漆:人の想いはそれぞれで、それぞれが幸せの在り方。――続・弐。
次話投稿です!!
お付き合いください!
コンコン。
大人しい音が部室に響いた。丁寧なノックの仕方は担任ではない。だとしたら、能力部に依頼者でも来たのだろう。
「どうぞ」
パパッと身なりを整え、佐伯は応えた。先ほどのため息が嘘のようである。
「失礼しまーす」
それまた大人しく扉を開け、大人しく挨拶をし、大人しく入って来たのは小柄な女の子であった。
後輩……? いや、それは無いか。僕らがこの学園の記念すべき第一期生――従って後輩、先輩もいない。だが、その容姿はとても同い年には見えなかった。
用意してある椅子に座るように佐伯が促すと、ぺこりと頭を下げ、ちょこんと座った。
「こんな雨の日にどうしたのですか?」
早速、佐伯が喋り出すとその声色に女の子は怯え交じりに、
「す、すみません……こんな雨の日に迷惑ですよね。……帰ります」
僕は慌てて席を立つ女の子を引き留めて、再度座って貰った。
「別に僕らは迷惑だなんて思っていない――尚更、感謝したいぐらいだ。……それで、今日は何用だ?」
佐伯も故意ではないであろうが、人を相手するには適さない機嫌である為、僕が代わりに対応しよう。
「あの……ちょっと、相談したいことがありまして……。その……自分で解決しろって思われちゃうかもしれないんですが……それでも大丈夫ですか……? 月乃君」
「――え、ああ。だ、大丈夫だが……僕ら初対面じゃなかったか? 僕の名前――ていうか、下の名前を呼ぶ人なんて数少ないもので」
「あ、ごめんなさい! いきなり、失礼でしたよね……」
そんな上目遣いで謝らないでくれ。――僕に変な趣味が……って、同い年か。
「いや、少し驚いただけだ。こちらこそ、すまない。えっと、君は――」
女の子は自分が名乗っていないことを思い出したのか、いきなり立ち上がり、
「古国府 雫です‼ よろしくお願いします‼」
深々と頭を下げた。
「はい、よろしくお願いします。僕は白木 月乃です。えっと、こちらは佐伯だ。――古国府さん、お座りください」
バイトの面接? 古国府の緊張感がこちらまで緊張させる。
「それで、どうして古国府さんは白木君の下の名前を知っているのですか? 白木君は初対面だと言っているのですが……」
「えっと、特別に月乃君の名前を知っているんじゃなくて、結菜さんの名前も聞く前から知っていました。その……お二人はこの学園で有名人なので――」
「有名人……? 僕と佐伯がこの学園で名を馳せていると言うのか?」
僕の疑問は佐伯も同様に思っているだろう。別に売名行為などしていない筈だが……
「自覚をしていないのも無理はないです。月乃君の性格と結菜さんの性格上、舞い上がらず天狗になることも無く、健気に困っている人の悩みを必ずと解決して来た実績がお二人の名前を馳せるのに十分過ぎるほどの素材です」
「そこまで言われると……なんだか照れちゃいますね」
クールに佐伯は喜んでいる。心では踊っているのではなかろうか。
「そんなお二人を目の前にして若干、緊張してしまっているんですが……どうしても相談したいことがありまして、今日は来てしまいました」
「確かに僕らは多種多様な生徒の話を聞いてきたが、確実に解決して来たかどうかなんて、僕らが胸を張って言えることじゃない。従って、古国府からの相談も古国府自身が満足のいく結果にならないこともあるかも知れない。それは分かっていて欲しいのだが……」
「はい! うちはお二人に相談が出来るだけで半分満足しているのですから」
キラキラと輝かしている瞳は、外が大雨だということを忘れさせてくれるほどの純粋で、古国府が僕らに聞いて欲しいと言う相談事もまた、純粋であった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話は七月七日十九時です!!七夕ですねw
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