伍:確かな存在、奥深い場所へ。――続・伍。
次話投稿です!!
お付き合いください!!
日時 同日。午後七時半過ぎ。 場所 第一能力混在学園男子寮五階508号室。
ちょっと待っていてくれ。そう言って佐伯中学生を外で待たせ、散らかった部屋を大急ぎで片付けた。同性なら二、三分ほどで終わる片付けも異性であり佐伯中学生であるとなると十分という時間を費やしてしまったことに関して、健気に外で待っていてくれた佐伯中学生に対し申し訳なく思う。
部屋に異性を招いたのは初めてなことで何も同性の時と変わらない筈であるが、多少の緊張感と羞恥心が佐伯中学生と共に部屋に上がった。
当然なことに寮であるから大して部屋は大きくない。だが、何不自由なく暮らせることが出来るような設備は整っている。部屋の内装は各々にカスタマイズ出来るが、僕は至ってシンプルを好むため、普通な部屋が出来てしまった。
ソファーへと腰掛けるよう佐伯中学生に促し、僕は二つお茶を用意して一つを差し出した。
「ありがとうございます。――綺麗な部屋ですね」
「そ、そりゃ十分も待たせてしまったんだ。それでも散らかっていたら僕は普段どのようなゴミ屋敷で生活しているんだって話だよ」
普段は若干ゴミ屋敷です。
佐伯中学生は物珍しそうに僕の部屋をきょろきょろと見渡している。やはり自分の部屋というのはまじまじと見られると恥ずかしいもので、僕は佐伯中学生の意識を部屋ではなく僕に向けるべく話の続きを投げかけた。
そしてお互いにお互いを探り探られ、考えに考え一応結論をひねり出した。
「失った記憶を取り戻すべく、明日からは学校を休みだという口実で手掛かりを探そう」
「――しかし、それでは出席日数という問題に引っかかるのではないでしょうか? 勿論、私だって失っているという記憶を取り戻したいですが、学園生活に支障をきたすようなことはなるべく避けたいです。わがままとは分かっていますが……どうにかなりませんか?」
「大丈夫だ、そのことに関してはいい案がある」
僕はスマホを取り出し、電話を掛けた。掛けた相手はツーコール程で電話に出る。
『どうしたんだ、白木? 何、私に電話を掛けてくるなんて珍しいじゃないか。――あ、もしかして今日の夕方のことか? いやいや、あれは申し訳ないと思っているさ。あーそうだ、白木からも佐伯に謝っていてくれないか? 私からも詫び一つや二つ入れたいと思っているが、そこは白木、君も協力してくれ』
「――では先生、一つ佐伯への詫びとしてお願いを聞いてくれませんか?」
『ん? なんだ、何かあるのか?』
「実は――」
――以下、説明省略。
『公欠扱いか……出来ないことも無いが今週までが限度だぞ? 今日が五月の十二日、十七日までの五日間で佐伯の失った記憶ってやつを取り戻せることは出来るのか?』
「保証は出来ませんが……全力を尽くすつもりです」
『――そうか。白木がそう言うのなら分かった。佐伯の欠席は公欠扱いということにして欠課にならないように手配してやる』
「すいません、助かります」
『何、気にすることではない。佐伯への詫びだ。――私は可愛いものを見るとつい理性が吹っ飛ぶものでな……これからは気を付けるようにするさ』
「――それと、先生」
『なんだ、他に何かあるのか?』
「いえ、一つ聞きたいことがあって――先生は、中学二年生の姿に変わってしまった佐伯を疑うことなく佐伯だと気が付いたんですか?」
『――あはは、おかしなことを言う奴だな。当たり前に決まっているだろう? 佐伯は私が受け持つクラスの生徒であり、また私が受け持つ部活の生徒だ。何があっても忘れる訳がない』
「そう……ですよね」
『それに白木、お前も心配しなくても私は白木 月乃と言う存在を忘れてしまうなんてことはしない。佐伯と同様にお前も私の大事な生徒だ。例え、お前がカメムシなどに姿を変えてしまったりしても私はそれでも白木をカメムシと呼ぶさ』
「――逆です、先生」
『あはは、冗談だ。それでは佐伯を頼んだぞ。私も極力部室にたばこ……顔を出すからな』
「……よろしくお願いします」
『では、切るぞ?』
「あ、それともう一つ」
『どうした?』
「あの――先生の名前……聞いていいですか?」
『名前か……意味がないとは思うが、言わない理由もないから教えてやる。私の名前は――』
「……」
『 だ。 ――それじゃ、切るぞ』
プツン、通話は終了した。
「白木先輩……どうでしたか?」
「大丈夫だ、佐伯は今週まで公欠扱いの休みを取る予定となった。これで出席日数共に欠課の心配もない。それでも授業は後れを取る事になるが……それはいいか?」
「はい、問題ないです。遅れた分は取り返せばいいだけの話なので。――それと白木先輩」
「どうした?」
「……あの、もし差し支えなければお風呂を貸していただいてもよろしいですか? 私、お風呂入らないと体中が気持ち悪くて」
体をもじもじとお風呂入りたいアピールを見せてくる佐伯中学生の為に一番風呂を沸かし、着替えはどうするのか? その疑問には『部屋着を貸してください』と、それだけ言ってお風呂へ入っていた。
のぞき? いやいや、そんな罪は犯さないよ……うん、大丈夫……。
「おーい、ここに着替えの服を置いておくからなー? バスタオルは棚の二番目に入っているから、それを使ってくれ。それと――」
必要なものはそれ以上あるだろうか。考えながら磨りガラスの扉一枚を挟んで佐伯中学生との会話中に見落としていた最大の穴に気が付いてしまう。
「え、あ、その……佐伯?」
「はーい、なんでしょうか?」
「えっと――そ、その、下着……とかどうすんの?」
「あ」
私もそこまで考えていませんでした。と、言わんばかりで返って来たふぬけた佐伯中学生の声。――僕、女性用に下着だなんて持っていないからね⁉
「白木先輩、持っていないのですか?」
「だから、もってねーよ‼」
「――そう、ですよね」
ちゃぽん、ちゃぽん、この危機をどう乗り越えようか浴室からは水面が揺れる音と共に佐伯中学生のかすれた『どうしよう』の声が聞こえてくる。呆然とその場に立ち尽くす僕、この状況に置いて僕に責任があるような気がしてままならない。
女性用、それも中学生が好みそうな下着を今から僕がひとっ走りお買い物してこようか。――いや、冷静に考えろ。想像しただけで周りの視線が痛い。では、どうしたら良いか。僕の下着をレンタルしてもらおうか……却下。それとも、下着は穿かない方向で――即却下。
女子寮へと僕が取りに行くことも出来ない。万事休すとはこのことを言うのだと強く思う。
それから僕は一旦、風呂場から去りソファーに凭れ頭を掻いた。
「ノーパン」
僕の口からはとんでもない言葉が顔を覗かせ、自分自身驚いたが術がない状況に恥じることさえもうどうにでも良かった。
だが、一つ。それでも一つ、僕は可能性があることを佐伯中学生には黙っていた。別に意地悪をして黙っていた訳ではない。決していやらしい目的で黙っていた訳でもない。
この考えは候補から外しておきたい、その想いが故に僕は隠していた。そしてこれからも隠し通していくつもりであったが、長時間の入浴で佐伯中学生の体がしぼしぼにふやけては申し訳ないし、何よりノーパン少女と同じ部屋というハーレム八割のライトノベル展開に僕の理性が正常に保っていてくれるのかとそんな不安が段々と込み上げてくるさなか、僕は行動へ移した。
再び風呂場へと向かい、僕は佐伯中学生へ最終結論を持ちかける。
「女性用の下着であれば柄などは別に重視はしないだろう?」
「え、あ……はい。そのようなわがままは言えませんし、気にしないのですが――ま、まさか、下着ドロボーとか⁉」
「そんなリスキーなことをしてまで佐伯にパンツを穿いてもらおうとは思っていない‼」
この状況に置いて僕の変態発言は温かい目で見守ってもらいたい。しかし、それを聞けたならもう大丈夫だ。
急いでソファーへと戻り、スマホを開いてはこれから一生関わることが無いと思っていた連絡先の欄に一つ登録している人物へと電話を掛けた。
プルルルル、プルルルル、その単調な音が僕の鼓動を早く動かす。今更、どのような声色で話せば良いかすら分からない。正直なところ、このまま電話に出ることは無く僕が痛い視線を全身に浴びながら女性用の下着を買いに行く方が幾分マシなのではないか。と、そこまで思い詰めたその時『もしもし?』と、コール音に代わり懐かしい声が僕の聴覚を刺す。
「……もしもし、その、僕だけど……分かるか?」
懐かしいと表現したが『あ、もしもし? 僕だよ、僕‼ 覚えてる⁉』と、流暢に言えるものではない。加えて、僕のことを相手は忘れているのかも知れない。ちゃんと自己紹介するべきだった。そう、半ば後悔しかけたがそれら全て吹っ飛ぶぐらいの音量で言葉が返ってくる。
『え、お兄ちゃん⁉ うそ、本当にお兄ちゃんなの⁉』
「ああ、そうだ。――元気にしていたか?」
『うん‼ ちょー元気だよ⁉ え、てか本当にお兄ちゃんだ‼ わあーい! なんで、なんで⁉ どうして電話なんて掛けてきたの⁉ お腹痛いの?』
「大してお腹は痛くないんだが……なんていうか、星乃に頼みごとがあってな」
『頼みごと……? うん、なになに? お兄ちゃんの頼みごとなら聞いてあげるよ?』
「ありがとう。星乃、時間が惜しいから率直に言わせてもらうとだな――」
『うんうん』
「パンツを貸してくれ」
『……え、』
最後まで読んでいただきありがとうございます。
なろうは比較的、異世界転生ものが多いと思います・・・
そんななか、僕の拙い物語を読んでくださる方がいるのだとおもうと、
これからも頑張って行こうと思っています!!
ここだけのはなし、前回書いていた
読まれる日常と、読む非日常。
その時期は色々とあり、完結させることが出来ないまま止まっております。
止まったままのキャラクター、作った責任を果たさないといけないとそれは作者の最低限のキャラへの礼儀だと思っております。
いつかは、完結させれるよう。この物語を書きながら常々思っております。
そんな僕の信念、ちゃんと完結へと導き、胸を張って堂々と言える日が来ることを含めてこれからも頑張って行こうと思っております。
長い目でお付き合いくださったら幸いです。
長い余談となりましたが
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