伍:――確かな存在、奥深い場所へ。――続・拾参。
次話投稿しました!!
お付き合いください!!
日時 五月十五日。午後四時。 場所 第一能力混在学園教室棟一階能力部部室。
佐伯公欠扱い最終日。
部活動の始まりを告げる鐘の音が鳴ると共に、能力部には重要な人間が顔を見せた。
政所 未来。
この事件の犯人である女子生徒。
加えて、白木 星乃――我が妹の参戦である。
少し遅れて担任が入って来たが、それはあまり関係ない。多少、佐伯中学生の表情が引きつっただけである。
さて、この部室にこれほどまでの人間が集まることは珍しいことで、今からお菓子やジュースなどでミニパーティーでも開き仲睦まじく交流会でも。なんて、そんなかけ離れた空気が僕らと一緒に部屋に佇んでいた。
今から行われるのは昨日の続き――いわば、儀式。一人を救うために一人の生贄を捧げなくてはならない惨い祭り。
どちらにせよ後悔や悲しみ、後味の悪い悪夢が心を蝕んでいく地獄の選択。
――のはずだったが。
それを唯一、避けることの出来る可能性がある攻略方法を僕が皆に説明すると、即座に反論してきたのが担任であった。
担任の声には『危ない』『危険だ』『二次被害でも出したいのか』と、強く非難する言葉が含まれていて、それは同時に僕のことを思って言ってくれているのだと、担任の優しさが暖かく感じた。
でもまあ、自分が受け持つ生徒の中に死人は出したくないはずだ。責任問題なども発生する。僕は抵抗するが、担任も下がろうとはしない。
この場合、他に被害が出る可能性が発生しても、元は無理だったことに少しでも可能性が発生するのであれば僕は自分がその役を引き受けてでも助けたい。
確率が高かろうが低かろうが、言ってしまえば『成功』『失敗』の二分の一。そんな数学的にもおかしい僕なりの確立を唱えれば、気は楽になる。
僕が引くことは何があってもない。と理解した政所が、フォローを入れてくれた。
「先生、こいつに何言っても無駄ですよ。こいつは――バカですから……」
人の心が読める政所に感謝する。しかし、政所のことだから担任の気持ちも読めていたのだろう。それでも僕に味方ついてくれたのは、信用しても良いということであろうか。
政所を見ると、キランッ。眩しいウインクが僕の目を焼き尽くそうとする。慌てて視線を逸らし異論もない整ったこの場に僕は言う。
「それじゃあ僕の指示通りに皆、動いてくれ」
――部活動が始まった。
察しの良い方は我が妹の登場で既に気が付いていたかも知れないが、攻略方法は次の通り。
Ⅰ 消えてしまう佐伯中学生の記憶を星乃の能力を行使して一旦、僕に瞬間移動。
三日ほどの記憶分であれば大して重くない為、能力行使に問題ないと言う。だが、担任が強く非難する理由がここにあった。
他人の記憶を他人が所持することは、脳の容量やら異常な負荷とやらでショート。つまり、脳が耐えられなくなりバーンと破壊され死ぬ可能性がある。のだと言う。
当然、この日まで知らなかった訳ではない。昨夜、星乃に相談した時に言われていた。その時は、正直戸惑った。だが、星乃は僕を止めようとはせず協力してくれた。瞬間移動能力の最高峰レベルを保持している星乃の技術的自信を僕は信じようと思う。
Ⅱ 亡骸となった佐伯中学生を女子生徒の能力で元に戻す。
この時点で僕が気になっていたのは、記憶を預けた佐伯中学生にはその瞬間からのまた新たな記憶が発生する。従って、目を覚ました直後に死を迎えるのではないのか。ということだ。
佐伯中学生二号が悲しむのでは意味がない。――だったが、三日分の記憶を一気に失った衝撃はかなりの物であり、意識がなくなるのは普通のことであるから心配しなくていいらしい。
Ⅲ 元に戻った佐伯に僕に預けていた佐伯中学生時の記憶を瞬間移動で戻す。
当然、自分の記憶である為に僕のような負担は心配する必要はないようだ。手順Ⅰのように死ぬ可能性は無いが、僕は三日分の記憶を預けられ取り出されると言う二つの衝撃で意識は無くなるのだと言う。
そしてもう一つ、佐伯が生きてきた記憶分と佐伯中学生が生きてきた記憶分には大きな歴史の差がある。
それは大きな佐伯の記憶の方に取り込まれ、過去の出来事として鮮明に思い出せるかどうか保証は出来ないそうだ。
しかし、思い出せないだけあって存在はしている。佐伯の中で佐伯中学生は生き続けている。
これがハッピーエンドへの道順。戸惑うばかりで、この章は長くなってしまっている。ここらで終わらせなくてはならない。
「準備はいい? お兄ちゃん?」
「ああ、万全だ」
政所と担任は重要な役割が無く、担任は傍で心配そうに僕らを眺めているが、政所はニコニコしていた。
目の前にいる佐伯中学生は、自らの命を懸けて救うと言う僕に『考え直してくれませんか』と言われたが、これは自分の為にやっているのだと、最後の我が儘として通す。
この事件を引き起こした女子生徒は、ここまで被害が大きくなるとは思っていなかったことに加え、僕が命を懸けていると事態が分かると自分の愚かさなどに負けたのか涙を流していた。
どうしてだ、どうして人を救う為にやることに心配そうな表情や涙を流すのだ。
政所のように微笑んでくれていた方が、僕だって……不安が和らぐ。心配、不安、各々が感情に任せているが、僕だって――。
瞬間、体に何かが巻き付いた。
見下ろせば、それは星乃で強く強く体温を感じられた。
「お兄ちゃん……大丈夫だから。絶対、私がお兄ちゃんを死なせたりはしないから」
そうか、星乃は今にも心が折れそうだった僕を優しく背中を押してくれるのか。妹は、僕の心を読んでいるんじゃないのか。なんて、思ってしまう。
「おーい。――言っても一番、不安で怖くて逃げだしそうになっているのは、白木なんだぞ。それでも、白木は表情変えずにそこに立ってるじゃねーか。そんな白木を差し置いて、自分に酔ってんじゃねーぞ。――ここはどうなろうが、全力尽くすのが筋だろ?」
だが、一番僕の心を読んでいるのは、や、は、り政所なのか。
その珍しく強い言い方は周りの心まで読めているということだろう。
政所の言葉に女子生徒が涙を拭い――担任は窓を開けて煙草に火を付けた。
「先生、それは違うから‼」
あまりにことに声を上げて突っ込んでしまう。せっかくのシリアスな展開が衝撃たる担任行動によりBGMが変わる。
焦った担任が口から煙草を落とし、それが政所のズボンをチリチリと小火騒ぎになった時点で皆(政所を除く)、笑顔だった。
――ラストに相応しいじゃんか。
「よし、皆‼ 全力で行くぞ‼」
僕の掛け声と共に手順Ⅰを執行。
佐伯中学生の記憶は星乃の能力によって、問題なく僕へと瞬間移動。
途端、今まで味わったことのない頭痛に襲われる。痛いとかそんなレベルではない。凄まじい吐き気や、地上百メートルから落ちて来た鉄筋コンクリートが脳天にクリティカルヒットした百倍の痛み。言わば、想像できない痛み。
意識が遠のいて行くのが分かる。世界がぐらんぐらん揺れて、上下左右に飛び回っている。
安定しない視界の中では倒れた佐伯中学生に女子生徒が能力を施しているのが確認出来た。
数秒後、あどけない中学生二年生の体つきから、あまり変化を感じられないがそれでも元の姿に戻った佐伯がゆらゆらと目に映る。
良かった。良かった。良かった。
僕は安堵感の海に飛び込んだ。水中なのに冷たくもない。別に温かい訳でもない。ゆっくりと青い視界から深く深く暗くなっていく――。
どこまでも、どこまでも。
背が地に付くことは無い。視界が真っ暗になるまで僕は落ちて行った――。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話でこのパート終了となります!!
月乃が迎えるエンドにお付き合いください!
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