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人間原基  作者: 黒鍵猫三朗
第一章 今日と同じ明日がいいですか?
22/50

3−3

ミヤコの前には土が舞い、ミヤコは腕で顔を覆う。

そこへトラは襲いかかる。

間違いなく首に命中する、会心のタイミングだった。

だが、トラのその一撃はミヤコの持っている枝によって止められる。


「甘い。私はすでにあなたをロックした。逃げられないわよ」


そう言うとミヤコはトラが噛み付いたままの枝を、体全体を使って大きく振った。

トラは噛み付いたまま振り回される。

慌てて噛みつきを解くが、ミヤコはそれすらも読んでいた。


「逃さない」


枝は正確にトラの脳天を狙いすましている。

トラは体をひねって顔に向かっていた枝を避ける。

次の瞬間、振り下ろされスキができるはずだったミヤコはすぐさま枝を振り上げる。

この一撃もトラの頭を正確に狙っている。

トラはこれも躱す。

だが、ミヤコは次々に枝での攻撃を繰り出す。

トラはすでに防戦一方になり焦りが見え始める。


恐ろしいことにミヤコの攻撃が全てトラの頭、それもアゴか脳天と言う弱点を正確に狙っており、トラは肉を切らせて骨を断つ作戦がとれなかった。


ミヤコはそんなトラに対して次々に枝の一撃を繰り出す。

トラは虎視眈々とチャンスを伺っていた。

ミヤコの一撃が少し大ぶりになったところを狙って前足で枝を払うと、後ろ足で跳躍、ミヤコに一撃くらわそうと素早く近づいた。


しかし、ミヤコはヒラリと後ろにバック宙を決めるとトラが攻撃を外して前足を地面に置くタイミングを見計らって、再度急接近。やはりトラの頭を狙う。


「もらったわ」


「ガルルルルル!」


トラはミヤコの枝を避けれないと直感する。

ダメージを軽減させるため肩で攻撃を受け止めようとする。


「そうはさせないんだな〜!」


エルザはトラの上にのしかかると頭を固定する。ミヤコの枝は脳天に直撃する、その直前。


「参った!」


トラは叫んだ。ミヤコはトラの毛に枝が触れるか触れないかと言うところで枝を止める。


「いきなり襲いかかって申し訳ない……。実は診て欲しい仲間がいるんだ!」


トラはそうまくし立てる。ミヤコとエルザは顔を見合わせる。


「なんで襲って来たの?」


「今から案内するところには私のようなトラがたくさんいます。

 もし、治療がうまくいかなかった時、襲いかかられないとは限りません。

 生半可な方では死んでしまわれますので……」


ミヤコはため息をつく。

はぁ。なるほどね。訪問診療なら木の実三倍だよ?」


「構いません。お願いします」


ミヤコはログハウスの方を振り返ると叫ぶ。


「クリス! 留守番お願い! 訪問診療してくる!」


「かしこまりました! 少しお待ちください!」


そういうとクリスは家の中からミヤコのカバンを持ってくる。

布で作った肩掛け式のカバン。

大容量でありミヤコの簡易的な治療用の医療道具が詰まっている。


「暗くなる前にお戻りください!」


クリスはぺこりとお辞儀をしてログハウスの入り口を閉めた。

扉には本日の診療は終了しましたと書かれている。

ここの患者で文字を読める者はいないが、エルザが書いとけと言うので書いた文字。

これを読める生き物が来たなら殺すだけなのに。


トラの案内でミヤコたちは森の中にある茂みの奥へと連れていかれる。

元のサイズに戻ったエルザはミヤコの肩の上でご機嫌である。


「やれやれ〜。まさか腕試しだったとは〜。私、出てくるべきじゃなかったね〜」


「いえ、お二方同時にご招待するつもりでしたし、問題ありません」


「ジョエルくんもなかなかだったよ〜。うちのミヤコの攻撃をあんなに躱すなんて!」


トラはジョエルという名前だった。

態度もとても紳士的であり、突然襲ってしまったことを本当に申し訳なく思っているらしく、報酬を必ず上乗せして支払わせていただくと譲らなかった。


「ミヤコさんの攻撃、驚きました。私の弱点をああも正確に狙う技術。

 恐れ入りました。

 どんな訓練を積んだのか、差し支えなければ教えていただきたいものです」


ミヤコはうーんと頭をひねる。


「訓練という訓練はしてないですよ。言うなれば見よう見まねというか……」


ミヤコの代わりにエルザが答える。


「ミヤコの記憶はある時期から前の出来事が抜け落ちちゃってるみたいなんだよね〜。

 覚えているのは森の中に素っ裸で寝っ転がってたところを私が助けたところかららしくて。

 剣術自体が最初から強かったんだけど。

 もっと、すごいのはミヤコの“ギフト”の方ね」

 エルザはミヤコの顔を見る。


「必中。狙ったところに当たるっていう“ギフト”。

 空気中に漂うEEによって狙いがずれてしまう要素を全て排除するの。

 もっとも使い方を間違えると自分の腕とかも狙いがずれてしまう要素とされてしまうから危ないんだけどね」


「なるほど……。そんな“ギフト”が……。あ、こちらです」


トラの案内で入った茂みの中では、一匹のトラが三びきのトラに囲まれて寝込んでいた。


「やっと来たか。遅いぞ、ジョエル」


「すみません。なかなか了承していただけなかったもので」


ジョエルはさらりと嘘をつく。

どうやら、ミヤコの実力試験はジョエルが独断で行なったものらしい。

ミヤコはそんなジョエルに話を合わせる。


「申し訳ありません。

 トラの方から依頼を受けるのが初めてだったもので。それで、どうされたんですか?」


「こいつが今日、そこらへんを歩いていた人を襲って食べたんだ。

 そしたら、急激に体調が悪くなって、ついには動けなくなっちまったんだ」


「なんと。人なんぞ食べるから……」


ミヤコはトラに心底同情した声音で話しかける。


「とにかく、まずは手製の解毒剤を処方しますから。それでしばらく様子を診ましょう」


すると寝込んでいるトラが牙をむき出しにして言う。


「確実に治せ。様子なんて見るまでもなくさっぱりと治すんだ」


「無理です」


ミヤコはあっさりとトラのいうことを却下する。

カバンから薬草や木の実、乾燥させたきのこなどを取り出すと、お手製の小型石すり鉢とすりこぎ棒でゴリゴリと細かくし始める。


「ダメだ。すぐに治せ」


トラはそうして威嚇するがミヤコは無視して作業を続ける。

ミヤコが返事を考えているような雰囲気にも見えるため、周囲のトラは声を挙げ損ねていた。


「残念ながら私の実力ではパッと元に戻すことなどできない。

 でも、最大限努力する。

 最大の治療効果を得るためには患者さんの協力が必須なの。私を信じて……!」


トラは黙る。ミヤコは作業を続け完成させると、すり鉢の中に持って来ていた水筒から水を注ぐ。

丁寧に溶かすとすり鉢の中は濃い緑色になっていた。


「飲んで」


ミヤコはその液体をトラの顔の前に持ち出す。

トラは最大級の嫌そうな顔をするとミヤコが流し込むままに薬を飲み込んだ。


「おえぇぇぇ。なんて苦いんだ……」


「人なんか食べたから。反省なさい。人肉ほど害のある肉はないわ」


「……わかった」


「とにかくしばらく安静にして。私もしばらく側にいるから」


ミヤコはそういうとトラのそばに座ってお腹をさする。

体調を崩していたトラはただでさえ体力を消費していたためか、ミヤコがお腹を撫で始めてすぐ寝息を立て始めた。


「すごいな……。さっきまであんなに苦しんでたのに……!」


ジョエルは驚きを隠さずにミヤコへ賞賛を送る。


「効いたみたいでよかった……。一応夕方まで様子を見るわね」


「はい、ありがとうございます。それにしても、人肉は私たちに毒なんですか……?」


「ええ。そうね。説明しておいた方がいいかしらね」


ミヤコはエルザを見据える。エルザはいいんじゃない?と言わんばかりにあくびをすると、ミヤコのトラを撫でていない方の手にすり寄って撫でさせる。


「私たちは “ギフト”が使えるわよね。

 別名Given Role(与えられた役割)とも言うけれど。

 この“ギフト”の源になっているのは?」


「Energy Element. すなわちEEだ」


ジョエルは即答する。

どんな生き物でもEEを使った“ギフト”を与えられる。

それは他の生き物を襲うことで生きている種も、襲われる種も同様である。

時に“ギフト”のおかげで自然界の食物連鎖が逆転してしまうこともある。

ジョエルも一つ“ギフト”を使うことができる。


「正解。でも、いつからかはわからないけれど、人に宿るEEは変わってしまったらしいの。

 理由も経緯も全くわからないけれど、突如、人のEEは変質した。

 そして、人は世界で最強の“ギフト”行使生物となったの」


読んでいただきありがとうございます

人は一体何をしたのか…??


ブクマ、評価、待ってます!!!

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