伍:確かな存在、奥深い場所へ。――終了。
伍パート最終話です!!
最後までお付き合いください!!
日時 同日。午後五時過ぎ。 場所 第一能力混在学園教室棟一階能力部部室。
佐伯公欠扱い最終日。
あれから僕が目を覚ましたのは、約三十分後のことだと言う。完全復活とは言えないが、周りの状況を朦朧と判断するに部室に残っていたのは、僕の他に佐伯と星乃、そして政所だった。
一番に星乃が飛びついてきて、その傍からひょこっと佐伯が顔を覗かせた。
星乃は瞬間移動の能力に自信があったのであろうが、一応に不安染みていたのだろう。僕のひょんとした顔を見て、胸を撫で下ろしていた。
僕を見ている佐伯の表情は何とも言えない。何があったのか、分かっていないような。そんな気がした。
この状況を佐伯にどこまで話しているのか。そもそも話していないのか。逆に、明白な真相を知って故の表情なのか。
しかし、そんな佐伯についてこうも一人で呟けるのはなんだか懐かしい。
全てが元に戻った。
それがこの物語の終わり。それだけの話である。
「ちょっと、白木」
くいくい、と手招きする政所に僕は体を起こして部室を出る。
「お疲れ様、白木。どうだ? 全てが元に戻った感想は?」
「……そうだな、お前には僕の心の声(地の文)が読めるんだったな。――なら、聞くまでもないだろ? 元に戻った。それだけのことだ」
「なーに、かっこつけてんだよ。――んまあ、白木はよく耐えたと思うぜ? ……それに佐伯は全て知っている。自分に起きたこと、それに周りがどれだけ動いたかってこと、そして白木、お前が命を張ってくれたことも全部だ。うーん、これはプライバシーの問題になるかも知れんが、この際だ。俺からのプレゼントしてありがたーく聞いてくれ。――白木、佐伯はお前に心の底から感謝しているぞ。佐伯の過去に何があったのか。そこまでは知ることが出来ないが、佐伯の過去がお前の存在を強く強調しているのが分かる。――別に首を傾げることは無いだろう? 簡単に言えば、お前の存在が佐伯の中で大きくなってるってことだよ」
政所は、あははと爽やかにそう言い残して去ろうとする。だが僕はそんな政所を呼び止めて、
「今回は感謝している。――なんだが、僕の中で政所の印象が右肩に上がりまくりだ」
多少の照れを隠し素直に言った。嘘は政所に通用はしない。
だから、政所の嘘だって何となく分かってしまう。政所の言うことに嘘は存在しない。
「好印象を持たれるのは男子でも嬉しいさ。――でも」
そうだから、政所はそうであるから、
「誰かにとっての善人は誰かにとっての悪人、なんだよ。――んじゃ」
背を向け歩きながら放ったその言葉が僕は怖かった。
部室へと戻ると、星乃が帰る準備をしていた。
「それじゃ、お兄ちゃんまたね。今日は友達が家に泊まりに来るんだ。――美味しい夕飯をご馳走するために張り切って買い出しに言って来るよ!」
「大丈夫、星乃が作るめしは世界一に美味しいから、友達の頬っぺたを落とすつもりでご馳走してやれ」
そうだった。星乃には今、友達がちゃんといるのだ。僕が過剰に心配することは無い。僕を遠くに感じると言った星乃に必要なのは、僕が焦って繕うものではないか。
「うん! ではでは、結菜ちゃ――じゃなくて結菜先輩。私の自慢のお兄ちゃんをこれからもよろしくお願いします‼」
ぺこっと佐伯に一礼して、星乃は部室から去った。
そして四人いた部室に二人が居なくなり、僕と佐伯の二人きりになる。
会話は弾まない。もっと言えば、なんだが気まずい。加えて、部活終了時間は迫っている。
「……今日は、ここらで部室を出るか」
返事は返ってこない。あれ、独り言だと思われちゃった……?
チラッと佐伯を見ると、小さくコクリと合図した。
そんなよそよそしさを部室に残し、僕と佐伯はいつものように部室の戸締りを済ませて部活を終了した。
日時 同日。午後六時過ぎ。 場所 帰り道。
その場の流れというものなのか。学園を出て、そのままお互い寮へと帰宅するのは変な感じがした。
それは、いつかの公園に着くまで終始無言だったがお互い一致した思いであった。
この公園に二人で来るのは二回目。前回と同様に腰掛けたベンチに腰を降ろす。
風が僕らを撫でるが、その風に感想を述べているような余裕はない。――まじで、気まずい。
あれ、これが告白した後に起きる現象ですか。あの、お互いに好きだと薄々分かっている二人が周りの計らいにより二人きりにさせられた時に起きる現象ですか。待って、なんか――。
「白木君」
「はいっ⁉」
「あ……えっと、その、飲み物を買って来るのだけど、何がいい?」
「――お、お茶で」
分かったと、佐伯は立ち上がって自動販売機へと向かった。
突然の呼び掛けに声が裏返った羞恥と、せっかく飲み物を佐伯の奢り(気遣い)で飲めると言うのに選択したのが『お茶』って何? と、我ながらのテンパった姿を見せたことに赤面してしまう。
やばい、今までに味わったことの無い感情にバカにされているような……。今まで佐伯とは普通(自分なり)に関わっていたのに、なんだか違和感を抱いてしまう。
「これじゃ、駄目だ。もっと、もっと落ち着かないと……」
「――何がダメなのですか?」
言わずもがなである。僕はビクッと肩をすくめる。
「いや、な、何でもないんだ‼ 何でもない……うん、あは、あはは」
たらーっと冷や汗を掻く僕を見て、佐伯はクスッと笑った。
「白木君、バカが進化しましたか? ――はい、お茶です」
「……ありがとう。それと、僕は進化もしていないしバカではない」
この罵られる感覚……あ、言っておくが変態ではない。
だが、そのおかげで僕の変な緊張は薄れていった。
「とりあえず、おかえりだな」
「はい、ただいまです」
「奢ってもらっている立場でなんだが、祝福の乾杯といきますか?」
僕は冷え切った缶を開け、佐伯に差し出した。
「そうですね、乾杯といきますか」
乗った佐伯も缶を開ける。同様に差し出されたのは、お茶の缶だった。
そして僕らは乾杯をする。
佐伯を見ると普段を思い浮かべる。三日間が長く感じていたのに、今ではあっという間に過ぎたようにも思えてしまう。
佐伯へと移された佐伯中学生の思い出が鮮明に残っているのか、僕には分からない。
分かりやすいアピールなど、佐伯中学生の口調で語り掛けてくるなど、そんなことは無かった。
だが、それでも佐伯中学生は確かに存在する。記憶は消えるのではなく、奥深い場所へと沈んでいく。だから、消えたように思い出せない。
例え、佐伯の記憶のどんな深い場所へいようと、佐伯中学生と過ごした三日間が僕の中から消えることは無い。
それでも、いつか、いつしか、佐伯中学生に会えるかも知れない。その日が来た時の為にも僕は――。
「それじゃあ、佐伯。――また学校で」
「はい、白木 。また、学校で……って、なぜ泣いてるのですか?」
繰り返す日常に僕は、大事な思い出をしまっておかなくてはならない。
無意識であろうが確かに佐伯の口から出た『先輩』という言葉に、僕は心からそう誓った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
長かった伍パートですが、あとがきまで読んでくださっている方、本当にありがとうございます!!
色々な事を思うと思いますが、自分自身満足のいく内容としています。
感想など頂けましたらすごくうれしいです!
続きましては陸パート―――楽しみください!!
よろしくお願いします!!
本当にありがとうございました!




