漆:人の想いはそれぞれで、それぞれが幸せの在り方。――続・伍。
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お付き合いください!!
「政所に用事か……わざわざ、生徒会室まで足を運んでもらったが残念だ。政所は今、学園内を練り歩いている――わざわざ、来てくれたのに残念だ。ほ、ん、と、う、に、残念だ」
生徒会長の目は真っ直ぐ僕を見つめている。そこから読み取れることは『余計な真似を』と怒りの眼差しを向けているのだろう。
「……そうですか。ならば、政所を生徒会長の力でこの場所へ呼び戻せないですか? どうしても今、政所に会って話がしたいので」
「待て待て、君は政所のなんだ? 古くからの友人か? それとも恋人か?」
「……恋人ってなんですか」
僕は半ば呆れて応えると、生徒会長は『恋人』の説明を真面目にする。――いや、生徒会長。そう言うことを言っている訳じゃないんですが……ね?
「まあ、そんなのことはどちらでもいい。――ともかく、君はこの部屋に政所を連れ戻せと言いたいんだな? ずうずうしく、私の休憩の邪魔をして、名乗りもせず、一方的に要求をしてくる、そう言うことなんだな?」
「それじゃあ、まるで僕が一方的に悪いみたいな言い方じゃないですか――」
「悪いんだよ⁉」
生徒会長が必死になった所で、僕は自己紹介をした。今思えば、名乗りもせずに用件だけを済ませようとした僕が悪い。
ただ、言う通り名乗ったところで生徒会長の態度が一変したことに僕は『ずうずうしく』『生徒会長の休憩を邪魔して』『名乗りもせず』『一方的に要求をする』僕であった方が良かったのではないか。など、お互いの為にもそう思った。
「それだけが目的ではないのだろう?」
「いや、何度も言っているように政所に用事があって来たって言っているじゃないか……」
余りにもしつこいやり取りに、敬語など忘れてしまう。
「いーや‼ 絶対、何か企んでいるに違いない‼ そうでなければ、私のシークレットタイムにお前がここへ訪れる説明が付かない‼」
「――あの、マジで政所に合わせてくれないか? こっちだって暇で生徒会室に遊びに来ている訳じゃないんだ。頼むから――」
「話を逸らそうだなんて、そんなのお見通しなんだからな⁉」
それから一向に物語が進まない『無駄』と言う時が続いた。時間に換算すると余りにも短いが、体感的には三日は続けているような感覚に、僕は疲労困憊。それが滲み出ていたのだろう。
「さぁ、どうだ? そろそろ本音を出した方が身の為、能力部の為だぞ?」
「だから、どうしてそこまで能力部を懸念するのか――」
実際の所、生徒会とは仲良くやっていたつもりだった。定留だって、政所だって、丹川だって、多色な物語に濃く絡んできた生徒会のメンバーだ。そんな奴らの長である生徒会長こそ、今まで関わりが無かったが、関わりを持った瞬間にそんな態度をされる理由も筋合もない。
加えて、僕の反省文に痺れを切らしているのは定留だし、学園内ですれ違うと必ず笑顔をくれる丹川に、時折、能力部に顔を出しては佐伯に余計なことを言って追い出されている政所、生徒会に直接喧嘩を売るようなこと、思い返してもやってはいない。
ここ最近、『生徒会と能力部は学園を運営していくうえで重要な役割を担っている』と、担任が嬉しそうに煙草を吸いながら教えてくれたぐらいだ。
なのにどうして……。
僕の表情に困惑が加わると、この状況を打破する人間がノックもせず入って来た。
「会長、そこまでにしてあげたらどうですか? 白木もそろそろ泣き出しますよ?」
サワーッと爽やかな声色の主。僕が探し求めていたその爽やか人間は僕の横に腰を降ろして、
「白木は後で俺の方から叱っておきますから……ね?」
「――どうして僕が政所に叱られなくちゃいけないんだ? そもそも叱られる僕なのか?」
小声で政所に返すと、ウインクが返ってきた。『俺に任せとけッ』と言う訳なのだろうか。綺麗なウインクに少しばかりイラッとしたが、この状況が続くと思えば我慢も容易い。
一方、生徒会長は政所の言葉に口籠った。
「それと会長――悔しいと思いますが、能力部は確かにこの学園を円滑に進めて行くためには必要不可欠な存在。従って、仲良くしといて損は無いと思いますよ? 白木 月乃に佐伯 結菜――この二人だって学園では名が広まっています。いざこざを起こしては逆に生徒会が不利になる可能性だってゼロではない」
普段目にしない政所の真剣な表情に僕までその言葉達に飲み込まれてしまいそうになる。
「――頭の良い会長なら俺の言っていること、分かってくれると思うんですがね」
政所の挑発的に締めた言葉とニコッとした微笑みに、
「……分かった」
今まで意地でも僕を解放してくれなかった生徒会長。その一言で僕は目的を達成した。
「……なんか、すみませんでした」
僕は生徒会室を出る時、ぺこりと頭を下げた。
生徒会長はそれに反応したかしていないのか、定かではないが終始睨まれ続けてきたその瞳を最後逸らされたことに、僕は嫌な怖さを覚えた。
「それにしても白木さぁ、会長を敵に回すとか凄いねぇ――俺ですらあの会長を相手にはしたくないってのに」
「別に僕は生徒会と戦争しようって訳じゃないんだがな……」
能力部へと向かう廊下を歩いている際、愚か者と口にしなくても雰囲気で分かる笑いで慰めてくれる政所にため息を付け加えた。
「俺は生徒会と能力部がお互いに支え合えばもっとより良い学園になると思うんだけどなぁ――会長の調子じゃそれもまだ先の話しか」
「――思ったんだが、政所。どうして、学園のことになると政所はそう真剣な表情になるんだ? 僕はてっきり学園のことなど興味もない、生徒会役員と言う肩書が欲しいだけのいけ好かない奴だと思っていたんだが」
「ほーん、俺の扱い方本当に慣れてきてんじゃん? 本音を喋ってくれるのは俺にとってそいつは信頼できる奴だ。――仲良くしようぜ、相棒?」
政所に嘘は通用しない。そんなのは当然理解している。どうせ、会長の趣味だって大方分かっているのだろう。それでも口にしないのは、自分自身『信頼できる奴』になりたいからなのかも知れない。
……その笑顔、僕の見解は正解しているんだな、うん。
「僕のことを相棒だと言うのなら、相棒の言いたいこと既に分かっているんだろう?」
「――古国府 雫ちゃん。そうだろ?」
僕は頷く。喋らなくていいのは助かるが、それじゃあ僕のキャラ更に薄くならないか……?
「能力部に持ち込まれた依頼を解決する鍵がまさに俺って存在なんだろう? 遂に俺も能力部に必要とされてきたのか……人気者って意外と辛いんだぜ?」
うるせーよ。強がりじゃないその本音が余計に僕を蔑むんだぜ?
「別に白木を蔑んでいるつもりはないんだけどな。――さぁ、俺がどう対応すれば君たち能力部は満足する?」
「……満足? 言っておくが、僕らは自身が満足する為に人の依頼を受けているんじゃない。依頼者には確かに満足させられる結果が得られるとは限らないと伝えてる。政所の想いのままでいい。取り繕う必要もない。そのままでいい」
古国府の問題は解決へと導きたいと本音で思っている。それは佐伯も同じだろう。しかし、その為に誰かが芝居をするのはまた違う話――偽りの答えなど意味がない。
「そうか……だったら――」
政所は重く、そして呟く。
「古国府のこと……いや、特色の人種をどこまで知っている?」
急に立ち止まった政所につられて僕も立ち止まった。それと同時に僕の思考も立ち止まる。
『特色』をどこまで知っている? そんな質問に一般的学習として教わったことや古国府の体験談を交えて答えてもそれは不正解だろう。
『特色』が経験して来た辛さは僕と比べてみれば天と地の差――古国府から聞いた話を上回るほどの苦悩が溢れかえるのならば、僕は政所に返す言葉すら出てこない。
「この学園に通っている生徒の一握り……いやそれを下回る人数、また生徒会役員に加えて本人たち――白木、君らは知らないだろう」
政所の声色がここでまた一つ、色付いた。
「――零組、その存在を」
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