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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
始まりの色
7/53

壱:混ざり合い、その先にあるもの。――続・肆。

次話です。

日時 四月十六日。午後四時半過ぎ。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)教室棟(きょうしつとう)一階(いっかい)能力部(のうりょくぶ)部室(ぶしつ)



 いつも何かと音が響くこの能力部部室は、今静かである。それはなぜ故か。僕一人だからである。

「少し待っていて下さい」と佐伯がこの教室を去り、早くも三十分の時が過ぎていた。ガタンと閉まった扉を確認して、「さーて、僕一人になった事だし何をして暇を潰そうかな?」と心で弾んでみたものの暇潰しの道具が部室にある訳ではなく、結局のところ椅子に座り眼前の黒板とその上に掛けられているアナログ式の時計を眺めるだけの暇潰しとなった。……まじ、暇。

 そんな物音ひとつ立たないこの空間に置いて、やはり外の方からの音が入ってくる。

「おーい、ちゃんとボール見ろよ‼」「ドンマイ、ドンマイ‼ 次、頑張ろうか!」

 野球部だろうか、サッカー部だろうか、いやテニス部だろうか。どれかにしても元気の良い高校生の声は活気に溢れている。が、それに反して僕はこの時を無駄に過ごしているのだ。

「佐伯……遅くないか?」

 誰に問いかける訳でもなく、僕は独り言を吐く。少しでもこの空間に生気を与えてやりたい。

「この学園は思った以上に広いから道にでも迷っているのではないだろうか……いや、佐伯の事だしそれは考えるだけ無駄だと思うが……まて、それでも完璧な人間はいない。この学園に入学して間もない僕らが道に迷ってしまうのは仕方ない事であるのでは……はぁ」

 自分のため息で気が付く。独り言で更に自分を追い込んでしまった。佐伯、早く戻ってきてくれ。今ならウサギの気持ちが理解できそうだ。

 期待に乗せて視線を扉の方へ向けると磨りガラスに人影が写っていた。

「佐伯――」

 安堵感に乗せた僕の心情は言葉にして出てしまっていたようだが、ガラガラっと開いた扉から入って来たのは佐伯ではなかった。

「なーに、一人なのか? 君の話し声がするから佐伯と二人でいるのかと思っていたが……まさか、独り言を喋っていないと不安になるタイプ?」

 あ、先生。こんにちは。そうです、僕一人です。あと、そのニヤニヤやめてもらえますか? 僕、恥ずかしいです。

「何しにきたんすか……」

「何しに来たって……何度も言っているだろうが。私はこの部活の顧問であり、君たちの指導者だぞ? 部室に顧問が顔を出して疑問を抱くのはおかしなことだろ」

 顔を出すのはいいのですが、そう言って胸ポケットから煙草を出すのはどうかと……実際に言っても無駄な為に心の声で済ませる。僕……大人だね。

「あ、先生。そう言えば佐伯を見ませんでしたか? 部室を少し出ると言って、三十分以上経っても帰ってこないんですけど……」

「ん? 佐伯か? うーん、私は見ていないけどな……どうした、白木。ん、心配なのか? 佐伯の事が心配なのか?」

 窓際で煙草の煙を吐きながらニヤニヤするのやめてもらっていいですか? めっちゃ、腹立つんで。

「……いや、心配って言うか――何をしているのかな……と」

「何しているのかな……と。かぁ、――白木、いいか? 佐伯は女子なのだぞ。女子が少し出ると言って三十分以上経っても帰ってこないとなると、流石のお前でも想像が付くだろう? 本当にお前と言う奴はデリカシーもない、気の利かない男だな」

 あーい、すいませんでした。デリカシーもない、気の利かない男ですよ。でもですね、先生。教師という肩書を持っているのなら、服装くらいちゃんとしたらどうですか? なに、この後合コンでも控えているんですか? それならちゃんとガムでも噛んでいった方が良いですよ。煙草臭い女性とか、絶対にモテませんから。はい、気の利かない男からの忠告でしたー。

「佐伯はなぁ……うんこだ」

「絶対、モテないからな⁉」

 我慢の限界。突破してしまいました。しかし、担任は「何のこと?」と首を傾げる。もう、心の内を全て吐いてやろうかと唾を飲み込んだその時、背後から聞き慣れた声が入る。

「先生、どちらがデリカシーのないのですか。勝手に私をお手洗いに籠っていると決めつけるの、やめてもらっていいですか? それにですね、教室の扉はちゃんと閉めてくださいよ。話し声が廊下に漏れまくっています。私の虚像で作り上げられた羞恥話と、先生がこの部室を喫煙所として使っている事、お互いに首を絞める事になりますよ?」

 ここで登場、スーパーヒーロー。安堵が詰まった湯船に浸かった気分だ。はぁ、いい湯。

「顧問に向かってそんな口を利くだなんて……先生、嬉しいぞ」

 訳の分からない会話である。しかし、佐伯が戻って来たのならこの話は進むであろう。

「それならば佐伯、どこへ行っていたんだ?」

 僕は、やれやれと疲れ切った表情の佐伯に問うた。

「すみません、少しと言っていたのですが多少時間を取ってしまいましたね。実は、カンニングの容疑が掛かっているもう一人の有色の生徒と会ってきました」

「もう一人のって……透視能力者の奴か?」

「そうです、白木君。二人で押し掛けると強く意識させてしまうと思い、一人で詳しい話を聞こうと向かったのですが……やはりそれでも無駄足でした。俺はやっていない。もう一人の奴がカンニングしたんだろって……お互いに疑い合っているようです」

「……そうなのか。すまない、佐伯一人に仕事を任せてしまって――」

「いえ、良いんですよ。これは私が勝手にしたことですし……それに、男子の白木君が向かうより女子の私が向かった方が話してくれると思ったのですが……誤算でした」

 自分の愚かさに参ったのか佐伯は椅子に深く腰を降ろした。そんなことは無い、佐伯は佐伯の出来る事を全うしたまでだ。と、フォロー入れようとしたが、そう楽にはいかなかった。何故ならば、この部室にはもう一人いるのだから。

「佐伯、それは誤算と言うか追い込みが足りなかったと言うべきだな。確かに、男の白木が向かうより女の佐伯が向かった方が、相手も男なのだし多少口は滑りやすくもなるだろう。しかしだな、追い込みが足らない。そのきっちりと着こなしている制服をだな、胸元を見せるように大胆に露わにして、色仕掛けで攻めたら結果は変わっていたかも知れんぞ。――おっぱいだ。男はおっぱいに弱い生き物なのだよ。もう少しは頭を……いや、体を使え」

 最低だな、うちの担任。ここまできたら尊敬に値するレベルですよ、マジで。怒っているであろうと、恐る恐る佐伯を見ると、自分の胸元を見下ろし、

「……おっぱい」

 と呟いているではないか。何の会話ですかこれ。

「佐伯、真に受けなくていいからな⁉」

 慌てて僕は佐伯を再起動させようと言葉を掛けるが、胸を見下ろす佐伯の視線は変わらずのままである。

「先生、佐伯で遊ぶのは止めてもら――」

「白木君」

「……はい?」

「おっぱい……弱いの?」

 誰かこの部室をリフレッシュしてくれない⁉ 僕、嫌なんですけど‼

「な、なに言ってんだよ……? 佐伯、先生は冗談を言っているんだぞ?」

「何を言っている、冗談ではない。私は効率が良いやり方を――」

「ちょっと、黙ってて⁉」

 あたふたあたふた。僕は混乱が止まらない。そんなにも佐伯は役に立つ情報を持って帰ってこられなかった自分を責めているのだろうか。自分の不甲斐なさに「おっぱい」を責め立てるのだろうか。いやもう、おっぱいって何なのだろうか。

「答えて……白木君」

「答えてって……言われても」

 神様、僕は答えても良いのでしょうか。そもそも男って皆、おっぱいに弱いって当たり前の事ではないのでしょうか。それをわざわざ言葉に出して、自分が恥ずかしくなり赤面するといった何も生まれない何も変わらない空間を作り出しても良いのでしょうか。 当然、……否。ですよね……?

「佐伯……今日はどうしたんだ。いつもの佐伯じゃ――」


最後まで読んでいただきありがとうございます。


まだまだ、次話を更新します!

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