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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
小さな色
33/53

伍:――確かな存在、奥深い場所へ。――続・拾弐。

次話投稿しました!!


お付き合いください!

日時 同日。午後八時。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)男子寮(だんしりょう)五階(ごかい)508号室(ごうしつ)



 静かである。凄く静かで物寂しい。

 確かにこの部屋には僕と佐伯中学生が居るが、会話など存在せず大きな大きな沈黙がこの部屋を支配していた。

 消えてしまいます。と言った女子生徒の言葉より、

 消えちゃいますよね。と言った佐伯中学生の言葉が痛く耳に残る。

 あたかも分かっていたかのように、申し訳なさそうに言ったその言葉がナイフの様、僕の胸に突き刺さる。

 真新しい一人の少女として存在する佐伯中学生にとって、元の姿など存在する意識などなく、そのような佐伯中学生に消えるだなんて現実は実質的に死と同じ。

 加えて、少しであるがこの世界に触れた時間はかけがえのない思い出であるに違いない。

 突然の死を目の前に迎えて、心置きなく死ねるのだろうか。

 怖くは無いのだろうか。不安は無いのだろうか。寂しさは無いのだろうか。

 僕はその全てに当てはまる。

 怖くて不安で寂しい。僕はそうである。

 そして僕に見せたあの表情を見れば、佐伯中学生だってそうだ。――そうに、違いない。

 しかし、僕が取った行動は死を先延ばしにしただけのこと。

 残酷なことをしたのだ。

 そんな僕がどのように話し掛ければいい。

 実は既に覚悟を決めていて、本当に余計な真似をしたのではないか。恨まれてもこれに至っては僕が悪い。全面的に僕に非がある。

 謝ってしまおうか。――だが、それこそ無責任ではないのか。

 こうやって自問自答しているのですら、僕にこの先がまだあるからであり、それが後悔へと変わって行く故の逃げ道探し。

 そのように思えて、実際は僕も自分のことしか考えていないのではないか。と、疑問形になるのが既に間違で、これは僕のエゴであると自覚する。

 それと同時に、ポツリ。

 手の甲に雫が落ちた。

 そうか、とうとう泣いて許してもらおうと僕は涙を流すのか。自己嫌悪で濁った涙などで許してくれるのか。

 僕は額を流れる水滴を拭おうとしたが水滴一粒も拭えることはなく、僕の手の甲に落ちた雫はいつの間にか目の前にいた佐伯中学生の涙であったと気付く。

 目元を真っ赤にして溢れて止まることの無いその涙に、僕はどのような言葉を掛け拭ってやれば良いのか。

 何が正解で何が不正解なのか。そもそも選択肢など存在するのか自体、もう分からない。

 あらゆる感情が佐伯中学生を蝕み、殺し、無くしていく。

 佐伯が居ない世界。

 佐伯中学生が居ない世界。

 どちらも同じなのに、どうしてそんなに悩むのか。――違う。誰かが居なくなるのは当然、悲しくて寂しいものだ。

 だが、それよりも誰かの記憶に自分が消えるのが怖いのだ。

 僕を知っている人間が誰一人存在しない世界で僕は存在しないと同じ。

 四月の自己紹介でいきなり担任に啖呵を切った佐伯、それから同じ部活に入部することになった佐伯、大型連休で命を懸けて戦った佐伯――。

 些細な関わりですら僕には僕が存在出来る理由となる。

僕だって消えたくない。

 でも、佐伯だって佐伯中学生だって消したくない。

 矛盾しているであろう僕の考えは世を甘く見過ぎていると思われるかもしれない。

 悲劇のヒロインを救う甘ったるい正義の皮を被った勇者気取りのモブキャラだと見られるかもしれない。

 ――それでも良い。勇者なんて大層な称号を僕が似合う訳がないことすら、自分でも分かっている。

 無様に足掻いて得られるものが有るのであれば、恥じることもないであろう。


「――佐伯」

 言ってしまっていいのか。責任なんて僕に取れるのか。

 なんて、そんなことはこの際、後でいい。

 今は前だけを見ろ。助けたい人が泣いているだろう。自分を守って殻に閉じこもっていたら、触れることだって出来ない。

 どちらをとっても僕は後悔をする。それならば――。

「大丈夫だ、僕が救ってやる。――心配するな、二人ともだ」

 一人の少女の泣き顔はひょんとした表情へと変わり、そして微笑んだ。



 思い詰め、泣き疲れたのか佐伯中学生はソファーで静かな吐息で眠っている。寝ている時ぐらい落ち着きたいだろうと、僕は起こさずにブランケットと被せてスマホを片手にベランダへと出た。

 時刻は九時を回っているであろう。星がちらちらと光を放ち、少し欠けた月が夜の世界を見張っている様だった。

 スマホを持ち出したのは、僕が携帯依存症だからではない。気持ちの良い夜風に拭かれながら、某人気パズルゲームや人気動画サイト、娯楽に極楽するもの良いのであろうが、そんな暇が今は無い。

 僕は最近、連絡先の履歴部門トップに君臨する『白木 星乃(妹)』に電話を掛けた。

 安定のツーコール目で少しうるさいがそれでも安心する声が僕の耳に届く。


『どうしたの、お兄ちゃん⁉ 夜ご飯ないの⁉ 作りに行こうか⁉』

「夕飯は……うん、大丈夫だ」

『そう、なら――切るね‼』

「いやいや、ちょっと待ってくれ‼ なんだ、僕が星乃に電話を掛ける時は飯が無い用件に限られるのか⁉」

『うーん、それとパンツが無い時……?』

 妹の言葉に返す言葉も出ない。一生の弱みを握られたようだ。

『うそだよ、お兄ちゃん。――それで、何かあったの……?』

 しばしの沈黙に見兼ねて星乃は優しい嘘を付いてくれた。

「えっとだな……一つ、星乃にまた頼みごとを聞いて欲しくてな。電話を掛けたんだが――」

『頼みごと? うん、お兄ちゃんの頼みごとならアフリカゾウの鼻だけで木造の建築物を一つ作ってくれって頼み以外ならなんでも協力するよ‼』

「――僕はアフリカの大工さんじゃないぞ」

 いや、アフリカの大工さんでもそんなことはしないか。

 我が妹の流れに飲み込まれてしまったが、実際の用件はシリアスなもので空気の読める星乃はその後、真剣に僕の話を聞いてくれた。

 そして『分かったよ、お兄ちゃん』と首を縦に振ってくれた。

 だが、上手くいく保証はない。もしそれで失敗してもそれは誰のせいでもないから。

 と、強く念を押された。

 

「――でも最近は星乃に迷惑かけ過ぎているな……すまん」

『いいんだよ、お兄ちゃん‼ ……兄妹はお互いに迷惑掛け合うのが普通なんだよ』

「それでも、もう少し出来の良い兄貴だったら色々と変わっていたのかも知れない」

『そう、だとは思うけど――でも、私は今が好きだよ。そうやって、お兄ちゃんが誰かのために一生懸命になっている姿とか、めちゃくちゃカッコいいもん。自慢のお兄ちゃんだよ――結菜ちゃんが羨ましいなぁ』

「羨ましいって……別に佐伯とは付き合ってるとかそんなんじゃ――」

『あ、そう言えばそうだったね‼』

 ――って、ここは『本当にお兄ちゃんは鈍感なんだからぁ』的な返しで女には女心が見えてますよ、恋に落ちてますよ展開とかはならないんだな。それが現実。ハロー、リアル。

『でも……本当にお兄ちゃんは変わったよ』

 変わった。具体的に何が変わったんだ? と、聞くと『全体的』と返って来た。

 決して変わることが良いことではない。だから、星乃は僕を褒めているのか蔑んでいるのかとこの場合は分からなかった。

 だけど、次にこう言った。

『――お兄ちゃんが更に遠くなっていくよ』


「……そう、か」

 やはり空は綺麗なままで、星がちらつき月は僕を見ていた。それは欠けているせいか、僕を笑っているように見えた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


もう少しで、このパートも終了・・・

終わりまでお付き合い頂けましたら幸いです!

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