肆:混ざり合った結果故の、不確信。――開始。
肆パート開始します!!
お付き合いください!!
日時 五月四日。午前十時過ぎ。 場所 第一能力混在学園付属大型商業施設。
大型連休(Golden Week holidays)日本で毎年四月末から五月初めにかけて休日が多い期間のこと、黄金週間とも言う。その言葉通り、学生には嬉しい黄金な週間は今まで僕にとって地獄であった。
記憶に残っている中学時代のゴールデンウィークは、家では堕落を満喫し人間が生きるための必要最低限の生活しか送ってこなかった。――言っておくが、好んでやっている訳ではない。
誘われないのだ。
『ゴールデンウィーク何する⁉』『ねえ、遠出しようよ‼』『泊まりに行ってもいい?』
クラスではそんな話題ばかりだったが、僕はその輪に入る事は無かった。どうしてだって? そんな事は言わずもがな。
友達がいない。ただ、それだけだ。
そんな事ならば、学校に通い勉学に励んでいた方が幾分マシである。だから、僕は嫌っていた。大型連休なんか……いらん‼
僕は今までそう思っていた。
だが、今年は一味も二味も違う。昨夜、僕の迷惑メールしか受信しない携帯電話が久々に意味のある通知を知らせてくれたのだ。
『こんばんは。佐伯です。 急な話で迷惑かも知れませんが、明日、白木君が至って用事もなく暇で堕落した生活を送る予定でしたら、一緒に出掛けませんか?』
第一に僕が白木であるかを確かめた。――当然の事に、僕は白木である。そして第二にドッキリではないか部屋を見渡し定点カメラが隠されているのではないか、探す。――無かった。
つまるところ、これは僕宛の誘いであると認識した。途端、嬉し涙を堪えるのに必死になりながら、『構わない』とクールを装いに装い返信を返す。
それから待ち合わせ場所を決め、それじゃあ明日。と僕は携帯電話を閉じた。
祭りだ。宴だ。食えや踊れや。
明日の事が気になり眠れないという現象も初めて体験したのだ。結果、寝不足である。
待ち合わせに遅れないように飛び出したものの、二十分程余る時間に到着してしまい、待ちぼうけを食らっている今も胸の高鳴りは収まらない。
「それにしても……」
なんと人が多い事やら。さすが、ゴールデンウィーク、君は確かに黄金だ。
見渡す限り、人、人、人である。男子が群れて歩いていたり、女子が食べにくそうなクレープを持っていたり、男女が手を繋いで歩いていたりと、状況は様々であるが目が回りそうである。
加えて、この商業施設は第一能力混在学園付属であるためうちの生徒が大半を占めている。
よって、「え、あいつら付き合ってたの?」「いつもは制服姿しかお目に掛かれないが今日は意中の女の子の私服が見れちゃう」ってなるやつである。
だが、そんな思春期の思考なら可愛い方であるが、忘れてはいけない。ここは学園と同様に有色と無色が入り乱れている場所でもある。事件がいつ起きてもおかしくはない。
対処としては学園の生徒会が指揮を執り治安を守っているとか話を聞いた事があるが、守っているだけであって決して無くなったりはしない。
一見、楽しく見えるこの場所であるが、この中には目を尖らせ意識を集中させ僕らが安全で安心に楽しめるように見守っている生徒がいることも忘れてはいけないのだ。
だけど、今日ぐらいは忘れさせてほしい。――だって、僕にとっては脱地獄週間記念日なのだから。
緊張とワクワク感、多少の不安も兼ね備えている僕は不意に肩をトントンと叩かれ、ビクつきながら振り返ると、
「こんにちは」
見違えるほどの美少女、いや佐伯が立っていた。
「お、おう」
学園では長い髪をサラリとおろし清楚感が漂っていたが、振り返り目に映った佐伯は、ツインテールというまさかまさかのイケイケ女子高校生へと変貌しているではないか。髪を結んでいるその高さも人気ボーカロイド並みである。みっくみっくにされそうだ。
「どうしたのですか? そんなぽけっとして――」
それだけではない。服装だって佐伯から連想が難しかった。派手ではないが、地味でもない。自分に似合った格好をしているのだ。だから、すごく完璧に見えてしまう。
完全完璧な女子が僕の目の前に立っている。それだけで鳥肌が立ってしまいそうな程、僕は佐伯の放つオーラに飲まれてしまった。
「その……似合ってるなって――」
ついつい言ってしまう。『可愛い』と出てしまいそうなのは抑え込んだが、それでも自然な感じで佐伯に率直な感想を言ってしまう。……なんだか、恥ずかしい。
しかし、それを聞いた佐伯の反応は『?』だった。
「――それは……私に似合う洋服を店員さんに選んでもらったからであって、もしも似合っていなかった詐欺じゃないですか? だから、似合っているのは当たり前ですよ。――それに白木君は驚いているかもしれませんが、私は普段こうやって髪を二つ結びしているのよ。でも、学園内ではこの髪型……ちょっとやりづらくて……」
似合っているのは当たり前。その言い草に佐伯らしさがプンプンと匂う。いくら外見が変わっていても中身まで美化はされない。もったいない。
「どうしてだ?」
そこまで言う佐伯が学園内ではツインテールをやりづらい理由が気になり聞き返すと、
「――何故か、この髪型にしていると見知らぬ男子から声を掛けられるんですよ。それも何人からも……」
困った風に言っているが、今めちゃくちゃ性格の悪さが滲み出ていることに気が付いていない佐伯が少し可愛く見えてしまった。――外見完璧中身若干欠陥あり。
「……そうか」
一応、佐伯に合わせるように小さく呟いた。モテる人は辛いですね。
「まあ、そんな事よりも早く行きましょう。私、人混みが苦手なので……」
その言葉と同時に佐伯は歩き出した。僕は追いかけるように佐伯の横に着く。
「行きましょうってどこに向かうんだ?」
「うーん、白木君はどこか行きたいところありますか?」
「僕は別に……」
「ですよね。――それならば、私に黙ってついてきてください」
あれ、僕、黙るの? 隣を堂々と歩く佐伯の言う通り、僕は行き先が分からぬまま黙ってついていくことにした。文句を言おうなら即座に帰されそうだ。
佐伯に導かれながら歩くこと数分、重苦しい扉の前で佐伯は立ち止まった。
「ここは……」
普段は特別気にすることの無い扉。僕には無関係の扉。そんな風に思っていたのに、僕は察してしまった。
その扉には『関係者以外立ち入り禁止』と分かりやすく黒字で書かれている。
「入りましょうか」
躊躇うことも無く、佐伯はドアノブに手を掛け入室を試みる。ちょっと、待った。
「いや、佐伯。関係者以外立ち入り禁止って……佐伯、ここでバイトでもしているのか?」
佐伯が接客をしている所を見てみたいものだが、僕の問いかけには予想していた答えが返って来た。
「いえ、私たち今日は関係者ですよ」
その言葉が意味するもの、それは僕が期待していたものとは到底異なるものである。
――ガチャ。
その扉は佐伯の手によって開かれた。鉄の重い扉は一度開いた勢いに任せ、どんどんその中を明らかにしていく。
中の光景が僕の瞳に映った時、僕は後悔した。浮かれていた自分を恥じた。……そうなのだ。人生、決して甘くないのだ。僕が僕を理解していなかった不甲斐なさに覆いかぶさるようにして、扉の向こうから明るい声色が飛んできた。
「おー、こんにちはぁ‼ さぁ、入って入って!」
その言葉に流されるよう、僕と佐伯は『関係者以外立ち入り禁止』エリアに『関係者』として足を踏み入れたのであった。
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