういう発想しかできないのかしら」
ミヤコから苦情が飛んでくる。
——あの人は私のいうことにいちいち文句をつけないと気が済まないのかしら。
ユキコはあえてミヤコの言葉を無視する。
しばらく、無言で枝の上を飛んでいたが、ミヤコは急に地面へと降りる。
「ここからは歩くわよ。ここから先はプライドが高い木が多いから。踏まれると怒るのよ」
「怒るとどうなるの?」
「その生き物を追いかけて絞め殺すわ」
ユキコは少し仰け反る。
澄まし顔でミヤコはそういったが、そんな普通な顔して話すような話なのだろうか。
「ええっ。絞め殺すの……?
でも、木でしょ?
そんな俊敏に動けると思えないけど……」
「そうよ。だからすぐは殺さない。
決して恨みを忘れず、次に近づいてきたときに殺すのよ」
「ひぃぃぃぃ……」
ユキコは下を見る。
——草によってほとんど地面など見えないがこの土の下に木様の御御足があるかもしれないの……?
「私がつけた足跡の上を歩いて」
ミヤコの簡単な指示。
しかし、ユキコはカクカクとうなずくと素直にミヤコの足跡を踏みながら歩く。
——足の大きさ、ミヤコより小さくてよかった……。この緊張感いつまで続くのかな……?
ユキコは心配になったが、それほど心配することではなかった。
すぐにひらけた場所が見えた。
「なにここ」
「死の森のセーフゾーン。私の家よ」
森の中にぽっかりと空が見えるひらけた広場があった。
真ん中にはログハウス、その周囲に畑がある。
井戸もありここにいるだけで生活できる設備が整っていた。
目に見える全てをじっと凝視していたユキコにミヤコは言う。
「全部、私が作ったのよ」
「すごい」
ユキコはポツリとそう言った。
そんなユキコの背中をぽんっと叩くとミヤコはエルザを連れて井戸に向かう。
「ぼさっと立ってないで。とりあえずユウトを洗うわよ」
「あ、はい」
なぜか敬語になったユキコ。
ユウトをエルザの背中から降ろすと地面に横たえる。
体を見てみるといろんな傷があった。
切り傷、打ち傷、刺し傷、火傷、水ぶくれ、ミミズ腫れ、打撲、内出血、傷の博物館のようだった。
「うわぁ……」
ユキコは傷の一つを撫でる。
だが、撫でても治る訳ではない。ユ
キコにはそんな“ギフト”無いのだ。
「さあ、まずは洗いましょう。この汚物をなんとかしないと。
この人にはやってもらわなきゃいけないことがあるのよ。
まさか、こんな状態になっているとは思わなかったわ」
森の中の美少女たち……!
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