伍:確かな存在、奥深い場所へ。――続・参。
次話投稿しました!!
お付き合いください!
日時 同日。午後五時半過ぎ。 場所 第一能力混在学園内。
「この学園の制服を着た、見た目が中学二年生ぐらいの黒髪ロングの女子高校生を見かけていないか?」
このような質問を行違う生徒に尋ねてみても返ってくる答えは統一して、『はてな』である。加えて、そんな事を聞きまわっている僕に向けられる視線も統一して、『なに、こいつ』だった。
全く、どこに行ったんだよ……。
不幸なことにこの学園はめちゃくちゃ広い。某人気テーマパークのアトラクションを一日では乗り切れないように、この学園を隅々まで歩くのならば、三日は掛かるであろう。
率直に無理である。
しかし、いち早く佐伯中学生を確保しなくては面倒なことが起きてしまいそうな予感がしてならない。僕は痛い視線を真っ向に浴びながらも生徒に同じように尋ねていく。
そんな僕の苦労に神様が微笑んだのか、僕のヒットポイント残り四程度の具合に、有力な目撃情報を得た。
え、その子? えっと、そう言えばさっき……あ‼ 確か、教師に手を引かれてどこかに連れてかれていたよ? ん? その先生の名前? うーん、あれ? 見たことはあるんだけれど思い出せれなくて……うん、そうだよ。女の先生だったよ。そうそう、格好がだらしない先生。
そのような証言から佐伯中学生はうちの担任(確定)に捕まったと断定した。知り合いというか部活の顧問と一緒にいると言うのであれば多少は安心できるが、そんな安堵も束の間、僕は新たな不安に背中を押され走り始める。
その不安とは何か? 小さく可愛い佐伯中学生に何を仕出かすか分からない。である。
目的地(担任と佐伯中学生が居る場所)は何となくだが、見当は付いた。以前、担任の家で知ったことなのだが、担任は見た目に寄らず可愛いものに目がない。故に、佐伯中学生を人目の付かない所で愛でるに違いないのだ。くそ、羨ましい。じゃなくて――
「……頼むから無事でいてくれ」
担任が佐伯中学生の体を必要以上に触りつくす想像が頭の中で走馬灯のように上映される。それを糧に僕の素早さはアップしていく。居るとは限らないが、居ないとも限らないその場所へ到着目前にて、こちらから二人の影が見えた。
居た。やっぱり居た。
場所は、校舎からもグラウンドからも、普段使うその他の施設からも離れている小さな高台にある東屋。
風通しも良く見晴らすことが出来る為、カップルに有名なスポットであるが既に東屋に人影が見えるのであれば、誰も近づこうとはしない。リア充を邪魔する訳にもいかないし、何よりリア充を見たくないからである。従って、先に到着している担任と佐伯中学生に近づくものは僕しかいないのだ。
高さの間隔が小さい階段を上り、徐々に二人へと近づくと声が漏れて聞こえてくる。
「……ちょっと、やめてくださいよ」
「別にいいじゃないか、減るものではないんだから」
「そんな問題ではないですよ」
「一度でいい、一度でいいから――」
はい、そこまで。
僕は聞くに堪えず、突撃訪問。二人を視界に入れたその時には、佐伯中学生の制服は脱がされかけていた。
「二人はここで何をしているんですか!」
さて、この質問に担任はどのような言葉を返すのか。現行犯で逮捕してもいいが、一応に話は聞く優しさは僕だって兼ね備えている。
「……何って」
言葉を詰まらせる担任。言い訳が出来ない状況にもがき苦しんでいるのか苦渋の表情を浮かべていた。もう少しだったのに、悔しい。と言わんばかりに。
「佐伯が制服に下に着ているTシャツが、私が愛してやまないクマのぬいぐるみのグッズTシャツだったと聞いて、一度でいいから写真を撮らせてほしいと頼み込んでいたのだが……」
「……だから先生、写真は恥ずかしいですよ」
羞恥滴れる勘違い。
佐伯中学生捜索編は、その言葉で幕を閉じた。
「もう、単独行動は控えてくれよ」
「はーい、白木先輩」
最後の最後まで納得することのない駄々をこねる担任とは別れ、再び僕と佐伯中学生は夕日が温かく差し込む学園内を歩いていた。
「そして佐伯、もう少しで部活動の時間も終わりだからそろそろ元の体に戻してもらった方が良いんじゃないのか?」
「――それはそうなのですが……白木先輩。どうしたら元に戻りますか?」
「ええ、知らないのか⁉」
「はい、誰の能力かも分かりませんしどのような発動条件なのかも……」
「まじかよ」
佐伯中学生の冷静さから僕は勝手に元の体へと戻る方法を知っているのかと勘違いしていたようだ。……なんとも今日は勘違いが多い。
「このまま一生戻らなかったりして……」
ボソッと不安を煽るように呟く佐伯中学生。しかし、その姿からさえ初めと変わることなく本人から不安を感じ取ることは出来ない。
佐伯中学生は佐伯へと戻らなくても嫌ではないのだろうか。女性は常日頃から若返りを望んでいるのだろうか。このまま二年と歳が離れた同級生と学園生活を送っていかなくてはならないのだろうか。
「大丈夫だ。僕が元の体へと戻るまで協力するから心配しなくていい」
例えそうなったとしても僕は仕方ないと諦めが付く。言ってしまえば、被害に遭っているのは僕ではない。本人が諦めてしまったら他人が何を言おうがそこまでである。
しかし、本当に本人が諦めてしまい普段の生活が普段通りでなくなるのであれば、僕の自己判断、僕の我が儘として解決したい。僕はこの学園、この部活動、そして何より佐伯のそばに居ることが出来る日常に感謝しているのだから。
それを僕は壊したくはない。
「――ありがとうございます。その……優しいんですね、白木先輩」
「おいおい、今更何を言っているんだ。時間は浅いが能力部に入って色々な濃い経験をしてきた仲だろう」
そうである。この学園へ入学して能力部へと入り、時間は余り経ってはいないが既に思い出が濃い。外見は佐伯中学生だとしても中身は佐伯なのだ。
焦ることなく、慎重に考えて行こう。そう、僕は佐伯中学生に言おうとした。心の底では不安に思っているかもしれないから、僕は佐伯中学生の中にいる佐伯に言おうとした。
しかし、言えなかった。――いや、いなかったのだ。
「あの……私と白木先輩はそのような仲なのですか? ――すみません、私。今日、初めて白木先輩と出会った気が……」
キーンコーン。部活終了時間を告げる鐘が重々しく鳴り響く。その鐘は佐伯と聞いてきた馴染みある音。その後に『帰りましょうか、白木君』と佐伯は必ず言う。
だが、その佐伯はいない。今、目の前で僕を見上げているのは、佐伯ではなく佐伯中学生。共に能力部として活動してきた思い出など存在しない佐伯中学生。僕を信頼して信用して自分の危険など顧みなかった佐伯は、もう僕の目の前にはいなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今週は夜勤の為、なかなか更新できるか分かりません・・・
極力更新するつもりですので、よろしくお願いします!!
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