目覚まし時計
どうも初めまして、今回投稿したのは過去に書いた作品です。
朝日が昇る。
それはとてもきれいな朝日だ。
ピーピーピー、と目覚まし時計が部屋中にやかましく鳴った。
「ん? もう朝か?」
気の抜けた顔をした男はやかましく鳴る目覚まし時計を止め、ゆっくり目を開けた。
男の名前は、長谷川野市。
よく見かけるような普通のサラリーマンだ。
「もうこんな時間か!」
野市は目覚まし時計の時間を見て、飛び起きた。
時間は十時。
既に会社での仕事は始まっているところだ。
「やばい……! 課長にまた怒られる」
野市は真面目だが、仕事のできない人間だった。だからよく上司に怒られていた。
なら、せめて遅刻はしないようにしよう、と野市は誓っていた。
「遅刻は絶対しないって、あれぼど誓ったのに」
ぶつぶつと独りで自分に言い訳をしながら野市はスーツに着替えていた。
「よし、行ってきます!」
野市は玄関から飛び出した。
全力疾走で駅に向かい、急いですし詰め状態の電車に飛び乗った。
電車の乗客は子供連れの大人ばかり。
そして目的の駅に着くと、狭く熱苦しい中をくぐって電車外に出る。
駅から出た後は、ただ全力で野市は走る。
走って五分ほどで野市は会社に着いた。
野市は建物の中に入り、仕事場である五階に走った。
「おはようございます」
仕事場に着いた野市は挨拶し、自分の仕事場に着いた。が、仕事場にいる人が少ない。
「俺だけが遅刻じゃなくてよかった」
野市は仕事場に人が少ないことにホッとして、デスクの上に昨日のやり残した仕事に関係する書類を出した。
「野市君、おはよう。昨日頼んだ書類作ってある?」
野市に怒り顔で迫る課長。
「はい、あります」
少し怖気付いて課長に書類を手渡す。
「ご苦労さん」
課長の顔が緩み、自身のデスクに戻っていく。
「遅刻のことを言われなかったけど、まぁいいか」
少し疑問に思った野市はそのまま仕事に打ち込んだ。
しばらく書類を作っていると時間は昼の十二時を過ぎ、お昼休憩の時間となっていた。
野市はお昼休憩をしようとするところに課長が寄ってきた。
「野市君、君の働く姿には大変見直したよ」
「ありがとうございます」
野市にとって上司に褒められるのはこれで始めてだった。
野市はうれしくなり、今までの仕事場での苦労が報われたような気分になっていた。
「今日は休みなのに本当にご苦労さん」
「休み?」
野市は驚き、課長に迫った。
「休みってどういうことですか?」
「休みは休みだよ。今日は祝日だぞ」
「課長はなぜ休日に?」
「忘れ物を取りに来ていた、それに君が丁度そこにいたから昨日の書類提出も兼ねてね」
「そうだったんですか……それにしても休みだったとは……」
「いや~君の休日でも働く姿は本当に見直した。これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
今日が休みと分かって、余計に仕事をした野市は後悔よりも満足感に浸っていた。
「野市君、仕事はそれぐらいにして、一緒に飲みに行こうかないか?」
「自分も行きます」
野市はかしこまって課長と一緒に飲みに行った。
「自分の目覚まし時計に感謝しないと」
野市は目覚まし時計に小声でお礼を言って、そのまま仕事場を後にした。