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人間原基  作者: 黒鍵猫三朗
第一章 今日と同じ明日がいいですか?
16/50

2−4

ユウトはガスが上段から振り下ろしてくる、その剣に向かって枝をぶつける。

ここまででユウトはひとつだけ仕掛けをしていた。

ガスの剣戟を枝の一部で受け続けたのだ。

その部分には他の部分より剣によって削られ壊れやすくなっていた。


ユウトの狙い通りとなった。

枝はガスの剣戟を止めることなく、スムーズに折れる。


「治れ!」

 

ユウトは手袋を外した左手を添える。

枝は一瞬で元どおりの形に戻る。

戻ると言うより折れた部分から全く同じ形をした枝が生えてきたと言う方が正しいだろう。

吹き飛んでいった枝の先端はすうっと消える。

ガスの剣戟をゴーストが通り抜けるが如く突破する。


ユウトはガスの懐に入り込むことに成功した。


ガスが驚きで目を見開く。

ガスは自分の剣戟で前に進んでいる。

避けきれないと判断した彼女は左腕を犠牲にする。

ユウトの枝がガスの左腕にあたり、ガキィンと高い金属音が響く。

左腕に籠手を仕込んでいたようだ。


そして、空振りした剣を無理に戻すとユウトの心臓に狙いを定める。


「惜しかったな!」


だが、ユウトに焦りの表情はなかった。


「あなたもね」


ガスは再度驚く。

ユウトの左手にはいつの間にか銃が握られていた。


「EE銃。EEの爆発で鉄の弾を飛ばす。

 込められる弾倉は一発だけだが、あなたの頭を吹き飛ばすには十分だ」


自分の命も危険にさらされていたと言うのに、ガスは嬉しそうに笑うとユウトの顔を見る。


「相打ちか。だが、なぜわたしを殺さない?」


「私は医者です。殺すことを生業としていませんから」


「それだけ?」


「それだけです」


「ふふ、ふふふふふふふふふふ」


ガスは声を上げて笑い出す。

そして、何やら満足げに頷くとばっとユウトと距離を取った。


「ちなみに、どこに銃を隠し持ってたんだ?」


ユウトは両手を広げてはぐらかそうとする。

だが、ガスはニヤリと笑って言う。


「身体中にバラバラに仕込んでるんだな?」


もう、ユウトの持っている“ギフト”について、だいたいバレたらしい。


——おそろしい観察眼だな。


「どうでしょう」

 

だが、ガスはその返事だけで良かったようだ。


「なるほど。つまり、あなたはユキコ姫の……」


最後の方は聞き取れなかった。

だが、ガスはユウトにウィンクすると言う。


「次は正々堂々、決闘しましょ」


「もう二度とごめんですね」


ガスは影のようにすっと暗がりに溶け込むと、消えてしまった。


「なんだったんだ……。俺は結局濡れただけじゃないか」


ユウトはびちゃびちゃになってしまった手袋を左手にはめ直す。


「濡れちゃった手袋ほどもう一度つけたくないものはないな。

 あ、靴下も同じことが言えるな」


ユウトは濡れた服をパンパンと払って簡単に水気を飛ばした。



宮殿の中はとても静かだった。

どうやら今日は来客などほとんどないらしい。


赤い絨毯が敷かれた廊下。

絨毯の端に施されていた金色の刺繍はこの前とは違い、庭に咲いていたアルカリの花になっていた。

アルカリの花の花言葉は『逆境を乗り越える涙』。

この花は塩基性の強い土壌でもぐんぐん育ち、綺麗な花を咲かせる。

そのことから連想されついた言葉だろう。

ユウトはアルカリの花がだんだん好きになりつつあった。


エレベーターに乗る。

いつもならエレベーターにいるはずのチコもいなかった。

自分でエレベーターを操作しユキコの部屋がある階のボタンを押す。


エレベーターは、ゴウンと低い音を立てて登る。

チーンと音がなり到着したことが告げられると扉が開く。

ユキコ姫の部屋の前、リビングにも人がいなかった。

ユウトはいよいよ不安を感じる。


「なんなんだ……?」


ユウトはとにかくユキコ姫の部屋の前まで行くとノックをする。


「ユキコ姫、ユウト・エリュシダールです。

 本日の診察に参りました。

 また、ご相談したいこともあるのですが……?」


だが、返事はない。


——約束の時間より少し早くきてしまったことが問題か?

——約束の時間より三十分早くきてしまったが……。


「すみません、失礼します!」


後ろから現れたのは皿一杯に切ったキャベツを乗せたチコだ。

彼女はユウトの前を走って通り過ぎるとすぐに部屋の中に入る。

ユウトは一瞬だけだったが、部屋の中の様子を見ることができた。


「なんで、あんなにキャベツが散乱してるんだ……?」


バタン! と閉められた扉。

部屋の中の匂いが溢れてくる。


「いつもの油の匂いとは別に、何の匂いだ……?」


すると、部屋の中からサコが現れる。

随分と疲れた表情を浮かべている。


「サコさん。ユキコの検診にきました。中に入っても?」


「ユウト様、本日はお引き取り願います。大変申し訳ありません」


「何か新しいペットでも飼ったのでしょうか?」


ユウトは前にユキコが見つけて来たうさぎを思い出す。

ユキコが覗き込むと怒り狂って襲いかかって来た野良うさぎ。

ユキコは顔に思いっきり引っ掻き傷を作っていた。

俺が治してあげると、その隙を狙って俺の手を引っ掻いて来た。

その時の傷が痛む。


「いえ、そう言うわけではないのですが、姫様はしばらくあなたとお会いにならないそうです」



ユウトは自分の後ろに突然、崖があるかのように感じた。

その崖は底が見えないほど深く、光の届かない部分が黒く、どんな物でも飲み込んでしまいそうだった。


「それは、どう言う意味でしょうか……?」


「言葉通りの意味でございますが?」


サコは不思議そうにユウトのことを見ている。

まるで、そうなることが当然であったかのように。

まるで、ユウトの方がおかしいと言わんばかりに。


「あ、いや、その、体調が悪いのであれば、私が診ますが……?」


「いえ、本日はお引き取りを」


サコはぺこりと頭を下げると部屋の中に下がってしまった。


「まっ……!」


バタンと扉は閉まり、ユウトはリビングに取り残されてしまった。

崖はもうかかとのところまで来ていた。

谷底から何かの唸り声すら聞こえる。


「俺は、必要ないのか……? ユキコ……?」


足元の地面はついになくなった。

重力に従って落ちていく。

下へ下へ。日の光が届かなくなるまで。

真っ暗な崖の中で希望が感じられず、体の中に絶望のみが濃縮されてゆく。


そこへ突如、肩に手を置かれる。


「はっ!」


ユウトは忘れていた息を吸い込む。

勢いよく後ろに振り返ると、そこには初老の男が立っていた。

髪の毛は白くなり始め顔にはシワが現れている。

だが、その顔には過去に女性からの黄色い声を集めていたことがわかるような面影がある。

物腰柔らかで優しそうな雰囲気を感じさせる。


「専属医師のユウトくんだね?

 私は魔法科学大臣を担当しているルビロトだ。

 君に話して置かなければならないことがあるんだが……」


しかし、ルビロトは振り返ったユウトの顔を見て言葉を失う。


「なんて顔をしているんだね……?」


「……すみません。ご用事はまた今度うかがいます……。今は話を聞く余裕がありません」


ユウトの暗すぎる雰囲気にルビロトは少したじろぐ。


「そ、そうかね。まぁ、急ぎの用ではない。

 明日か明後日に私の部屋に来てくれ」


「はい……」


そう言ってルビロトはいなくなった。

ユウトはしばらくユキコの部屋の前から動けなかった。


扉が開くんじゃないか。

チコとサコが迎え入れてくれて、ユキコが偉そうに座っている。

自分のことを女扱いしていないだのなんだのとユウトに文句をつけ、サコがなだめながら紅茶を淹れる。

チコは櫛を使ってユキコの髪をとかしている。

小さいが楽しい空間。


「君も……君もそうなのか……!?」

読んでいただきありがとうございます!!

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