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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
言えない色
21/53

肆:混ざり合った結果故の、不確信。――終了。

肆パート完結です!

「走って‼」

 佐伯は体を引いて僕を受け取り、飛び出した速さを保つように佐伯は僕を真っ向へと送り出す。

 全てを理解した。理解し、僕は思い切り女子生徒目指して走るが、頭に強く残る佐伯の作戦には身の毛が立つほど怖く悍ましかった。

 眼前に映るは、焦る『白虎』のリーダーとあたふたとしている女子生徒。耳打ちする暇さえ与えることなく、僕は女子生徒に飛びついた。

 男子生徒である僕の体重が華奢な女子生徒に全力でぶつかるのだ。どれ程に後方に飛んだかは分からないが、一応、衝撃が少ないよう女子生徒を庇うかたちで地に擦れる。

 多少の打撲で済む怪我であるが、女子生徒は気絶していた。怖かったのであろう。それも仕方ない、僕も十分に怖かったのだから。

 ズキンと痛む膝を無視して体制をすぐさま立て直す。振り返ると、『白虎』のリーダーが俯き立っていた。

「そろそろ、降参した方が良いんじゃないのか?」

 歩み寄り投げ掛けるが、俯いたまま不敵な笑いが木霊するだけで喋ろうともしない。そして、一定の距離近づくと、

「近づくな‼」

 と、声を張り上げる。その声色は降参ではなく、抵抗だった。

「……君、名前は何というのですか」

「名前……? 僕は白木――」

「教えては――」「――月乃」

「白木 月乃……良い名前ですね」

 意味が分からないまま、僕は見えない壁にぶつかりその場に尻もちを搗く。

佐伯の方を見ると絶望満ちていた。『教えてはならない』とでも言おうとしたのだろう。呆気ない結末に僕は言葉も出ない。

「気付きましたか、皆さん。――そうですよ、この僕の能力の発動条件は相手の『名前』を知ることなんですよ。今朝からこの館内にいた生徒会の方々の名前は把握済みです。ですから絶対に近づくことが出来ません。そして僕の隣にいた美沙(みさ)は白木君、君たちみたいな覆面で活動している園外治安維持隊用に僕の隣に置きました。――美沙は記憶力に長けている。学園全員の顔と名前を記憶しています。僕と美沙が組めば誰も近づくことが出来ません。あはは、どうですか。君たちは敗北ですよ」 

 コツコツと、やけに足音を立てながら『白虎』のリーダーは気絶している女子生徒に近づいては顔面を叩き無残に起こす。女子生徒は打撲の痛みに苦渋しながらも横に付いた。

「あれ、白木君。今、不思議そうな顔をしましたね。どうして、美沙は僕に近づけるのか。そんな疑問でしょう? そうなんです、白木君。美沙は僕に近づくことが出来るんですよ。もう、この際だから教えてあげますが、僕の名前を知っているからです。僕の名前を知っているモノは僕の能力は効かない。そんな単純な事です。悔しいですか? 悔しいでしょう。そんな単純なことにも気づかないんだって――バカな人間共が」

 この場の人間、全てが敵わぬ相手をただただ眺めていた。『白虎』のリーダーの名前を知っている人間なんてこの場にいないのだろうから。

「つか、そもそも親切に僕の名前教えってやっていたのにそれにも気付いてねーんだろ? まじ、笑えるじゃんかぁ‼ いつまでもこの仕組みに気付かないから、退屈で退屈で遊び足りねぇんだよ‼ だから、言ってたよな⁉ ルール説明ちゃんと聞いてんのかぁぁって⁉ 遊びにはルールがあるんだよ‼ それに則り遊ばなきゃ遊びじゃねぇ‼ ――お前らの負けだ、生徒会」

 『白虎』のリーダー、とそうやって名前を知らないから表現するしか術は無く、それが仇となるとは思いもしていなかった。『白虎』のリーダーは佐伯が先ほどまで持っていた銃を拾い上げ、コッキングする。その銃口は、敗北へと導く始まりとして僕の頭部へと向けられた。

「ルール覚えてるかぁ? 相手を動けないようにしたら『タッチ』と同様。まあ、変更とか何とか言ったけど元からこういうルールだったんだよなぁ」

 ――終わる。『白虎』のリーダーを越えて見える佐伯の魂が抜けた表情を見ると、僕はそう思えた。佐伯が責任を感じるのではないだろうか。あのような作戦を立てたからと自分を責めるのではないだろうか。だとしても、僕は佐伯を恨みはしない。あの作戦、僕は佐伯の中身を怖がった。そこまで人を信用できるのか。そこまで僕を信頼しているのか。僕が飛び出し助けてくれると思っていたか。――佐伯らしい。

 僕は目を閉じた。

「それじゃあ、白木君。――『タッチ』」



日時 同日。午後七時過ぎ。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)付属(ふぞく)大型(おおがた)商業(しょうぎょう)施設(しせつ)



 結末から言おう、生徒会は勝利した。勝利条件である相手チームのリーダーを『タッチ』すると言ったルールを従順に行い勝利したと言う。だとしたら、このお遊びにて無敵を誇っていた『白虎』のリーダーの能力を搔い潜り『タッチ』をした人物が一体誰なのか。

 それは丹川が連れてきた思いもしない考えもしない人だった。僕がその話を初めて聞いた時は、なるほどなどと納得することは出来ずに、僕が無傷でこの場にいる理由やお遊びが終了したと言う安堵感を優先していた。しかし、その実感を時間が経つにつれ現実味が帯びて来た時、僕は改めて誰だったのか、どうやって搔い潜ったのか、それらを佐伯に問うた。

 そんな佐伯は僕が横になっているソファーにパイプ椅子を近寄せ付きっ切りで様子を見ていてくれたらしいのだ。そこまで世話を焼かせ、同じことを問う僕に佐伯は嫌気を差すことなく簡潔に答えてくれた。

 『先生は『影が薄い』ようです』

 それだけを聞いて何が分かるのか。――僕には全てが繋がり理解できた。逆に理解出来ない人がいるのだとしたら僕の語彙力に問題あり。だからさほど気にすることはない。

 ここでの『先生』とはうちのクラス(陸組)のクラス担任のことであり、よくもまぁ先生になれましたね。の女教師である。

 ひとつ前の物語、僕は担任の名前がどうしても思い出せないと言う失礼極まりない問題が生じ、今まで恥ずかしさの余り誰にも聞くことが出来なかったが、それはつまるところ解決しない問題であったのだ。

 今でさえ、『担任』と表現することしか出来ないが、それは担任の体質が故であった。『影が薄い』その為に名前が出てこない、覚えられない。と言ってしまえば簡単で残酷な体質なのだ。

 いくら記憶力が長けている女子生徒でさえ、覚えられないほどの影の薄さ。誰も知る訳がない自分の名前。それは如何なるものなのか。それこそ張本人である担任しか分からないし、感じられない。

 ここからは僕の勝手な持論だが、担任のあの態度と言動それらは、他人の記憶に強く印象付ける為の演技ではないのか。存在を忘れられないように、自分が周りから消えないように、そのような担任の儚い想いがそう動かしているのではないのだろうか。

 そうも思ってしまうのは、担任宅を出る際に小さく手を振ってくれたあの光景が脳裏に焼き付いて離れないから、僕だけが担任の本物を知れた気がしたから、という独占欲から来るものであろうか。否、それは僕ら(陸組)の担任であり、僕と佐伯(能力部)の顧問であるからでもあり、加えて担任の体質のおかげで解決したとも言える。同時に感謝しなくてはならない。

 と、生徒会が勝利した経緯はここまでとして、次に僕がこうして語れるほどに無傷な理由を話そう。

 率直に言うとするならば、丹川の能力で弾丸が当たる直前に安全な場所へと移動させられたのだ。

 丹川 心優の能力。それは『一定(いってい)円内(えんない)移動(いどう)能力(のうりょく)』本人は『サークルワープ』と言っている。

その字の通り、自分を中心として半径一キロ、直径二キロの円形までの一定距離であれば他人を瞬間移動させることが出来るといった能力で、発動条件は『一定の興奮状態を越えたモノのみ』に限られるらしい。その時の僕は、アドレナリンがドバドバ出ていたと笑われるほどであり、賑わいを見せていた館内に劈く警報機が鳴り響いたあのパニック状態に堕ちた人々を瞬時に館外へと瞬間移動させた時にはさすがに死ぬかと思ったと、笑顔で語っていた丹川に僕と佐伯は同時に苦笑いで返すしかなかった。

 要するに今回の物語は、体質(無色)と能力(有色)、その二つは今まで組み合わさることの無かったが為に、誰しもが解決方法を未然に発想することが出来ず、解決はその場の探り合いで収まることしか出来なかったと、混乱(あわよくば死)が待っていた展開であった。

 加えて、非能力者(無色)を詳しく知らない僕にとっては今回の事件、能力者(有色)よりも危険であるのではないかと、また慈悲深いハンデを背負って歩んでいるのでないか。そんな風にも思えてしまう出来事でもあった。

 今、パイプ椅子に凭れ寝ている佐伯にどのような体質があるのか。疲れて眠っているだけの佐伯には恐ろしい体質が存在して、それが今後の学園生活を脅かすほどの力であれば、今回の処罰同様『退学処分』となるのだろうか。

 吐息を静かに吐く佐伯に僕は自分に掛けられていたブランケットを起こさないよう大人しく掛けた。その可愛らしいブランケットは佐伯と凄く似合う。丹川の物だろうか。担任が持ってきた物だろうか。そもそも、佐伯本人の物かもしれない。

 数時間前までは地獄にいたというのに、その感覚がもうどこにもなく、今はただ『関係者以外入室禁止』の部屋が日々の能力部部室みたいになっているだけで僕と佐伯しかいないだけである。

 いつまでも眺めていたい光景が目の前にあった時、人は何をするのだろう。写真を取る、写生をする、その他諸々に方法はあるのだろうが、僕は一つだけ。

「――佐伯、僕を信用してくれてありがとう」

 お世辞にも綺麗だとは言えない、乱れているツインテールを垂らしている頭を優しく撫でた。


その後、目が覚めた佐伯に頭を撫でたこと、先ほど副隊長が忘れ物をしたと言って佐伯に掛けていたブランケットを取りに来たことは、口が裂けても言えない秘密となった。




肆パート完結しました!!



ゴールデンウィークに合わせて、ゴールデンウィークの物語を書かせて頂きました。

場合によっては十連休にもなる今回のゴールデンウィーク。皆さま、能力部の様な波乱万丈な休みになる事はないと思いますが、各々が楽しめる様な休みになる事を願っております。




続いて伍パート更新していこうと思っていますので、

お付き合いください!


また、感想、評価、ブクマの登録の程もよろしくお願いします。

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