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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
密かな色
38/53

陸:哀れと、内緒事。――続・参。

次話です!!


日時 同日。午後四時過ぎ。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)教室棟(きょうしつとう)一階(いっかい)能力部(のうりょくぶ)部室(ぶしつ)



 地獄の席替えは終了し、クラスが真新しくも思える授業も終えて落ち着いた心で部室へ向かったが、まだまだ僕には試練が残っている様だった。

「――私って、可愛いじゃないですか?」

「……うん」

「ですから、色々と面倒な事も多くて困っているんですよ。今日だって、終礼が終わり帰ろうと靴箱へ向かう途中に五回も男性に遊びに行かないかと誘いを受けましたし、断ると死んだように生気を失い去っていくんですよ。――なんだか、私が悪いみたいに……。それに――」

 続く、続く。火売の愚痴は続いていく。――ここは居酒屋ではない。

 火売 心――何度も言うが確かに可愛い。クラスでは大人しく絵に描いたように可憐である。そんな火売は人が変わったように今まで自分が苦労(可愛くて)してきた話をマシンガントークで語っている。

 佐伯も火売の話を聞いている様にも思えるが、同性の可愛い自慢をどのように捉えているかは分からない。

 異性である僕ですら、少しばかり辛い。

「――そんな訳なんですよ」

「えー、と。つまり――何しにここへ来たんだ?」

「そんな冷たいこと言わないでくださいよ……どうせ、白木君も私を見て興奮しているんでしょう?」

 偏見はやめて欲しい。興奮なんかしていない、奮闘しているのだ。

「……まあ、話を聞く限りでは色々と大変な思いをしてきたのは十分に理解できたし、同情もする。――しかしだな、僕たち能力部は火売の話を聞いて何をすればいいんだ? ――話だけをしに来た、放課後の軽いトークって分類で済むのならそれはそれでいいのだが」

 僕の返しに火売は、しょぼんとする。背も小さく色々な困難から守ってあげたくなる可愛さも兼ね備えているが、この場に限ってそれをすることは出来ない。

 悩みを抱えている、解決したい、楽になりたい、強く思うのであれば手を貸しても構わない。実質、それらを僕らは部活動として動いてきた。

 この部活動が出来た理由など、どこぞの担任とどこぞの佐伯の犬猿なる訳だがそれを知るのは僕ら三人しかいない。

 故に、僕らの部活動には能力に関する不満や不安、それらに関係しない事柄ですら解決へと導かざるを得ない仕事となった。

 火売に僕らが何をできるのであろうか。冷たくあしらうのは流石に可哀相であるが、肩を縮める火売に掛ける言葉は見つからない。

 チラッと佐伯に助けを求めようとするが、チラッとそれをあしらわれてしまう。

 可哀相なのは僕も火売も同じということ……。

「……白木君」

 黙り込んでいた火売がついに口を開く――。

「いや、白木っち!」

「……大人気育成ゲームですか?」

 言葉を発したかと思いきや、僕にあだ名をつける火売。――女の子に、いや誰からもあだ名を付けられたことの無い僕にとってそれは変な感覚であった。

「誰も白木っちのトイレの世話なんてしませんよー、てか、私にして欲しいのでしょう?」

 クスッと笑う佐伯。助けてくれる様子は無い。

「白木っちは依頼であれば私の話を聞いてくれるのでしょう? ――だったら、依頼を出します‼」

 火売は立ち上がって言う。背のせいであるのか、立ち上がったものの威勢は感じられない。

 しかし、依頼を能力部に出すのであれば僕らは動かなくてはならない。それが困難であっても僕らは全力で立ち向かわなくてはならない。

 今までそうしてきたように火売の依頼でも――。


「白木っち‼ 私の彼氏になって下さい‼」

 ガチャン‼ と、衝撃的な依頼(告白?)に立ち上がってしまった。――佐伯が。

「……それはどういうことでしょうか、火売さん? その言い方だと、能力部への依頼と言うか白木君に対する告白の様にしか聞こえませんが……この白木君に対する告白の様にしか聞こえませんが?」

 なぜ、二回も言うのだ? ともかく、佐伯の感情と僕の感情はリンクする。

「そ、そうだ、佐伯の言う通りだぞ。なぜ、僕が火売の彼氏にならなくてはならない……それにだ、この物語はそんなハーレム展開など天の人の趣味であまり描かれないようになっている。それを今更になって発動させようだなんて……」

「――好きだからって理由じゃ、ダメですか……?」

 バキューン‼ 

「私が白木君を本気で好きになってしまったってことじゃ、ダメですか……?」

 ズキューン‼

「心からとろける程に白木君を私の物にしたいって欲望じゃ、ダメですか……?」

 ドギューン‼

 今、あなたはどの様な気持ちでキーボードを叩いていますか? この展開、僕にとっては最高なものになりそうです、はい。

「ちょ、ちょっと白木君‼ ま、惑わされてはいけません‼ ――そ、それに火売さん? 自己紹介では語っていませんでしたが、人の心を惑わせる能力を持つ有色なのですか? でしたらこの学園内、人の価値観、倫理観、尊厳などを不安定にさせるための能力行使は重い処分に当たりますが……加えてここは能力部部室。――良い度胸ではありませんか?」

 身に覚えがあるこの状況。佐伯は同性に対してある一定の範囲を超えると牙を向ける習性があるのだろうか。……てか、普通に怒っている?

「あらら、佐伯さん。どうしたのですか、そんなに慌ててしまって……みっともないですよ、綺麗なお顔が台無しではないですか?」

 感情的になりかけている佐伯のことを嘲笑いながら火売は冷静に言葉を返していく。

「それと、佐伯さん。確かに私は自己紹介で有色なのか無色なのか言いませんでした。自分がどちら側の人間なのか、それを明かすということは名前を名乗るという常識に等しい。――ですが、あの先生のことです。何の指摘も受けませんでした。許されることならばこのまま卒業まで自分がどちら側の人間なのか明かしたくはありませんでしたが……仕方がないですね。これも白木君を私の彼氏にするための試練だと思うと、痒くもないです」

 読者さんも気が付いているだろう、この急な展開劇場。天の人も我ながら自らの指を動かし、構成されていく展開に驚いているに違いない。

 しかし、人生こんなものである。いつ何が起きるか分からない。ましてやこの学園に置いて、妙な理由で部活へ入部し、銃を使った生死を掛けた場面や、物凄い頭痛に見舞われる出来事、そしていきなり現れた美少女に告白され黒幕のようなセリフを吐く今日この頃。

 果たしてこの先、追いついて行けるのだろうか。置いて行かれたりはしないだろうか。正直、不安でしかない。

 しかし、たった今起きているこの物語。どこに伏線が張られているか、全ての物語には終わりへと導く鍵があるのだ、とそんな気持ちでリラックスしてお付き合い頂きたい。 

 ……と、天の人に代わり僕が語っている間を待っていてくれたのだろう。火売はニヤッと笑い話を続ける。

「――私は無色。誰もが私の虜になり魅了され惑わされ、骨の髄まで私への愛情を向け続けるのは能力など存在しない。ならば、どうして? と思うのでしょう、佐伯さんは。――でも、もう分かっているんじゃないですか? 頭の良い佐伯さんですから」

 火売は苦労して来たと言う。自分でも大袈裟に隠すことなく取り繕うことなく、素直に苦労してきたと言った。耐えて耐えて耐え続けてきたから故に得られるものがあるとするのならば、それは逸脱したもう一人の人生感覚なのであろう。

 この先も苦労して来た理由は変わることなく、それを越えた新しい苦が快感へと変えてしまうのではないのか。

 火売に出会って僕は無色に対して更に恐怖が植えつけられていく――。

「……全ては火売さんの体質と言う訳ですか」

「はい、そう言うことです。――あの先生が『影が薄い』体質故に名前が出てこない。それと同じことです。私は容姿から『可愛さ』という体質が滲み出ている為に、私が行う全てのことが可愛いとなり、私を見れば可愛いと魅了され、本気を出せば『可愛さ』だけでこの世を私の物に出来てしまう自分の力に私自身ですら魅了されてしまう……そんな体質なのです」

 ここまで来たら、有色も無色も変わらないのでないか。と、どうしても思ってしまう。

 しかし、決定的に違う部分がある。

「……そんな自分が……とても怖い……」

 流れる涙に佐伯も言葉を飲んだ。

 有色と無色――互いに交わることの無いその二つの人種が混ざり合うことである一つを生み出した。

 それが何かと問われれば、僕は迷わず答えるであろう。

「――火売」

「……白木っち……?」

 こんなことを言うのは初めてで、タイミングなんか分からない。

 未開の土地に足を踏み入れる感覚とでも言ったら伝わるだろうか。その土地に泣いている女の子が居るとしたのなら、皆はどうするのだろうか。その子の涙が本物で綺麗な色をしていたらどうするのだろうか。

 僕は有色だが色は持たず、無色ではないから色はある。真っ白なキャンバスが僕の色だと言うのならば、そこに落ちた佐伯の色と火売の色は僕を何色に染めるだろうか。

 少しずつでもいいから、染まりたい。僕と言う色に染めて欲しい。

自己中心的な願望が、僕の言葉を作った。





「火売、僕と付き合って下さい――」


最後まで読んでいただきありがとうございます。


次話は来週の月曜日に更新予定ですので

お付き合いください!!


これからネットサーフィンたのしも・・・・


また、ブクマの登録の程もよろしくお願いします!!


ではでは、また!

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