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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
小さな色
30/53

伍:――確かな存在、奥深い場所へ。――続・玖。

次話投稿しました!!


お付き合いください!!

日時 同日。午後七時。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)男子寮(だんしりょう)五階(ごかい)508号室(ごうしつ)



「おかえりなさーい、お兄ちゃん‼ ――と、結菜ちゃん」

 帰宅した僕らを迎えてくれるのは星乃の声と笑顔。加えて空腹を活発にさせる美味しそうな匂いは星乃特製カレーライスだろうか。

 そして僕らは昨日と同じように食卓を三人で囲む。

「今日はどうだったのー?」

「うーん、全くだ」

「そっかー」

 星乃も佐伯のことを心配してくれているのだろう。見た目と同様に美味しいカレーを食べながら、この日も笑い声が零れる会話が出来た。

 佐伯中学生も笑っていた。カレーを悔しそうにだが美味しいと言っていた。これが普通の生活だとしたらそれは楽しいものだろう。

 何も考えることもなく二人の笑顔が見られていたら、僕はこんなにも苦しくは無い。


「それでは白木先輩、お先にお風呂使わせていただきます」

「ああ、替えの着替えのことは何一つ心配することなく疲れを癒してくるといいよ」

 佐伯中学生はお風呂へ向かい、僕は皿洗いをしている星乃の元へ追加で皿を運ぶ。

「僕も手伝うよ」

「いや! いいよ、お兄ちゃん‼ お兄ちゃんは休んで――」

「二人でやった方が効率良いだろ? ――ほら、洗った皿貸して」

「……うん」

 こうやって兄妹、並んで皿洗いした記憶は無い。全く新鮮なことだが、それはただ新しいと言うだけでなく、どこか切ない気持ちもあった。

 聞いても良いのだろうか。そんなことを直接、僕は星乃に聞けるだろうか。考えてしまっていて手が止まっている僕の姿を見て、星乃がクスッと微笑んだ。

 ボーっとしている僕の顔は、人を笑わせるほどに滑稽なものなのかと思ったが、別にそう言う訳ではないようだ。

「ありがとね、お兄ちゃん」

「何を言う、美味しいものを食わせてもらったんだ。後片付けぐらい手伝わせてほしい」

「ううん、そのこともだけど。そのことじゃなくて――」

 キュッと流水を止め、星乃は僕に体を向ける。

 星乃は小さい。それでも視線は力強く、僕は目を合わせるのに照れくさい。

「お兄ちゃんの部屋に来ても良いって……言ってくれたこと」

 星乃はずっと寂しかったんだ。僕はそんな寂しい思いで過ごしていた星乃を知らなかった。どうにか、少しでも寂しさを和らげることは出来ないだろうか。

 それで昨夜、いつでも僕の部屋に来ても良い。と、僕は言った。すると星乃は、嬉しそうだった。

 別に礼を言われるようなことではない。むしろ僕が星乃に謝らなくてはいけない。星乃と関わることに抵抗が出来て、それも過ぎた話なのに僕はいつまでも連れて、星乃の気持ちにも気が付かなくて。

「……すまない、星乃。僕はお前の気持ちに気付いてやることが出来なかった。たった一人の大事な僕の妹なのに……本当にすまない」

 僕が助けなくちゃ、僕が救わなくちゃ……いけないんだ。それが兄として妹に対する責任。

 だから――。

「だから、母さんのこと詳しく教えてくれないか? 言いたくない……かも知れない。だけど、お前を救うために――」

「分かった、お兄ちゃん。――話すよ」

 星乃の瞳はキラキラと潤っていた。


 母さんが夜から朝に掛けて居ない日々が始まったのは、今からだいたい一か月前からだと言う。その間、星乃は一人で家事や食事を済まし寂しい夜を送っていた。

 母さんが居ない理由、星乃は知らない訳では無かった。予想や憶測ではなく、初めから知っていたようだ。

 父さんと離婚して女で一人僕ら兄妹を育てて来た母さんは、安らぎや心の拠り所が欲しかったのだろうと星乃は言う。

 新しい男が母さんに出来た。理由はそれだけで十分だった。

 夜、母さんはその男に会いに行っていたのだろう。毎晩のように星乃を一人にして、休息を取っていたのだろう。

 再婚なんて良くある話で、別に母さんが再婚したって僕らは怒りなどの感情を抱かない。母さんがそれで幸せに暮らせるのなら良かった、とまで言える。

 だが、現状それは母さんのエゴに過ぎない。まだ星乃が家に居るのだ。家に居て、学校に通い、帰宅しているのだ。

 それがおかしい、と僕は思っていた。ならば星乃にも男を紹介して、堂々としていればいいじゃないか。あわよくば、仲良く三人でまた新たな家族として、暮らしていけば幸せではないか。

 しかし、話はここで拗れる。

 母さんは男を星乃に合わせたらしい。星乃も母さんに事情を聞き了承の上であったと言う。

 それでも、星乃が受け入れられず母さんが夜中に会う羽目になっているのか。僕は初めに聞いた時、そう解釈していた。

 初めての顔合わせ、母さんは思ったのだろう。『仲良くして欲しい』と、その想いから故、母さんは男と星乃を二人きりにして、買い物へ出かけたらしい。

 それが間違いであり、始まりでもあった。

 男は過度に星乃の体を触り始め、揚句には服を脱がせようと星乃自身を押し倒したと言う。

星乃の力では到底、大人の男には勝る筈もない。されるがまま、星乃の抵抗も小さく、男の手は星乃の体を遊ぶように撫で、その手は上から下へと。

星乃はあまりの気持ち悪さと防衛反応から、

『どうなってもいい』『抜け出したい』『怖い』『嫌だ嫌だ嫌だ』

 気が付くと、男の片腕は無くなっていた。

 綺麗にその片腕は姿を消してその代わりに真っ赤な液体が星乃を濡らし、帰宅した母さんの悲鳴が響き渡ったのだと、星乃は語った。

 母さんは男が星乃にしたことは知らず、それよりも彼氏の片腕が無くなっていたことに狂ったのだろう。

 それから母さんは星乃と口を利くことも、不気味がるだけで、関係が崩壊し始めた。

 実際に男と会う前から、その男との話を幸せそうに話す母さんを応援していた星乃は、その母さんの表情が頭から離れることはなく、

 『ママが幸せなら』

 と、本当の理由を話すことが出来ない。 ――そう、言った。


 話し終えた星乃は泣きじゃくっていた。

 嫌なことを思い出させてしまった。と、母さんのことを聞いたことに後悔する気持ちもあるが、僕はその物語を知って良かったとも思う。

 星乃は何でも瞬間移動させることが出来る。その男の腕だって、今はどこにあるかも分からない。

 言ってしまえば、誰かの過去だってどこかへ瞬間移動させることが出来てしまう。だが、星乃自身のその過去はあまりにも重すぎて能力は発動しないだろう。

 『ママが幸せなら、それでいい』

 僕の妹は、そう言う。

 でも僕は、

 『お前も、幸せであって欲しい』 

 それしか、言えない。

 僕が一肌脱いだぐらいじゃ解決しないその物語は、星乃のこれからも奪ってく。

 僕だって自分のエゴで、星乃を一人にした。

 そして母さんも星乃を一人置いた。

 星乃は一人。――だた、一人。


「……星乃」

 目の前では、しゃがみ込んだ星乃が嗚咽交じりに頷く。

「星乃、僕ら一緒に暮らさないか? いや、一緒に暮らすって言っても、この寮なんだけどさ。それでも、もう……もう僕は、星乃に寂しい想いをさせない。絶対だ。約束する。――そ、それにさ、星乃が作る飯がうまいから……毎日食べたくって……どうだ……?」

 生徒会へ事情を話せば、堂々と妹と二人で暮らせるかも知れない。……いや、例え無理だとしてもどこかに部屋を借りて住めば良いだけの話だ。

 僕の提案に、星乃は目元を真っ赤にして驚いていた。しゃがみ込んでいた体勢からゆっくりと立ち上がり、僕に抱きつく。

 そして星乃は僕に顔を埋めたまま、

「ありがとうね、お兄ちゃん。――でも、それは出来ない。お兄ちゃんにこれ以上、迷惑は掛けられない。――私、一人で寂しかった。とっても寂しかった。ママはもう、私のことより今付き合っている男の人しか目に映ってない。話してくれないし、目も合わせてくれない。でも……それでも、最近はちゃんと毎日お弁当は作ってくれるの、私の大好きな甘い卵焼きもちゃんと入ってて、すごくおいしくて……おいしくて。まだ、私の居場所は……あるみたい。――それにお兄ちゃん、もっと私は強くならなくちゃダメなの。一人で生きていける強い女にならなくちゃいけないの。あれ以来、男の人が苦手で怖くて……だから、負けないように強くなるんだってそう誓ったの。でも、お兄ちゃんは平気。むしろ安心する。こうやってお兄ちゃんの体温を感じてると怖いものなんて無くなる……。――でも、でもね、お兄ちゃん。もし、またこうやってお兄ちゃんに会いたくなったら来ていい……? また、こうやってお兄ちゃんに抱きしめられたくなったら来ていい……? 泣きたくなったら……また、来て……いい……?」

「――もう、泣いてんじゃねーか」

 僕は強く抱きしめた。苦しいだなんて思われても良い。え、お兄ちゃんってロリコンでシスコン? だって、思われても良い。

 





ただ、僕の涙は見せられなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


第玖話を投稿予約した当日はものすごく暑くばててしまいそうです・・・

みなさまも、急な気温変化には気を付けてください・・・・

アイス食べたい・・・


余談になりましたが、

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