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人間原基  作者: 黒鍵猫三朗
第二章 変化は起こり始めると止められない
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1−8

「あんたが仕切るんじゃないわよ! 半獣のあんたはとにかくついてくればいいの!」


「はいはい!」


エルザとユキコはスタートダッシュを切る。

走っている車を次々と抜かす。

ミヤコはユキコに大きな声で話しかける。


「ねぇ! 全然追ってが来ないけど、あんたなんか知ってる?

 それとも、地下牢に閉じ込めて置かれているような人物、取り返す必要なんてないっていう判断なの?」


「多分違うと思う。エリュシダール家の尊厳を守るためにユウトが捕まった事実が秘密にされているのよ」


ミヤコはぎらりとユキコを睨みつける。


「秘密! 人間は本当に浅ましいわ。起きた事実を認めず裏に隠しておきながら、表面だけを取り繕う」


「そうね。それも人の一部だと思うわ。

 誰しもが他人の顔色を伺っているもの。

 でも、それだけが人ではないはず。私はそう信じている」


「あなたが、信じたところで変わりはしないわ。

 人にはゴミしかいないわ。自分が生き残ればそれで十分なんでしょ」


ユキコは反論しなかった。ミヤコ、この人にもきっとなんらかの歴史があったに違いない。

いろんな経験を経てこの結論に至った。

でも、彼女がいくら人間を卑下しようと彼女は、彼女自身が否定している人間なのだ。

きっと分かり合える部分もあるはず。


「門が見えてきたわ! あそこを越えれば街を抜けられるわ!」


ユキコはそう言う。彼女たちの目の前にはこの街の入り口、大きな門が見え始める。

宮殿の城壁よりは高くないが、鋼鉄によって加工されどっしりと分厚い壁は敵の物理・EE攻撃を全て受け止める。


この国は昔からいろんな国から狙われてきた。

EEを産出する権利を欲しい人間などいくらでもいたのだ。その都度、戦争になっていた。

この、黒く、機能性のみが重視された重厚な城壁と門はその時の名残だ。

ここは最近、景観のために修復され綺麗になっているが古い城壁が残っているところに行けば当時の戦闘の凄まじさを感じることができるだろう。

“ギフト”を使った戦闘の一撃がどれほど重いのか。

そこにある城壁から地面までいっぺんに削り取られた大穴が物語っている。


そんな歴史ある城壁を破壊するのは不可能。飛び越えるしかない。


「とぶわよ!」


エルザの掛け声。ドンっと地面を蹴る。

十メートルはあろうかと言う城壁を軽々と飛び越える巨大な銀の猫。

ユキコもエルザに続いて城壁を飛び越える。風が気持ち良い。


「首都脱出! 外に出るのは初めてよぉぉぉぉ!」


ユキコは大騒ぎしながら飛ぶ。

月が自分に近づいてくるかのようだ。

ユキコは思わず手を伸ばす。

うさぎになりかけた自分。

私の仲間が月にいるかもしれないのね。

ユキコは月の伝説を思い出しちょっとおかしな気分になる。


うさぎになりかけた自分を、少しばかり受け入れつつある。


EE街灯、家の明かり、車のランプ。

それらのおかげで城壁の中はとても明るかった。

だが、一歩でも外に出るとそこは月と星明かりだけの世界。

しかも、今日は新月。星明かりだけで道を探る。

道路などはほとんど整備されておらず行商人が切り開いた街道があるだけである。


街に住む人間が感じたことのない真の暗闇がそこには広がっていた。

まるで、暗黒に吸い込まれるようにユキコは地上へと向かう。


エルザとユキコは街道に着地する。

着地した瞬間エルザは臨戦体制に移った。


「エルザ……?」


ミヤコの声。だが、その声も緊張感をはらんでいる。

ユキコも獣になってから感覚が鋭くなってはいるが……。

どうやら、本物の獣にはかなわないらしかった。


「何かいるわよ。気をつけて」


エルザの警告。

街道横に広がる草むら。

腰よりも高い草が生い茂っている。

その中心をエルザは唸りながら見つめる。

すると、草むらから男が一人、現れる。


「なかなか、鋭いな。獣。この俺の雰囲気を察するとはな?」


「カント!」


ユキコは驚く。カントは相変わらず白い騎士服を身につけている。

いい加減、その服、脱げよとユキコは思ってしまう。

こんなところでそんな服を着ていたら目立って仕方ない。


——隠密行動とはどう言うことなのか、一日講義してあげたいくらいだわ。


「あんた、一体何をしてるの! 宮殿を守る任務は?」


だが、ユキコが話し終わってもカントは答えてくれない。

ユキコは思い出す。そういえば、話せないんだった。

さっきまで普通に会話できていたから忘れていた。


「声はまだ、もどってないみたいですね。

 掠れた婆さんのような声だ。

 だが、何をおっしゃいたかったかわかりますよ。

 私は宮殿からあなたとユウトを捕まえる任務を仰せつかっております。

 おとなしく、ユウトを返し、あなたも宮殿に戻ってください」


「いやよ」


ユキコは首を横に振る。そして、さりげなくエルザのそばに寄る。


——ちょっとごめんね!


ユキコは心の中で謝りながらユウトの手を取る。

ユウトからEEが流れ込むのを感じる。

体の内部に残っていた違和感が徐々に解消されていく。


——よし、これで喉は回復した。もう人の声が出せる。

いや、冷静になれ私! まだ喋れないわ。

ユウトの“ギフト”、カントにバラすわけにはいかないわ。


「へぇ? その獣たちと手を組んだんですね?なんだかめんどくさそうだな。

 だが、備えあれば憂いなしとはこのことです。みなさん、お願いします」


カントがパンパンと手を叩くと草むらの中から黒い服に身を包んだ集団が現れる。

 

その姿を見たユキコはひっと一歩下がると内心、焦りつつ考える。


『もしかして、王直属私兵集団ゴースト……?』


噂に聞いたことがあった。

“ギフト”の使えない孤児たちを集めて、鍛え上げられた王直属の暗殺部隊、ゴースト。

“ギフト”使いとの戦闘に特化し、戦闘技術によって”ギフト“を使っているような効果を生み出す。

殺された人間の中には殺されたことに気づかなかった者もいると言われる手練れの集団。


存在そのものが疑わしく、確証を得られないことから、いつしかゴーストという部隊名がついた。

そんな集団を投入してくるなんて!


ユキコのそんな表情を見て、カントはユキコがゴーストの存在を知っていることに気がつく。


「へぇ? 姫様、察しがいいですね?

 驚きました。まさか、ゴーストの存在を知っているなんて。

 優秀な部下をお持ちのようだ。

 ですが、知っているなら話が早い。

 悪いが、話し合いの余地などないんです。

 さっさと捕まえさせてもらうよ」

 

カントは指を鳴らす。途端にゴーストのメンバーは剣を抜くと、ユキコ、エルザに向かって走り出した。

 

キコは覚悟を決める。ここで戦闘すると言うことは宮殿に反旗をひるがえすと言うこと。

だが、それでも、たとえそうなってしまったとしても、私の計画にはユウトが必要!


『身体強化! レベル3!』


ここまでの身体強化なら人相手に一撃で殺してしまうことはないはず!

ユキコは目の前に迫る男の剣をひらりとかわすと拳を叩き込む。だが手応えが少ない!


『受け身!』


男は拳を受ける直前に身を引いていたのだ。

有効なダメージは与えられていない!

ユキコは次から次に迫って来るゴーストの人間を、躱し、殴り、蹴り、投げ飛ばす。


「ああ、もうキリがない!」


背後ではミヤコがエルザから降りて戦っている。

どこに持っていたのか一本の棒切れを振り回している。

かなり強いらしく、一撃でゴーストの隊員をノシている。

まるで吸い込まれるかのように棒切れが人の弱点に打ち込まれる。

ユキコはその戦闘スタイルに驚く。

流派が全くわからず、動きに無駄も多いのにいつの間にか周りにいる敵が減っている。


「ふーん、やっぱ平の隊員じゃ敵わないか。

 お姫様はなかなか強いって聞いてたけど、そっちのお姉さんも強いとわね」


ユキコは最後の敵をぶん殴り、気絶させると後から出て来た二人を見て、ゴクリと唾を飲み込む。

どうやら真打の登場らしい。

一人は巨大な筋肉を見せつけるような短髪の男で背中には大きな剣を背負っている。

もう一人は華奢な女で長髪を後ろで一つにまとめ、腰には地面にまでつきそうな長い剣をぶら下げている。二人とも黒い騎士団服をピシッと着こなしている。

月明かりを背に受けている二人はユキコの目にはまるで黒いオーラでも纏っているかのように見えた。

ユキコの方には女の方が近づいてくる。


「とりあえず私はガスって名乗っておこう。

 私、この部隊の隊長をしてる。どうぞよろしくね、お姫様?」


ユキコはぺこりと頭を下げるだけにとどめる。今は喋れない。


ゴーストとの戦闘が始まる…!

読んでいただきありがとうございます。


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