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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
密かな色
40/53

陸:哀れと、内緒事。――続・伍。

次話投稿しました!!


お付き合いください!

日時 同日。午後六時。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園外(がくえんがい)



 彼女との待ち合わせなどしたことの無い僕にとっては、待ち時間こそ新鮮に緊張してしまう。

 久々に学園外へと出掛けたが、街を照らす明かりが都市の活性を魅せているようで近未来に迷い込んだ気持ちである。

 僕の服装は学生服で、無知な他人から見たら普通の高校生に見えるのだろうが知識人とまでは言わなくとも一般的常識を兼ね備えた他人からだと、僕を避けて歩いていく。

 第一能力混在学園に通う生徒――混在生は不気味な人間だと意識付けられているようでこのような結果を招いているのだと考えられる。

 しかし、それについて僕らが反論出来る訳でもなく受け入れないといけない。

 第一能力混在学園は西日本と東日本の境目に立地しており、言ってしまえばこの街も有色と無色の人間達が集まっているのだが、それでも僕らは一目置かれてしまうのである。

 まどろっこしい言い方に加え、今更この物語の設定説明のような前置きを待ち時間に僕は語るが、簡潔に言おう。

 僕ら混在生は特別なのである。


「白木っちー‼ お待たせ!」

 僕の前置きが終わった所で、手を振りながら火売が走ってくる。

 可愛さを辺りに振りまきながら走っている火売を、物珍しそうに通行人が凝視しているではないか。

 僕と同じく第一能力混在学園の制服を身にまとっているのに、この歴然の差は一体何が原因なのだろうか。

 そう、理由は鮮明としている。

「ごめん、待ったかな?」

「いいや、僕も今来たところだから問題ない。――しかし」

 僕が言おうとしたことを火売は察したのか申し訳なさそうに、

「……うん、周りの人の目が怖い……かな」

 俯いた。

 混在生が二人、それとも火売の体質なのか、視線は集める一方である。

「行こうか、火売」

「え、あ――」

 それから僕は行き先もなく火売と歩いた。その場から逃げるように、火売と逃げるように。

 そして気付く。

 手が――暖かい……⁉

「す、すまない!」

 火売と繋がっていた手を慌てて離した。ビックリした……僕自身の行動に。

「ううん、大丈夫」

 ほのかに香ってくる甘い匂い。もどかしさと恥ずかしさ。そして月が照らすほの暗さ――

「――それより白木っち」

 大丈夫だと言っても、大胆な行動に嫌気でも刺されたのか、再び火売は申し訳なさそうな表情をする。付き合っているのだとしても、付き合い始めたのは昨日の話であり、手を繋ぐという行為は格別早かったのかも知れない。

 今まで誰とも付き合うなどしたことの無い無知な僕の失敗――反省するべきか……。

 しかし、火売が次に吐いたセリフにそれ以前の問題であると僕は反省する。

「ここ……どこかな?」

 結論を言おう。――僕らは迷子となった。

 火売に向けられた痛い視線から、火売を遠ざけたかった理由が行き過ぎた行動となってしまったのだ。

 未開の土地に加え、味わったことの無い空気を吸い、今の状況が明らかに面倒なことだと更に実感する。

 だが、何もない荒野に辿り着いたわけでもない。周りは家が建ち並ぶ住宅街。帰れなくなるほどに危険な迷子ではないが、ここ留まっていても仕方がない。

 僕らは近場の公園を探し立ち寄った。今はベンチに二人座り、これからのことについて話し合っている最中である。


「……本当にすまない」

「いや、気にしないでよ! 全然、気にしてなんかいないから‼」

 両手を大袈裟に振って見せているのが、僕に気を遣ってくれているのだと分かる。

「……どうして僕はこんなにも頼りにならないんだろうな」

 それに僕は苦笑いで返すしかない。助けたいという想いが、一向に良い方へと向かってくれない。

 自分自身が嫌になってくるレベルだ。この状況を打開する術すらも思い付かない。

 それでも話が尽きてしまい、沈黙を作ってはいけないと思った僕は振り絞って面白そうな話を喋ってみるが軽い笑いがこの空気を余計に冷たくする。

「……あはは、あは……」

 どうした僕。こんなにも異性に対する免疫が無かったのか。佐伯と過ごしてきた日々があると言うのに何の役にも立たないのか。

「――あのね、白木っち」

 不意に火売が口を開く。その声色から僕は少し身構えた。

「さっきも白木っちに迷惑を掛けさせちゃったけど……私の体質について話を聞いて欲しい」

 僕は黙って頷いた。

「私自身、この体質って凄く怖いんだ。私の本当を知らないのに見た目だけで周りの態度や価値観が一変していく――全て私の体質のせい。どんなにその偏見を変えたくても変えることの出来ない生まれ持ってのハンデ。でもね、そうやって思い出したのも高校へ転校してからなんだ。小さい頃から私の容姿で色々な面倒事も確かにあったけど、ここまで悩むほどでは無かった。――第一能力混在学園へ転校してから私自身の体質も一変したの。なんて言ったらいいんだろう、分かりやすく言うとレベルアップした感じなのかな……? それでも私が混在へ来て浅いのにこの変化だよ? これ以上この学園に居るともっと激しく体質が変わっていくんじゃないのかなって……そう思えるんだ。――だから、能力部に寄ってみたの。何か分かるんじゃないのかって、このままじゃ無色の私が有色になってしまうんじゃないかって。だってこの体質――もう、無色を越えちゃっているよね……だって……だって、白木君の心までも奪っちゃっているんだから……」

 これで火売の涙を見るのは二回目だ。無色を越えた体質になってしまったと、火売はそれからも自分の体質を不気味だと涙交じりに打ち明けていく。

 その頃にはもう迷子になっていた感覚など消え去ってしまい、僕は黙っている事しか出来なかった。

 行き過ぎた体質には色々と思い当たる節はある。今までも能力染みた体質者とは関わってきた。その全ても、火売と同じくこの学園にて悪化したと感じているのであれば、それは隠すことの出来ない大きな問題であろう。

 国家レベルの実験場ではないのかと噂されている第一能力混在学園。その意図は、この学園の設立の本当の理由は何なのか。


 火売は落ち着きを取り戻したが黙り込んでいた。だが、僕には一つ聞きたいことがある。

「火売――」

 僕の返事に火売は小さく『ごめんなさい』とだけ呟いた。

 それからは奇跡と言っていい程にたまたま車で通りかかった担任にお互いの寮まで送ってもらうことになった。先の火売を降ろし、二人きりとなった車内で担任は言う。

「恋なんてそんなもんだ、白木。しかし、流石に早すぎる感じもするんだが……何かあったのか?」

 付け加えるように、言いたくなかったら喋らなくても良いと担任は珍しく気を遣うが、僕は全てを話すことにした。火売のこと、火売の体質の悪化のこと、そしてこの学園について――。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


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