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 プリメラは今度こそ返答を躊躇した。


 『人類を滅ぼして欲しいのか』その言葉に対する答えは間違いなく『はい』だ。それはやらなければやられるなどという消極的な理由ではなく、今まで積もり積もった憎しみから出てくる積極的な答えである事もプリメラは理解している。


 だが目の前の男のその言葉はプリメラに対する問いかけではなく、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえたのだ。人類を敵にするかどうか悩んでいるかのようなそんな風に。誰よりも人を殺してきた殺人鬼がなぜそこでそんな反応をするのか、プリメラにはまるでわからない。


 わからないから躊躇した。


 そしてその数秒のうちに、意識の表情には感情が戻ってきていた。


「ハハハ……ゲハハハハハ‼」


 そんな獣のような理性を感じさせない笑い声が部屋の中に響く。しかしそれも長時間は続かなかった。


「話の腰を折ってしまったのは悪かったな。続けろよ」

「……四百年前までは黒と白の戦争は拮抗していたのです。勇者達と魔王達の選出がおよそ百年という長い間隔をおいて発動するという事もあって、どちらの側が一方的に有利に全てを進めるという事もありませんでした」

「それが四百年前に変わったと?」

「はい。その時の勇者の一人が例年と比べて突き抜けて強かったと、記録には残っています。当時の記録によれば、魔王三人がかりでようやくその人物一人を相打ちに持ち込んだほどだと」

「三人で一人ね。しかし一応は打ち取れたんだろう」


 プリメラは頷きながらも表情を暗くした。


「しかし、それでは終わらなかったのです。その百年後、そしてその百年後も、偶然ではないと主張するかのように強力な勇者が現れ続けました。魔人側が何かがおかしいと気付いたのは三回目になってようやくでした」

「随分と気付くのが遅かったんだな」

「仕方のない事なのです。百年もあれば世代は三、四世代は変わってしまいますし、二回までなら不運だったのだと考えてしまうでしょう。ですが――」


 やはり遅かったのかもしれません、とプリメラは前言撤回する。


「三回の連続した大敗で魔人側が尋常ではない被害を受けていました。そして百年前の戦争の時、人間が『英雄召喚』の儀式を行っていたのだと判明した時には既に、それを妨害する力が私たちには残っていなかったのです」

「『英雄召喚』とはまたおあつらえ向きの魔法があったもんだ」

「まったくです、としか言いようがありません。意識様は先程人間の召喚など空想上の物だとおっしゃいましたが、我々にとっても知性の高い生物の召喚は不可能だと思われていた事ですから」

「だが、俺は召喚できている」

「それは奇跡に近い事なのです」


 どこか誇らしげに、プリメラはそう言った。


「私たちサキュバスは人に近い姿をしていますから、本来の力を発揮できなくとも白の国の領内に忍び込むことが出来ました。長い年月がかかりましたが、私たちの一族はその術式の概要を盗み出すことに成功したのです」

「なるほど――な。しかしそれならば俺のような人間を召喚せずとも、実力のある魔人を召喚すれば良かっただろう。他の世界からも召喚できるならば、いくらだって候補はいたはずだ」

「それは不可能だったのです。我々魔人の中で最も魔術に造詣が深い者を集め解析をさせたのですが、この術式の完全な理解には時間が無さすぎました。わかったのはこの術式が近しい世界から人間を召喚できるという事一点、つまり魔人を召喚するようには出来ていなかったのです」

「時間が無いのならば別に今年じゃなくても百年後を待てば良かっただろう。お前らの立場から言えばだが、人間を召喚するリスクは計り知れないはずだ」

「百年後など無かったでしょうから」


 悲痛な面持ちで、プリメラは答える。


「百二十八のうち六十四あった黒の国はもう――二国しか残っていません。此度負ければ、それは魔人の滅亡を意味します。どのような手段を用いても、どれだけの危険を侵そうと、勝ちの目がついえることはあってはならなかった」

「人間に頼っても――か。しかし人間の英雄を召喚する魔法で召喚された奴が人間に利益をもたらすとは思わなかったのか」

「改良は難しくとも改悪は容易いという事です。私たちは召喚の対象を人間という枠組みの中でいかに条件を変更するかに注力しました。そして――『最も人間を殺した人間』を召喚して魔王に選出することとしたのです」

「いや、まて。それはおかしいだろう」


 そこではじめて、意識が異を唱える。今までの飄々としたつかみどころの無い態度ではなく、純粋に疑問があるという風だった。


「おかしい、ですか? しかしこの条件は何人もの魔人が意見を出しあって決めたものです。できるだけ強く、魔人を味方する可能性が高く、人を殺すことにためらいの無い人間となるとそれくらいしか――」

「――違う、そこじゃない。俺がおかしいと言っているのは『最も人間を殺した人間』として俺が召喚されているという事だ」

「どういう――意味でしょう? 意識様を召喚する際、他に『十一人』同程度に人間を殺した人間がいる事は確認できましたが、最も殺した方はそちらの中に居るとお思いで?」

「いや、そんな程度の話じゃ無いんだ。『十一人』――俺はおそらくそいつらを知ってるし、そいつらの内の誰かが俺より人を殺していても驚かないが、そうじゃない。俺たち十二人全員足し合わせても比較にならないほど殺した人がいるはずだ」


 それだけ言うと、意識は深く考えるような仕草で『まぁあの人が召喚出来るとしたらそれこそおかしな話なのか』なんて呟いて、それで一人で勝手に全て納得したようだった。


「それはまぁいいか。しかしそれよりもだ、その十二人の中から俺を召喚したのはなんか基準があったのか? 自分で言うのもなんだが、俺を選んだのは正しい判断だったよ」

「いえ、召喚前にわかったのは全員が殺人鬼である事くらいで基準もなにもありませんでしたから」

「ランダムか。ならお前らは本当に運が良かった、と判断するべきだよ。何せ俺は十二人の『殺人奇術師』の中で最も大殺戮に向いている人間で、最も話の通じる人間なんだから」

「運が良いというのは喜ばしいことです」


 運――それはどれだけあっても今のプリメラにとって足りない物だ。


 運がなければ英雄召喚術式を盗み出すことは出来なかった、それを発動させる行程だって一歩間違えれば失敗以上に悲惨な末路が待っていたかもしれない。


 人を召喚できた。

 それが条件通りの人物だった。

 その人物が話の通じない狂人ではなかった。


 だけどまだ足りないと思ってしまう。まだ――


「プリメラ様、他の王達の準備が整ったそうです」


 メイドの一人がプリメラにそう告げる。耳打ちするわけではなく、意識にも聞こえるような声量でだ。意識を相手に隠し事はしないと決めているためにそうしたのだが、それを聞いて意識が何らかの反応を示すことは無かった。


 もっとも、この察しのいい男は既にその準備が何のための物なのか予想が付いているのかもしれないとプリメラは思ったが。


「意識様。私たちの現状は説明した通りです。この状況を打開するには誰か強大な力を持つ人物にリーダーとなってもらうしかありませんでした。誰よりも人を殺したあなたならば、誰よりも多くの人を殺せるに違いありません。だから、私たち黒の国の王として戦ってはいただけませんか」

「誰よりも殺してはいない。だけど、いいだろう――人類はどのみち滅ぼすつもりだったんだ」


 それは本気か冗談かわからない言葉だったが、プリメラはそこで胸をなでおろした。


「では意識様。あなたを魔王とする為に必要な事がありますので、どうか付いてきて下さい」

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