壱:混ざり合い、その先にあるもの。――終了。
壱パート終了です‼
お付き合いください‼
日時 四月十七。午後四時。 場所 第一能力混在学園教室棟一階能力部部室。
「白木君、今日でこの問題を解決しましょう」
今日は金曜日、したがって明日明後日は休日である。この能力部に担任の依頼として入ってきた「カンニング事件」を祝日挟んで解決させたくないと、佐伯は考えているらしい。
その考えは僕も正しいと思う。カンニング疑惑がクラスで発生して、その件に該当している二人の印象も悪くなっていく一方であった。早急に解決して、クラスの雰囲気を取り戻さなくてはならない。
「だが佐伯……どうやって犯人を見つけるんだ? あの二人の様子だと、今さらカンニングしましたって名乗り出そうにない感じだけど……」
いくら二人に問うても「やっていない」を譲らないのである。加えて、どちらが嘘を付いているに違いないのだが、その真剣さに嘘を暴き出すことが難であった。
「そうなのですが……」
佐伯は気に食わない表情だが、この問題に終止符を打つべく日々単独行動で頑張っているらしい。男子の僕より女子の私の方が有利だと言う考えは既に捨てていると思うのだが、それでも佐伯を動かすのは根にある正義感からなのかも知れない。
今日までに解決したいという焦りがこの部屋の雰囲気を急かしているようにも思えた。しかし、時計の針は何にも惑わされることなく一定の刻で進む。
「嘘を暴くような機材がこの部室に眠ってないのかしら……」
遂に佐伯は願いを吐くようになった。分かる、その気持ちは十分に分かる。だがな佐伯、そのような機材があったらこの部屋は取調室へと変貌して――
ガタンッ。
「……どうしたのですか? お手洗いですか?」
「大丈夫だ、生憎だが尿意は今ない。じゃなくて――」
僕はあまりのひらめきに思い切り立ち上がってしまった。そして自分の愚かさに一発殴ってやりたくもなった。――どうして気が付かなかったのだろうか。この学園にいるではないか。
「ウソ発見器……ちょっと、待ってろ佐伯! あ、それと例の二人をこの部室へと連れてきてくれ!」
「え、意味が――」
「説明は後でするから、よろしく頼んだぞ!」
僕は困惑する佐伯に吐き捨て急いで部室を飛び出した。向かう先は当然――生徒会室である。
日時 同日。 場所 第一能力混在学園特別棟二階生徒会室。
生徒会室って遠くない? 僕の呼吸はぜーぜーと荒い。部室から生徒会室までの距離は地図上でも遠いのだから当然の如く体感的にも遠い。実に、有酸素運動には適している。
「もしかして走って来たのかなぁ?」
「いや……生徒会室に入る前準備としてスクワット百回していました、はい」
「別に生徒会室はグリーンベレーじゃないんだよぉ?」
逆にグリーンベレーだとしたら、スクワット百回では済まないのでは? 言い返そうと思ったが、嘘に嘘を塗る行為はしたくない。ましてや、反省文を書きたくない。
「そんなことよりも定留――」
話を切り替えて本題へ。だが、世の中そんなに甘くないということだろうか。僕の切り出した話を聞こうともせず、定留は席を立ち書棚から一枚の紙を取り出して僕の前に置いた。
「……なんです?」
「なんです? じゃなくて……白木君。これ、反省文? 私、反省文を書いてねって言ったのに、論文でも発表するつもりなのかなぁ? 白木君が犯した校則に関することが二行で、残りは関係ない自然環境に関する白木君の自論だよねー」
定留はにっこにっこにーなのだが、声色は全然笑っていなかった。……普通に怖い。
「これは……そのあれですよ。僕が犯した罪による自然への悪影響について事例を出しながら順を追って――」
「……でぇ?」
「書き直します」
「はーい、お願いねぇ」
さすが恐るべし生徒会の方。生徒が犯した罪を徹底的に贖罪させるといった完璧な意識。僕も見習った方が良さそうだな、うん。
「それはそうと、白木君はここへ何しに来たのかなぁ? もしかして私がたまらなく恋しくて会いたくて来たのかなぁ?」
いえ、違います。いや、違わないか。
「定留に頼みがあって来たんだ。また、急な話になるが……定留の能力って言えば嘘を見破るようなものなんだろ?」
「うーん、確かにそんなニュアンスだけどぉ……それがどうかしたの? ――あ、もしかして白木君に好きな人が出来て、告白はしたけど返事は後日って先延ばしにされた挙句、なかなかその返事が返ってこなくて、あれ? 僕って本当に彼女の事が好きなのだろうか? 消しゴムを落として優しく拾ってもらったその場の気の迷いで思い切って告白してしまった自分に嘘を付いているのではないのだろうか。 あー恥ずかしい。定留に僕の気持ちが本物かどうか確かめてもらおうかなーぐっふ。――ってな、感じぃ?」
「……全く違います。てか、ぐっふって何ですか、僕のイメージってそんな感じなんですか?」
えへへ、違うのかぁー。そう、笑顔である定留の想像力に怖気づいてしまう。
「じゃなくて――」
僕は自分のクラスで起きているカンニング事件の話、それを解決するべく能力部に依頼が来た事、したがって解決するべく能力部が動いている事を定留に伝えた。そして、それを解決する術として、最後の砦として定留の(おいでよ、裏人格)の能力が必要であると加えて伝える。
それを聞いた定留の反応は好意的では無かった。
「でもそれって、解決って言うか……どちらかというと処刑になるのかなぁ」
僕の話を飲み込み、定留が吐き出した言葉は正しかった。定留の言う通り、これは解決ではない。必ずしもが悪なのだ。クラス全員仲良し理論の佐伯も十分に分かっているはずである。
現時点、クラス内で二人が敬遠されている中にこの問題が解決すると一人は敬遠継続確定なのだから。それでは意味がないのだ。しかし――
「それでもだな、定留……この問題は解決しなくてはならない。それに、全うにテストを受けた生徒もいるんだ。そいつがバカをみることがあってはいけない。……そうだろ?」
やはり、クラス全員が仲良しだなんて担任が唱えるように幻想の理想でしかないのだ。人間である僕たちは必ず罪を犯す。それを受け入れ、恥じないよう償えば良い話ではないか。
「うーん、でも……」
それでも渋い表情の定留に、僕はもう一つの可能性がある事を伝えた。そして、定留は笑う。
「白木君……君は面白ねぇ」
さあ、始めようではないか。結末はどうであろうと、僕は信じたい。
だた、それだけなのだ。
日時 同日。 場所 第一能力混在学園教室棟一階能力部部室。
部室には椅子がいつもより多く並べられており、そこにはカンニング事件に該当している男子生徒が二人、それを挟むように僕と佐伯が座った。教壇には定留が仁王立ちで立ち、窓際には担任がいつもより真剣な表情で寄りかかっていた。
「それでは決着を付けようかなぁ。 ……二人は、最後に何か言う事ない? 今、自首するなら多少罪を軽くに抑えてあげてもいいんだけどぉ、どうする?」
定留の問いかけに、二人は口を揃えて「やっていない」と動じることは無かった。該当していない僕ですら脈打つのが速い。それくらいこの部屋には色々な感情が張り詰めていた。
「まぁ、私には嘘が通用しないしぃ、カンニングは立派な校則違反だからぁ、その点は覚悟しといてねぇ?」
ごくりと唾をのむ。本当にこれで良かったのだろうか。なんて、意味がない事も思う。仕方ないのだ、これで良いのだ。僕は自分に言い聞かせた。
横目で佐伯の様子を窺う(うかが)が、今だけは外を眺めてはいない。ただただ、冷静な態度でそこに座っていた。
定留は大きく息を吸い込み、
「それじゃ、いくよー」
――そう、目を瞑った。
日時 同日。 場所 第一能力混在学園内。
部室がある教室棟から少し離れた所に設置されているベンチに僕と佐伯は腰掛けた。向かう道中に設置されている自動販売機で買ったカフェオレを体に入れる。程よい暖かさの風が草木を揺らし、それはお互いに触れ合い音を立てていた。
「……気持ちが良いですね」
喉が渇いていた分、一口が多く残り半分以下になり軽くなったカフェオレを隣に立て僕は「そうだな」と返事を返す。
夕暮れ時の学園内は昼時と違った雰囲気を纏い、僕らを巻き込む。加えて部活生の掛け声などが、今日の終わりを誘う。学園内にいるはずなのに、自室にいるような錯覚に陥る。
「佐伯……これはこれで良かったんだよな」
「――これで、良かったのです。私たちはちゃんと先生からの依頼を果たしましたよ」
今、隣に座る佐伯は何を眺めているのだろうか。眺めていた外に居る佐伯の視線は何を探しているのだろうか。僕に一つの色を落とした佐伯が眺めるもの、その先には何があるというのだろうか。
この結末は僕の信じた通り、言わば誰もが予想していなかったものとなった。定留の能力により二人の言っている事が嘘ではなく真実であると判明し、したがってカンニングなどそれ自体が起きていない事となった。該当していた二人もその事実には驚きの表情を浮かべていた。
同様に、その場にいた皆もそんな感じだった。ハッピーエンドで終わったのだ。この事実は新たにクラスで上書きされ、再び二人もクラスに馴染めるであろう。
そして、佐伯の唱えるクラス全員仲良し理論も一歩近づけた事になる。僕らに与えられた初めての依頼は良き成果の結果にて今日を持って終了となる。
「お疲れ様です、白木君」
「佐伯こそ、お疲れ様」
残りのカフェオレを全て飲み干して僕はベンチから腰を上げる。縮こまった体を伸ばすように、大きく背伸びして息を吐いた。
「なんだか、燃え尽き症候群だな……」
「そうですか? 私はこれからも頑張っていきたいと思っていますよ?」
佐伯もオレンジジュースを飲み干したのか、立ち上がり僕と同じく背伸びをして小さく息を吐いた。そして、佐伯は体を僕の方へ視線を向け優しく微笑んだ。
「――これからも頑張りましょうね」
夕焼け空が僕の頬を染めたのだと、そう思いたい。佐伯の眺める先に何があるのかは僕に分かることはないのだろうけど、それでも眺めている佐伯の横に僕は居たい。
口に出して言えない言葉を僕は次の言葉でかき消した。
「また、月曜日な」
「そうですね、月曜日また会いましょう――」
混ざり合った二つは何へと変わっていくのだろうか。くすんでいるのか鮮やかなのか、鮮明なのか朦朧なのか。願えるというのなら丁度が良い。双方を引き立て新たに存在する、カフェオレのように――。
今日はここまでにします!
壱パート終了です‼
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ネット回線を繋げたら、ちゃんと更新していきたいと考えていますので、
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