壱:混ざり合い、その先にあるもの。――開始。
本編始まります!
区切りを付けるのが難しく
少々長いですが、お付き合いいただけましたら幸いです‼
日時 四月十五。午後四時。 場所 第一能力混在学園教室棟一階能力部部室。
勉強(Study)学問や技芸を学ぶ事、経験を積んで学ぶ事、物事に精を出す事、努力すると言ったところ。
加えて面白い由来がある。勉強は「勉め強いる」であり、本来は気が進まない事を仕方なくやると言ったところ。
学問や技芸を学ぶ事を意味する「勉強」よりも古く、江戸時代から使われていると言う。昔も今も考える事は同じなのだ。
学生の仕事は勉強である為、義務教育である中学まで通い大概は高校へ進学するだろう。そこで好きな科目、嫌いな科目と授業を三年間受け続けるのだ。
僕も勉強は好きな方ではない。しかし、勉強が出来ない訳でもない。しっかりと授業に耳を傾け、一つ一つを理解していけばテストなど満足が出来る点数が取れてしまうのだ。
少々、前置きが長くなってしまったところで、本題へ移そう。
結局、僕が言いたいことは一つ。
「白木君、理解出来ましたか?」
「――ああ、多少は」
「多少では駄目ですよ、ちゃんと全てを理解してください」
僕は一限から六限まで座学の授業を受け、座り慣れた椅子と見慣れた机に放課後という時間までも仲良く一緒に居ないといけないのか。
佐伯は黒板に白いチョークと黄色いチョークを上手く使い分け、板書している。いつもと違うその姿はうちの担任よりも先生らしい。
「でもさ……佐伯。どうして、ここまで授業の雰囲気を再現しないといけないんだ? 別に、テスト前に特別講師として佐伯先生に勉強を見てもらっている訳ではないんだから……」
二人だけの教室に、先生?と生徒が放課後の補習を受けているみたいで僕は放課後の開放感を大いに感じる事は出来ないままでいた。
この教室が『放課後勉強部』の聖なる部室だとするなら、それは仕方ない事なのだが。
「それは――ちょうど黒板もあったので……雰囲気出してみたかったです……」
いま、佐伯は照れたのか? くそ……メガネ似合っているよ。とか言っとけば良かった。
佐伯は、よそよそしく掛けていた眼鏡を外しゴホンと、咳払い一つ。
「それでは、『能力部』としての主な活動を前に板書した順におさらいしながら説明します」
そして放課後、僕の補習は再び幕を開けた。
「まずは初めに、何故この部活を先生は作り、私たちを部活生にしたのか。という事についてですが、それは白木君……分かりますよね?」
「ああ、それは簡単な事だ。担任のあの性格じゃ、自分に反抗した僕たちを自分の統治下に置きたいと言うのが、まず第一の理由として挙げられる。次に、能力部に所属していたら未来予知能力者を探す為の口実にもなるだろうからだろ? 確か……能力部は能力行使して校則違反を行う生徒を取り締まる役目も課せられたんだっけか――だとしたのなら、それはそれで有色の生徒との関わりが簡単に取れるって訳……じゃないのか?」
「その通りです、白木君。 見た目とは反して物覚えが良くて助かります」
「いや……ありがとう」
褒められていないのは確かである。
「それでは次に、何故この部室に私と白木君しかいないのか。と言う話ですが――」
「それこそ、簡単な事だろう。誰もあの担任が顧問の部活なんかに入りたくないって訳だ」
「無論、正解ですが――ストレートに物を言う人なのですね、白木君は」
「おいおい、無論って言った時点で佐伯の方こそ曲がりを知らない直球だったがな」
ぷいっと佐伯は僕から視線を逸らす。墓穴を掘った時や、照れた時の癖なのだろう。ああ、可愛い。
「ごほん……それでも部員が二人と言う事実に不利な点は沢山あります。第一に、一人が学校を欠席した場合や、放課後の時間に私情が入り部活をお休みしなければならない場合には、部室に一人と言う孤独空間が生まれてとても寂しい気持ちに襲われてしまいます。どうしたら、よろしいのでしょうか?」
「え……それは僕に対する質問ですか?」
「質問です」
「――学校や部活を休まないようにする……とか」
「……」
「……分かりません」
ベストアンサーでも欲しているのだろうか、佐伯は。
「それでは答えを言いましょう。それは――部員を増やすことです。部員が私と白木君以上の場合に誰かが一人休んでも二人で部室に居る事が出来ます。充実した放課後が送れる事でしょう」
うんうん、納得したように佐伯は一人頷いている。つまるところ、佐伯は寂しがり屋なのだろう。ああ、可愛い。
「こうしている時にも、部室の扉を叩き『入部したいです』と、生徒が入ってくるはず――」
遠くを眺め、ボソッとあり得ないであろう願いを佐伯が零した矢先、コンコンと単調な音が部室内に響き、『ほらほら‼』と言わんばかりに表情をキラキラに変えた佐伯を横目に、僕は音がした扉の方に視線を向けた。
「どうぞ」
そう佐伯が合図をすると、ガラガラと扉を開け絶妙なタイミングで扉を叩いた人物が慣れた様につかつかと入って来た。
「はぁ……」
佐伯の分かりやすい表情の変わりようとため息に、僕も肩を落とす。
「なーに、そんなに顧問が嫌いか? ……ったく、誰のおかげでここの教室を借りることが出来たと思っているのだか」
日頃から感じられない丁寧なノックに期待をした僕らがバカだったのだろう。学園の隅っこの人気もない教室(能力部)を訪れる人は限られているではないか。
「何をしに来たのですか……先生」
「何って――私はこの部活の顧問だぞ? 部活を生徒がちゃんと全うしているか確認するのは顧問の役目だろう? ふぅ」
煙草に火を付けながら、当たり前の顔をして良くそのような事が言えましたね……まぁ、窓を開けて、窓際でニコチンチャージしているのは成長しましたけど。
「喫煙はあなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます。 ……って箱に書いてありませんか、先生」
「――私の健康を心配してくれているのか。全く可愛い生徒を持ったよ。ふぅ」
いえ、それは多分捉え方間違っていますよ、先生。見てください佐伯の顔……ゴミを見る目ですよ……
呆れている佐伯は担任に向けていた視線を僕に向け、話の続きをする。
「あれは気にしない事にして……白木君、勧誘をしましょう。この能力部……言わば、生徒を取り締まる風紀委員みたいなものです。正義感の強い生徒なら魅力を感じて入部してくれるに違いありません。 ――ですから白木君、正義感の強そうな生徒を見極めて勧誘して来てください」
「……すまんが、佐伯。僕の能力は人を見極めるような力ではないぞ……多分。それにだな、僕らのクラス……陸組に正義感の強そうな生徒は見た感じ存在しないような気がするのは僕だけか? ――今日も一悶着あったし……」
「いえいえ、私はうちのクラスから勧誘して欲しいとは特定していませんよ。他クラスから勧誘すれば良いのです。それに、有色の生徒が良いとか無色の生徒に限るとは決めていませんし、そう考えたのなら簡単な事でしょ?」
え、結構……佐伯はスパルタな人なのですか?
「ま、待ってくれよ。 ……僕が勧誘するのは確定なのか? 群を抜いて僕にコミュ力がある訳でもないのだが……」
「それは私も思いますが……」
あ……否定はしないんだ。うん、素直な子ってモテるよね。
「でも、私が白木君を勧誘係に任命したのはルックスの問題ですよ。――白木君、見た目はそこそこ整っていると思いますので……思春期の女の子が集まっているこの学園では簡単に釣れると思うのですよ」
素直な子って良いよね! うん、素直な子大好き!
「あはは、私から見たら白木なんてしらたきだけどな!」
うるせーよ、先生。大根でも勧誘しろって言うのか? あんただって僕から見れば……見た目は……綺麗だけど……悔しいっ。
「ですから……どうですか? 引き受けてくれますか、しらたき君……じゃなくて白木君」
ツボってんじゃん、佐伯。クスクス笑うぐらいなら、いっそ腹を抱えて笑って欲しい。
「……分かったよ」
このしらたき……じゃなくて白木。満身創痍、勧誘頑張りたいと思います。
「良かったです。 では――」
早速、任務に取り掛かれ。とでも言おうとしていたのだろうか。佐伯は扉の方を指さしていたが、それは担任の一言でゆっくりと腕を降ろすことになった。
「それは駄目だ」
「どうしてですか、先生」
そうだ、駄目ならどうして早くに言わない! この時間、僕がしらたきでいじられただけじゃないですか。
「この能力部に追加で生徒は要らない。いや、言い方を変えよう――」
ちりちりと、煙草を燃やす担任は、
「今はまだ、必要ない」
と、煙混じりに吐いた。
今はまだ、必要ない。とそう否定した担任の考えている事を即座に理解することは出来なかったが、私の言っている事を感じろとは言わない担任はポカンとしている僕らを交互に見て加えて説明をする。
「今はこの部活を活性化させる時期ではないのだよ。なんたって、無理を言ってこの部活を作った所もあるからな……上の方は、部活として何かの成果を出して欲しいとの事だそうだ。人数だけが多い無意味な部活は、経営者からしたらただの金食い虫だからな。 ――廃部など、簡単に決まってしまうだろう。君たちだって……そんな事にはなりたくないだろう? 私だって喫煙所が無くなるのは嫌だ」
ここは喫煙所ではなく、部室ですよ? とは、呆れて口に出す事すらバカらしい。
しかし、その部分を除いては担任の言っている事も一理ある。言ってしまえば、この部活『能力部』は担任と佐伯の因縁を解決する為に作られた部活であり、立部目的は未来予知能力者を捜す事で、その捜査をスムーズに行う為の部活である。
そのような事で部活を立てる事は当然できない。本性がバレることのないように、色々と背負っているのだ。生徒を取り締まるなど風紀委員だけで充分である。
やはり、それなりの成果を出さねば廃部の危機も逃れられない。という事なのだろう。うん、よくよく考えたら、厄介ごとに巻き込まれているだけじゃないのか、僕。本当に、無関係……
「成果……ですか……」
佐伯も担任の言いたいこと(一部を除いて)は理解しているのだろう。うーん、と首を傾げ悩んでいる。
「僕らは具体的に何をしたらいいんすか……?」
「全く……何を言っている、白木。お前の視野はネクストバッターサークル並みに狭いのか?」
「……僕は何を打てばいいんですか? 先生から放たれる理不尽ってどす黒いボールなら既に諦めて見送っていますよ」
担任は煙草をもう一本取り出し火を付ける。ほんと、綺麗なのに色々と勿体ない。
ふんわりと、煙草の匂いが嗅覚を刺したその時、
「……カンニング」
と佐伯が零した。それに担任は、うんうんと吐く煙を歪めながら頷く。
「佐伯に白木――君らに初仕事を私から依頼する。……佐伯が言ったように、カンニングの件だ。君らも薄々と事情は分かっているだろうが……うちのクラスに厄介ごとが起きた。それを解決して欲しい。まぁ、私から言わせてもらえば、早速クラスの雰囲気が悪い事に違和感を抱くことはないが、佐伯が唱えているクラスみんな仲良し理論には解決しなくちゃいけない件だろうからな。今回は私からの依頼とする」
「解決って――」
果たして解決という言い方は正しいのだろうか。それは解決と言うよりか――
「そうだ、白木。どちらがカンニングをしているのか調査し、犯人を特定しろ。 ……カンニングは立派な不正行為にあたるからな、自宅謹慎で反省してもらうしかないだろう」
犯人を特定し自宅謹慎の罰を与えた所でクラスの雰囲気は良くなるのだろうか。その可能性は虚しくも僅かである事は間違いない。
しかし、その依頼を受ける事がこの部活の維持にも繋がり、そしてクラス内で早々に起きた問題を解決へ向かわせるのであれば――
「分かりました、先生。その依頼――私たち、能力部が責任をもって受けます」
「……頼んだぞ。ふぅ」
佐伯への挑戦状のような依頼を僕らは受ける事になった。解決の結末がどうなるのか、担任が吐く煙の様にもやもやと、消えてくれたら良いのだろうに。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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