陸:哀れと、内緒事。――続・弐。
回線工事を終え、ネット環境が一段とアップした嬉しさで
私事ですが、祝日とし、二話連続更新させていただきます!
お付き合いください!
日時 六月三日。午前九時過ぎ。 場所 第一能力混在学園教室棟二階陸組。
時は来たれ、運命の八百長席替え当日。それは一時間目のホームルームから開幕した。
「えー、昨日言っていた通り席替えをするからな。泣いても笑ってもクラス替えの無いこの学園にて最後の席替えだ。思う存分にドキドキして自分たちの運を出し切り望む席を勝ち取ってくれ」
担任は教卓にダルそうに着いている。僕ら男子の八百長を知っていても尚、そんな事を堂々と言えてしまうのだ。その言葉は女子だけに向けての言葉なのかも知れないが。
そう、僕ら男子は今更にドキドキする必要も無かった。既に決まっているのだ。
今朝、早朝にて男子寮多目的ホールにて陸組の男子が集結し、厳正なるクジ引きから火売乃前後左右を勝ち取る抽選を行った。
残念ながら僕は火売乃前後左右を勝ち取ることは出来なかったが、引き当てた生徒は飛び上がり喜んでいた。入らぬ話ではあるが、角刈りは僕と同じく落選だ。
昨日、メラメラ燃えていた角刈りの瞳は消火活動の如くタラタラと涙を流していた。
まあ、正直なところ僕は席など廊下ではない限りどこでも構わないが――。
「そんじゃ、女子から順に教卓に置いてある白い箱から紙を一枚ずつ取ってくれ。説明しなくても分かるとは思うが、引き当てた番号と黒板に書いてある席の番号に当てはまるのが自分の席だからなー。――え、どうして女子が先かだって? そりゃ、レディーファーストってことだからだ」
担任もこの八百長に参加している以上、僕ら男子の悪事が働きやすいように進めてくれているのだ。この作戦自体、女子の番号を先に知る必要がある。
角刈りの野郎、準備万端だったってことか……落選していたけども。
レディーファーストと言われて、女子が先に引かなくてはならない疑問をしつこく問い詰めることが出来る状態ではなくなり、陸組の女子は半ば納得の上でクジ引きが始まった。
前の席から順に女子が箱から紙を取り始め、男女皆が引き終り次第答え合わせの様に席が分かる方式だが、初めの一人である女子生徒が箱に手を伸ばしたその時、担任がニヤッと笑った。
「あー、そうだった。忘れていた。――昨日、この学園に来たばっかりの火売にはうちのクラスで仲良く皆で飼っている金魚の『トビウオ丸』の世話を任せたいんだ。ほら、やっぱり皆と早く仲良くなってほしいからなぁ。その為には皆大好き『トビウオ丸』の世話係が一番だと思うんだ。――その旨は、事前に火売と話していて了承を得ている。だから、世話のしやすい一番後ろの窓側の席を火売に席にしてやってもいいだろうか?」
………………クズだ。どす黒く、暗黒な混沌に満ち溢れている。
さぞかし絶景でしょうね。僕ら男子の表情が一気に冷え上がった極寒のこの情景は。
それに――。
「ちょっと、待ってくれよ先生‼ ト、トビウオ丸って何なんだよ⁉ そんな変な名前の金魚なんてうちのクラス飼ってね――……‼」
皆の疑問であった、金魚の『トビウオ丸』その存在は確かに今まで無かった。しかし、担任が立ち上がり『トビウオ丸』の存在を否定した火売乃前後左右の左席を獲得した男子生徒に後ろを見るように指さすと、そこには優雅に泳いでいる『トビウオ丸』の姿が確かにあった。
「当然、異論はないよなー? ――よし、決定。火売は一番後ろの窓側の席っと」
今の今まで椅子に凭れかかっていたというのに、担任はスッと立ち上がり『火売』と名前を記入した。
「よし、じゃあ。――席替え再開」
女子達はそれに従い、わいわいきゃっきゃしている。男子達は二人が絶望に落ちた顔を、二人が安堵な表情を浮かべていた。
火売乃前後左右に関係ない人間らにはどうってことも無い話ではあるが、その悲しみは痛い程に分かってしまう。
合格していたのに落とされた。そんな上げられ落とされ、と言った最悪な奴であろう。
一応、気になって佐伯の表情を確認してみたが案の定――ニヤニヤとしている。
結局――火売乃前後左右には前席と右席には女子が座ることになった。そう、あれから担任の邪魔が多々僕ら男子を苦しめ、僕ら男子の計画は水の泡。水槽を独占している『トビウオ丸』に笑われた気がした。
ちなみに僕は、一番後ろの廊下側の席を獲得。その左隣りには佐伯が座る。
「よろしくお願いしますね、白木君」
その不敵な笑みは、何故か僕を安心させてくれるものであった。
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