伍:確かな存在、奥深い場所へ。――続・漆。
次話投稿しました!!
このパート長いですが、お付き合いください!!
と、まあそんな訳なのだ。それから星乃は何変わることなく普段通りに僕と触れ合おうと話し掛けては来ていたが、僕が意識してしまい上手くはいかなかった。
僕が高校に入学し寮である為、関わることは無くなるのだろうと思ってはいたが、物語の進んでいくせいで、今回はこのような形で星乃との会話を経て会う事になった。
学校生活は上手くいっているという星乃、よくぞ立ち直れたものだ。
ふと、時計に目をやると星乃と通話を終了して十分が経つ。そろそろ、姿を現して良い頃ではないのか。そう、玄関に視線を移すと、
「おじゃましまーす‼」
タイミングはばっちり。靴を脱ぎ、律儀に挨拶を振りまいて入ってくる我が妹の姿が見えた。ばきゅん、と心臓が跳ねる。久しぶりに会うと言うのは度胸がいるものだ。
「ひ、久しぶりだな。――星乃」
「うわぁ、本当にお兄ちゃんだ‼ へぇ、少し身長伸びた? ――なんか、私よりずっとずとたかーい‼」
笑顔いっぱいで縋りついてくる星乃。やはり、星乃は変わらない。
「初めから星乃よりは高かっただろ? ――ていうか、すまないな。わざわざ、その、下着……を持ってきてくれて」
「ううん、ぜんぜん大丈夫だよ⁉ そのおかげでお兄ちゃんに会えたんだから私、嬉しくて嬉しくて……お兄ちゃんに抱きついちゃいそう‼」
「がはっ」
抱きついちゃいそう。ではなく、抱き飛びついている。なんだか、軽い。少し痩せたんじゃないのか? 聞くと、そりゃ、乙女だもん‼ スタイル抜群に憧れ持つじゃーん?
うひひー。と、僕から離れない。
「そ、それよりも星乃が持ってきてくれた下着を早く佐伯に持っていかないと本気でふにゃふにゃに――」
「えー、もっとお兄ちゃんと話したいのにー」
「話す、話すから、離してそれを先に持っていってやってくれないか……?」
ぷくーと頬を膨らませる星乃に僕は催促する。仕方ないなぁ、お風呂場ってどこ? 僕は指さすと聞いたことのあるブランドの紙袋を持って行った。
あの中に下着一式が入っているのだろう。……それよりも星乃と佐伯中学生は初対面だが大丈夫なのだろうか。佐伯中学生の立場を考えると救世主とも思える同い年の女の子がいきなり下着を持って入ってくるのだ。さて、白木先輩は誰を連れて来たのだろう? あれ、もしかして誘拐? とはならないだろうか。心配である。
逆に星乃の立場になると、兄の部屋に同い年の女の子がお風呂に浸かっており尚且つ、下着が無いから持って来てくれと見ず知らずの人に持っていくのだ。加えて、星乃にも詳しい説明をしていないから、お兄ちゃんは一体誰を連れ込んで風呂にぶち込み、私に下着を持ってこさせたのだろう。あれ、もしかして誘拐? とはならないだろうか。心配である。
見に行こうか……心配だから。そう、心配だから。別に覗こうだなんて考えではない。僕が誤解されるのは御免だから、そうだから見に行くのだ。うん、行こう。
こっそり、こっそり、足音を立てずに……って、怪しいものではありませんよ?
風呂場の扉は閉められており、いきなり突撃するのは非常識であると、考えた僕は片耳を扉に当てた。
中から微かに喋り声が聞こえてくる。
……ねえ、あなたはお兄ちゃんの何? 私ですか? 私は――白木先輩から同じ部活の生徒と聞いています。 ……白木先輩? 聞いています? え、お兄ちゃんと同じ高校へ通ってるの? はい、そうです。 ……まって、全く意味が分かんない。 だって、そのあなたは私と同い年、だよね? はい、そうですが。 ……ん、え、その、私がバカなのかな。
大丈夫だ、星乃。お前はバカじゃない。てか、誰もバカではない。
では、逆に聞きますが。白木先輩のことをお兄ちゃんって、白木先輩とあなたは兄妹ですか? ……うん、そうだけど? そうですか、兄妹ですか。その失礼だと思いますが似ていませんね。もっと、その白木先輩の妹さんならパッとしない感じの。 ……はぁ? それってお兄ちゃんがパッとしないって言いたいの⁉ お兄ちゃんはパッとしてるしカッコいいし‼ それに私とちゃんと似てるし‼ いや、その。 ……何⁉ まだ、文句あるの⁉ よし、分かった‼ もうパンツ貸さない‼ 返して‼ 今すぐ脱いで返して‼ ちょっと、すみません! それだけは‼ それだけはお願いします‼
――なに、やっているんだ中学生。いや、僕が各々に説明していなかったのが悪いのか。
コンコン、とノックして僕の存在に気付かせる。
「おーい、何も問題ないか?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」「大丈夫ですよ、白木先輩」
どこが大丈夫なのか知らないが、もう少ししたら二人とも出てくるだろう。……それにしても、僕の部屋に異性が二人も居ることが発覚したら謹慎もあり得るのかな。それが妹だとしても許可無しに部屋に上げるのは多分、生徒会のあの女が黙ってはいない。
これから騒がしくならなければいいのだが……。
日時 同日。午後九時半過ぎ。 場所 第一能力混在学園男子寮五階508号室。
僕と佐伯中学生と星乃といった異色の組み合わせでの遅い夕食は違和感こそ感じたが、それなりに楽しいものだった。
いつもは一人でコンビニ弁当や気分の良い日は自炊などで食事を取っていたからであろうか。皆で食べるご飯は美味しいという言葉があながち間違いではないと気付く。
共通の話が無いからこそ話題が新鮮であり、また佐伯中学生のキャラを深く知り、僕なりに星乃との距離を少しは縮めることが出来たと思う。
「いやー、星乃って料理が出来るようになったんだな」
「あったりまえじゃん‼ お料理が出来ない女の子なんていないよ!」
「……お前、今敵に回した女性の数、計り知れないからな?」
てへっ。と星乃が惚けている横で佐伯中学生が視線を徐に逸らす。それは分かりやすい合図であった。
しかし、僕はそれを逐一指摘するようなことも責め立てることも馬鹿にしたりすることもしない。気付かないフリをして食器を片付けようと手を伸ばすと、
「あれ? あれれれれ? もしかして、もしかして、結菜ちゃんお料理出来ないのー?」
余計なことを……ほら、ビクッて佐伯中学生が体を歪ませたじゃないか。
「……何のことですか? お料理……? わ、私だってお料理ぐらい出来ますけど?」
どうしてそこで見栄を張るんだ。あーあ、また言い争いが……。
世話が焼ける妹がもう一人増えたような、そんな気分にさせられる。僕はその間に入ることはせず、大人しく食器を片付けることにした。
台所で食器を洗っていても聞こえてくる罵声の浴びせ合い。料理が出来る出来ないの話からすっ飛んで今は髪型や服装のダメ出しやどこのお店が安くて品ぞろえが良いか熱い討論を繰り広げていた。
つまるところ、仲は悪くないみたいである。一安心、一安心。
食器を洗い終え、二人の所へ戻ると二人仲良くソファーに凭れテレビ鑑賞しているではないか。
「星乃、母さんにはなんて言って出て来たんだ?」
時刻は午後十時を回っている。この時間に娘が家にいないとなると親も心配で――。
「んー、ママいつもこの時間家にいないから」
え、そうなのか。
「母さん、家に居ないのか?」
当然のように言った星乃を見て同じことを繰り返し聞いてしまう。もちろん、返ってくる答えは『居ない』
どうしてだ? 聞くと、知らないよ。とだけ返って来た。
あまりにも普通に答えるから、それ以上に詳しいことを聞けず僕は風呂へと向かった。
――湯船に浸かり考える。
どうして母さんが居ないのか。星乃は『いつもこの時間はいない』と言っていた。この時間から居ないのか、それともこの時間の前から居ないのか。――どちらにしろ、この時間帯はいつも星乃一人で家に居たのだろう。そこまで考えて、料理が出来るのは普段から自炊しているからであると分かった。
うちは母子家庭で星乃は母さんしか頼れる人がいないというのに。――それに、そんなこと星乃は僕に一度だって言ってこなかった。黙っていた。一人で寂しくはなかったのだろうか。いや、そんなことはない、寂しかった筈だ。いつから母さんがこの時間帯家に居ないのかは知らないが、慣れた言い方から一か月前ぐらいだと僕は思う。
憶測だけで語るのはいけないことだが、どうしてなのだろうか。とその不安と疑心から良い方向の結末へと導くことが出来ない。
生活していくうえでの金には困りがないのは確かなことで、別れた父親が生活費をちゃんと毎月支払い、僕がこの学園に通うことにより発生するお金も決まった金額、家の方へ送っている。
言っていなかったが、この学園は生徒に毎月給料を支給する。意図は分からないが、この学園自体が国の大きな実験室であり僕ら生徒はそこのモルモットとして通っている。と、学園七不思議の一つとして上がるぐらいだ。
だが多分、その七不思議は完全な嘘ではない。僕も実験台として僕らは通っているのだと思う。話は生々しくなったが。
従って、母さんも僕も金には困っていないのだ。
無理なく生活できると言うのに――。
ばしゃん、と両手でお湯をすくいリセットの意味付けで顔に浴びる。
このようなことは考えたくない。考えたくないのだが、そう思ってしまうと余計頭から離れてはくれない。
思うに、良い終わりではない。何かしら星乃が悲しむ結末が待っている。ただでさえ、佐伯のことで頭がいっぱいなのに、追加で妹の問題も知ってしまった。
佐伯と星乃、両方大事である。どちらかを犠牲に取ることなんて僕には出来ない。
しかし、星乃も中学二年生であるから薄々気付いているのではないだろうか。母親の変化ぐらい、女の勘というのは侮れない。
気付いていて尚更、あのような態度を取っているのだとしたら、それはそれで問題だ。
今更、僕が星乃の見方で正義を気取って良いのか分からないが親には責任というものがあるのではないか。中学二年生を大人として母さんは見ているのだろうか。
違うだろ、星乃はまだ子どもだ。大人への階段を一歩一歩、踏みは外さないよう慎重に進んでいる子どもだ。
加えて、思春期といった難しい時期だと言うのに。
確かに、親になったことがないから親の気持ちは分からない。だが、子どもの気持ちだって忘れてしまっているだろう。
お互いにお互いの気持ちが分からないから、お互いにお互いを分かり合うためにぶつかる大事な時期だから、親の存在が必要なんじゃないのか。
――って、僕は誰に言っているのだろうな。
確かなことは分かっていないと言うのに先走り過ぎたようだ。
抱いた不安、疑心を洗い流すように、再び僕はお湯を顔に掛ける。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
やはり、小説を書くことは楽しい・・・・
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