壱:混ざり合い、その先にあるもの。――続・弐。
次話を投稿させていただきました。
お付き合いください‼
日時 同日。 場所 第一能力混在学園教室棟二階陸組。
やはり基本授業が行われている時とは違い、教室は閑散としていた。放課後の時間を使い友人と駄弁っている者、週番という職務を全うしている者、また、僕らが捜していた男も各々が各々のやりたいことをしている自由で溢れたこの教室に一人ぽつんと机に着いていた。
男の机上には教科書やノートが置かれており、シャーペンをすらすらと動かす様から勉強をしているのだろう。
「勉強熱心なんだな」
僕は空いている隣の席に着き、勉強中だという申し訳なさも感じたが男に話しかけた。が、男はこちらをチラッと見るだけですぐに視線を下に戻してしまう。
そりゃ、そうか……仕方ない事である。そこまで交友もない人間に勉強の邪魔をされたのだ――当然の報い。
「いつもこの時間は勉強しているのかしら?」
「あ、うん。そうだけど……」
おい、単に僕が嫌いなのか? ああ?
ともかく佐伯のおかげで男とのコミュニケーションを取る事に成功した。 ……代償に僕のメンタルは大半を削られた。
「……そう。それは良い事ですね。この学園、そこそこの学力が必要だって所がまたおかしな話なのだけれど……まあ、それでも自分の学力を気にしていない愚か者だっているのだし、その騒がしく動く手を止めて気休めに私たちとお話しをしましょう」
チラッとこちらを見た佐伯は、僕に啖呵を切っているのだろうか。いや確かに……僕は僕の学力をそんなには意識していないが、本気を出せば……そう、本気を出せば出来る子……だもん。
男は佐伯の誘いを受け取ったのか、手を止め大きく深呼吸をする。
「それで、話って……なに?」
「ごほん、話って言うのはだな――」
「君に聞いているんじゃない」
はーい、そうですよね。わっかりましたぁ。 ……ああ、帰りたい。
「同じクラスとは言え、あまり話したことがないのであれなのですが……」
佐伯はどの様にカンニング容疑が男に掛かっている事を柔らかに伝えるのか、多分言葉を模索中なのであろう、そこら辺がまた――
「いえ、やっぱり率直に言わせてもらいますね。 ――あなたにカンニングの容疑が掛かっています。ですので、詳しく事情を聞かせて頂きに来ました」
そこら辺がまた――佐伯らしいのだ。……ほら、見てみろ。男の表情が言葉に言い表しようのない程にぼけーとしているぞ。美術力が皆無の二条程に乏しい僕でも今なら、似顔絵の描き合いっこが出来そうだ。
「そうゆうこ――」
横槍を飛ばしてすいません、だからそうやって睨むの……やめて?
「そうゆう事です。――大人しく話をしてくれますか?」
睨まれて行動が縛られた僕の代わりに佐伯が口を開く。――僕、背景じゃね?
「はぁ、君らも僕がカンニングをしたと疑っているのか……それに、話を詳しく聞かせてくれって僕がカンニングを犯したと決まった言い方だし……そもそも僕を疑うのではなく、もう一人を疑うのが普通じゃないかな? ――確か、もう一人は僕とは違って有色だし、それも透視能力者なのだろう? 君らが普通の感性の持ち主だとするなら、僕に話を聞きに来るってこと自体あり得ないんだけど」
その饒舌な喋り方は完璧にカンニング調査を行っている僕らを怯えていない様子だと、僕は週番の仕事をせっせと一人で頑張っている可愛い女子生徒を手助けしながら、思った。
ありがとうございます。 いえいえ、一人で大変そうだったからさ。 手伝ってもらったのは嬉しいけど……。 けど……? 佐伯さんが白木君の事……今にも刺しそうなぐらいに睨んでいる……けど……大丈夫? あはは、大丈夫。 そ、それじゃあ、私……帰りますね、ありがとうございました。 気を付けてね(僕が)。
そそくさと逃げるように引きつった笑顔で教室を出て行く女子生徒を僕は、額から流れ落ちる変な汗を拭いながら見送り、大人しく着席した。
「いえいえ、お二人に平等な時間、話を聞くつもりですよ。ただ今日、調査初日があなたからだったというだけです」
冷静な対応に男は納得いっていないのか頭を掻き毟る。加えて僕はその冷静さに、背筋が凍っている。
「……ったく、僕がカンニングをするわけがないというのに――」
その根拠は言わずして男は机上の片付けを始め、学園指定の鞄に詰め込んだ。
「帰るのですか?」
「ああ、こんなバカらしい気休めは気休めにならないから。まだ、キットカットを食べている方がマシだ」
ハブ ア ブレイク って訳ですね。うん、分かります。僕、好きですもん。
「それに言っておくけど、僕だっていつまでもカンニング犯だと勘違いされているままじゃ堪らない。犯人はもう一人の透視能力者なのだから、早くに解決してくれよ。 それじゃ」
甘くない台詞とは裏腹に、ポケットから取り出したキットカットをパクッと食べながら男は教室を去って行った。
「……だ、そうだ。――それで佐伯、これからどうするつもりだ?」
「透視能力者……ですか。 ――調査は難航しそうですね」
いつもの癖、佐伯は窓の外を眺めながらそう呟いた。その間に、佐伯は何を思っているのか僕には分からない。考え事をしているのか、単に黄昏ているだけなのか。僕には一生、分かるはずのない事である。
「……お腹すいた」
しかし、そう小さく零した佐伯を横で眺めているだけで、僕はなんだか落ち着いてしまう。中学時代の思い出が思い出で収まるような経験をしていない僕にとって、そう言った日常的な光景に安らぎと似た感覚を抱いてしまうのだ。落ち着いた生活の中で、当たり前のように暮らしている人間を見るのが嬉しい。――なんて、世界を統括している主導者的台詞を僕が堂々と吐くことが出来るような立派な人間ではない事も十分に分かっている。――だが、良いのだ。
「ねえ、白木君。なにか、食べに行きませんか? 私、お腹が空いていたら誰振りかまわず八つ当たりしてしまうという能力を持っているので……面倒くさい事になりますよ?」
「それは能力って言わないんだがな……でもまあ、僕も空腹なのは確かだ。佐伯の誘い……乗ってやるよ」
嬉しそうに微笑んで佐伯は鞄を手に持ち、教室の出口へと向かう。つられて僕も鞄を肩に掛け、佐伯の後を追う。
それで良いのだ。僕から見える範囲のこの世界が、今こうも落ち着いているのならそれだけで、胸が弾んでしまうのだから。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少し期間があきましたが、これからはこのようなペースで上げて行こうと思いますのでお付き合い下さい!
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