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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
序章
2/53

プロローグ~

続けて更新させていただきます。


プロローグ・開始。


日時 四月十四日。午前九時過ぎ。 

場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)教室棟(きょうしつとう)二階(にかい)(ろく)(ぐみ)



 自己紹介(Self-Introduction)会合などで、自分で自分の経歴などを述べる事、他人に自分の存在を理解してもらう事、人と人との繋がりを作る為のはじめの一歩と言ったところ。

 でもそれは逆に、自分と向き合い見つめ直し、また新たな自分を構成している素材を探し出すことが出来る絶好の機会でもあるところ。

 しかし、自分の事を百パーセント理解が出来ている人間など到底いない筈である。ならば、その自己紹介は曖昧なもので不完全なものであるのではないか。他人に自分を認めさせようとし合う嘘が練り込まれたライアーゲームと言えるのではないか。

 

 春陽が窓ガラスに反射して射すこの暖かな教室では、そのような各々が自己紹介と成した過大評価発表会が行われていた。

「はい、じゃあ次――玖珠(くす) 燐火(りんか)さん」

 二十代前半を化粧で装っているであろう、実年齢二十代後半女教師が教卓に座り名簿を確認しながら、自己紹介の進行を着々と進めている。

「はい! えっと、私は玖珠 燐火って言います! 燐火って呼んでくださいね‼ 趣味はお散歩とお花を眺めることです! あとは……あ、私は一応有色です! 能力は……どんな物質でもドロドロの液体に変えちゃうことです‼ ――みなさん、これから仲良くしましょうね!」

 パチパチと疎らな拍手が起きた後、担任は流れを乱すことなく次の人を指名した。

 指名されては、自己紹介をする。指名されては、自己紹介をする。やはり確立したこの流れでは、周りの奴らもテンプレートをなぞるような自己紹介を淡々と行うしか無いのだろうし、それは僕も正解だと思う。まだ顔合わせをして二時間も経っていない初々しいこの空間で大いに自己主張の強い発言はしにくいのだろう。僕の三個前の席に座っている玖珠という女子は除いてだが。

「じゃあ、次は――佐伯(さいき) (ゆい)()さん」

 なんてことを考えていたら、あっという間に眼前の席の女子が大人しく立ち上がり引いた椅子を丁寧に一旦机にしまうと、

「佐伯 結菜です。私は、特殊能力を兼ね備えていない一般人……いわゆる無色です。この第一能力混在学園の第一期生として私が選ばれた理由は分かりませんが、選ばれたからには普段関わる事の無かった有色の人達と交友関係を持ちたいと思っています。――あと……自己紹介というのはこれから関わりを持っていくこのクラスの一人一人を知る機会だと思っている方もいると思いますが、そのような完璧な自己紹介を私たちが出来るとは思えません。自分をどう他人によく見せようかと必死で綺麗な言葉を探し、自分を着飾っているだけのように見えます。そのような関係でこのクラスが団結して行けるとは思いませんが、先生はどう思いますか?」

自己紹介をする為のこの場を自分の意見に対する意見を求める討論会へと急なハンドル捌きで、一変させるではないか。

それには指名された先生、僕を含めた生徒全員が驚かされたに違いない。そりゃ、そうだろう。だって、今は自己紹介をする為の時間なのだから。

「先生? 黙っていないで答えてくれませんか?」

 困り顔の担任に煽りを入れるように佐伯は言葉を突き付ける。周りにはクスクスと笑っている奴もいるが僕と同様にこの展開に多少の期待を持つ奴もいるだろう。

 おぼつかない空気の教室の中、異様に外から差し込む光が優しく感じた時に一つ大きなため息が零れた。そのため息は、前の方から生徒に向けられた担任のものだった。

「……ったくよ、そりゃ佐伯の言う事も一理あるが、三十人近くいる思春期のガキ共が仲良くこれから過ごしていけると思っているのかー? 絶対に無理だから。つうか前提に、無色と有色のお前らが仲良くできるのかって話だ。この学園が出来る前は、二つの人種が混在する事なんかあり得ないつうんだよ。お前らの担任をする私が言うのだからな、そんなの無理に決まっている」

教師とは程遠い言葉の数々を聞いた気がするのは僕だけだろうか? 否、僕だけではないようだ。クスクスと笑っていた奴らも、展開に期待を持っていた奴らも、先生に宣戦布告した佐伯でさえ、目を丸くしてこの状況を飲み込めずにいたのだから。

「……んで、どう思う? 佐伯」

 今度は担任が佐伯に言葉を突き付けた。その言葉は佐伯のものより鋭く尖っている。

「それが……先生の本音ですね?」

「ああ、本音だ。心の底から心底に思っているよ?」

 担任の心はどれ程までに深いのだろうか。

チュンチュン、と不気味な間の空間を穏やかな小鳥が繋いでくれているようにも感じるが、正直な話をするとそんなのはお節介で、早く地獄のようなホームルームが終わればいいのにと、空を優雅に舞っている桜の花びらに重ねて思う次第である。

 ピアノ線があちらこちらに張り詰められているような、少しでも触れてしまえば高く単調な音が一つ飛び跳ねて今を盛大に壊してしまいそうな、担任と佐伯だけの空間のような、僕ら傍観者は何もすることが出来ないのだろうか。違う。傍観者だからこそ――いや、このクラスの一員だからこそ出来ることがあるのではないだろうか。

 僕は一つ、ピアノ線を切る。

「あの……いいすか?」

「――なんだ、白木? 急に立ち上がったりして……トイレか?」

「いや、違いますよ‼ ――担任なんで知っているとは思いますが、白木 月乃って言います。僕は有色の人間です。……僕は、先生と佐伯の言い合っている姿を見ておかしいと思いました。何がおかしかったのか……それは結論が結末を迎える前に出てしまっている事です。正直、分からないじゃないですか? 僕らクラスがどうなるかなんて。そんな分からない事でこうも揉め合うのは時間の無駄と効率が悪いです。――それか、そんなに決着を付けたいのならこの学園を探したらいるでしょうから、未来が分かる能力を持った有色ぐらい。その人に問えば話が速くてどちらが正しいのか一発で分かるんですけどね――」

 僕の苦し紛れの対抗は、担任の顔色を穏やかなものに変えることが出来た。

「あぁ、なるほど……この学園ならお前の言っている事は無理難題ではないか……」

「それならば、先生が言うようにクラスが無色と有色の生徒間に隔てりが出来てしまうのか、出来ないのか……見てもらいましょうか――その、未来が見えると言う能力をお持ちになっている有色の生徒に」

「良いとも、私はその意見に是非とも賛成だ」

 バチバチ、と火花が散っているのが目視出来てしまいそうなぐらいに、睨みあっている教師と生徒。それを周囲で見ている事しか出来ない僕たちは何を思えばよいのだろうか。いや、思う事はただ一つに限られてしまう。

 それは、『不安』この一つだ。

 ガチャン、と佐伯は席に着き、肘をついて何事もなかったかのように外を眺めている。

「……それじゃ――白木の次、自己紹介」

 いや、続けるんだ……。

 二人を除いてクラスの皆は、仲良く気持ちが一致したと思う。こんな気持ちが通じ合うクラスになりたいな。うん。

 心地よい風が吹き流れるこの教室で、僕はこれから千差万別な体験をしていくのだろうと、シーンと自己紹介をする声がとても聞こえやすい状況強く思った。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


まだ、プロローグ段階ですが

興味をお持ちいただけましたら嬉しいです。

加えて、評価、感想、ブクマの登録の程もよろしくお願いいたします。


余談ですが

『有色』と『  』のA mix の読みとしては

ゆうしょくとかっこのア ミックスでお願いします!

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