捌:夏、それはとても悠々と過ぎて行く。――続・弐。
次話投稿しました!!
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「それにしても夏の合宿なんて、思春期のお前らにとっては最高のイベントだな」
私が学生の頃は……と、担任は昔話を語り出す。それを後部座席に座る僕と佐伯は相槌を打ち聞いていた。
担任の昔話は楽しそうに聞こえる。今も昔もさほど変わらない合宿の定番をなぞっていたようだが、唯一の変化点を挙げるのなら――。
「まあ、その頃は私の名を呼んでくれる友人も少しはいたのだがな」
話のオチとして付け加えた塗り替えることの出来ない真実であった。
自虐ネタ。として担任は語ったのか分からないが、それでも僕らは上手に笑うことが出来ない。
それを察した担任は、
「……だが、お前らはそうやって楽しめる合宿になるか分からんからなぁ。窮屈な話し合いだけで終わる可能性もある――各々で楽しみ方を探すと良いだろうな。因みに、温泉もあるらしいぞ」
話題をすぐさま転換した。
「温泉か……何年振りだろうか」
僕はすぐに反応する。一刻も早く重い空気から逃れたかったのだ。
「私は温泉なんて生まれてから今まで入ったことないですよ。どうです、先生? 普段のお風呂とはどの様に違うのですか?」
「なんと珍しい奴もいるもんだな。んー、なんだろうか。普段とどう違うか分からんが、普段と違うことだけは浸かってみれば分かるだろう。あれだ、お楽しみってやつだ。良かったな、早々にして楽しみが一つ見つかったじゃないか、佐伯も――白木も」
「いや、僕は温泉経験あるんで、そこまで――」
「いやいや、お前が温泉に浸かることなんか誰得の楽しみなんだよ」
……強いて言うなら、僕自身ですが?
「まあ、よく聞け白木。なんとその温泉ってのは――」
そうして言葉を溜める担任。
ほほん、合宿場に温泉が付いている展開のお決まりですか。正しくそれは……混よk。
「男女ともに露天風呂らしい」
「絶対に無理なフラグじゃないですか、それ」
大量の水とか桶とか飛んでくるし、湯気で上手く隠れているやつじゃん。週刊少年的なやつじゃん。
「あはは、青春ってほんと青いなぁ」
運転手の高らかな笑いが車内に籠る中、僕はチラッと横に座る佐伯を見た。
頭上にはクエスチョンマークを浮かべて首を傾げているではないか。
そんな純粋っ子が顔を赤らめて桶とか容赦なく桶とか投げてくるんだよ……。
声には出さない想いを僕はひっそりと呟いた。
それから車は山道へと入って行く。集合場所であった学園から既に三時間という時を車の中で過ごしていた。もちろん、休憩も挟んでいるのだが日頃、車中に長時間居ることが無かった為か、体を思いっきり伸ばしたいと思い始めた。
「山道に入ったってことはもうすぐで目的地に到着するってことですか?」
「なんだ、トイレにでも行きたくなったのか? ――ったく、これだから白木は彼女が出来ないんだ」
どうしてだ。どうして純粋な質問に対してこうも心が痛むのだ。
……あ、彼女いないからか。じゃなくて。
「僕に彼女が出来ないとか、全く無関係だと思うんですけど。――いや、学園の施設だって話なのに立地場所が学園から遠いと思って聞いたんですよ」
「それは確かに私も思います。学園の施設だと言うのならもう少し近場に設立しても良かったんじゃないでしょうか……」
今日は普段より大人しい佐伯が温泉のくだりから久しぶりに口を開いた。この長旅、佐伯の顔色から考えるに乗り物酔いでもしたのだろうか。
「遠い、遠い、遠い。そんなのは運転している私が一番に思ってるさ。だけどな、学園側も金が無いんだろう。山奥に建てた方が何かと不利が少ないんだろうからな。――それにだ」
担任はブレーキをゆっくりと踏み、車を止める。僕ら以外の車が通りそうにもないが、律儀にハザードランプを焚いて担任は後部座席へと振り向いた。
「有色らが多数集まる施設なんか、危なっかしくてこんな山奥にしか作れないんだと。ここまでの道のりは生徒であるお前らには秘密だが、一つだけ教えてやる」
生徒である僕らには秘密――それを聞いてふと思う。
担任はここまでの複雑であった道のりを車に搭載しているナビゲーションを使わずにいたのだ。
なんせ施設であるのだから、地図上に載っていないことも無いのだろうが第三者に道を覚えさせない工夫だとするのなら辻褄が合う。
そして『一つ教えてやる』と言った担任が、
「ここは既に東日本であって、佐伯の出身地。言うなれば、無色の世界だ」
そう付け加えたことによって、僕はやはり有色であるのだと実感することになった。
未だ鮮明にならない僕の色であるが、再び発進させた車に揺れる佐伯の色は濃く一層深くなるのだろう。
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