参:能力でなく虚しい体質。――終了。
参パートは比較的早めに終了します!
お付き合いください!
日時 四月三十日。時間 午後八時前。 場所 担任宅。
「あー、皿洗っといて」
その一言で僕は今、台所に立っている。「天下の台所」と呼ばれた大阪であるが、この場所を名付けるなら「天命の台所」である。言っておくが、これは自己満足で思ったことであり、別に上手さとか狙った訳ではない。そんな事を思いたくなるのだ。淡々している皿洗い中は。
助けてもらったお礼として注文通りの飯だって作ったし、こうして皿洗いまでしている。どうせ、「美味しくない」「ちゃんと、作ったの? トカゲの餌かと思った」「やっぱ、出前とるわ」罵詈雑言のディナーショーになるかと思っていたが、「美味しいじゃん」と一言、そう言ってもらえて嬉しくなった自分が思い返せば滑稽に思えてしまう。
冷静になって考えたら上手いように使われているのだ。そして思っているのだろう。「あー、男子高校生って単純だわ」と。
そして結果、僕は単純であった。担任やら顧問やら、それは学園内だけの話であり一歩学園を出れば、他人と他人、男と女。そう僕は思う。まあ、それでも自分に置かれている立場と見合った行動は必要だとは思うが。
加えて、前にも言った事があるのだが、担任は美人である。初めは化粧で誤魔化していると思っていたが、顔を合わせる事が多くなると化粧で更にレベルを上げているように思う。学生時代はめちゃくちゃモテたであろう。
以上は「喋らなかったら」の話である。
「人間上手いように作られているんだな……」
平等に対等に、そして皆幸せな人生を。臭い選挙ポスターに抜擢されそうな事を思った所で、皿洗いが終了した。
水回りに飛び散った水滴をちゃんと拭き取って台所を後にする。水垢は厄介だからな。
リビングへと戻ると、僕に命令を下した担任の姿は無かった。確かに、ソファーにだらしく埋もれながら僕に皿を洗えと命じたはずだ。
「……トイレかな」
流石にここで何も言わずに帰るのは失礼だと、大人しくソファーに座り担任の帰還を待つ。食事中にはあまり意識しなかったが、普段の担任からじゃ想像が付かないほどに部屋は綺麗に片付いていた。棚の上には可愛い小物や、僕の座っているソファーにはもう一人クマのぬいぐるみもいる。女性らしい感性も兼ね備えているのか、とカエルのホルマリン漬けとかあるだろうなと想像していた脳内ファイルに上書きした。
「はぁぁぁあ」
腹が満たされたせいか、眠気が襲う。今日も色々あった。濃い一日だった。今日の出来事で第一能力混在学園の本性を知った気がした。
十人十色とは正しく、僕の通う学園である。この学園生活にて飽きることなどあるのだろうか。
「……多分、ないのだろうな」
「何がないんだ?」
バッと、ソファーから飛びおり臨戦態勢に入る。いきなり声を掛けられたことによる反射であるが、僕の取った行動はあながち間違いでは無かったのだ。
「せ、せ、先生⁉ ど、どうしたんですか! その格好は‼」
「どうしたって……? そりゃ、シャワー浴びて終えた格好だろ」
シャワーを浴び終えた格好又はお風呂に入った後の格好。言ってしまえばどちらも一緒で良いのだが、想像つくだろうか。いや、つくだろう。そうだ、そんな描写が書かれている小説のページの隣には挿絵がつくやつだ。バスタオル一枚だけを巻き、長い髪を結んでいるテンプレのやつ。今、その状況だ。
「まあ、白木が居なかったらいつも通り真っ裸だがな……だから、今日は息苦しい」
「そんな性癖があるみたいな言い方は止めてください。っていうか、早く服を着てください‼」
「おー、なんだなんだ? 私のナイスなボディーに顔を赤く染めちゃってぇー」
「染めてないです‼ ってか、僕もう帰りますから! それじゃ――」
あまり目視しないように目線を下げ、玄関へと向かおうと担任を横切ろうとしたその時、ガシッと腕を掴まれた。
「ちょっと?」
わー、当たってるから。めっちゃ当たってるから。柔らかいよ。
「な……なんです、か」
「……ふふ」
妖艶な笑みと、ふんわりと漂うシャンプーの香り、一瞬だけ時が止まった感覚に陥った。担任の唇は徐々に僕の耳元へ、そして吐息が触れる程度まで近づくと担任は息を吐くように呟いた。
「私のサービスタイムが無料なわけねーだろ。さ、風呂掃除に行ってこい」
「……あ、はい」
本当に時が止まってしまえばよかったのに。
以下、風呂掃除省略。
「先生、終わったんで帰りますねー」
リビングへと向かわずして、廊下から声を掛ける。理由としては、また仕事を押し付けられそうだから。それだけだ。
僕が望む展開は「おーう」の空返事だけだったのだが、普段面倒くさがりなくせに担任はわざわざ出てきた。
「ご苦労、ご苦労」
玄関まで見送ってくれるのだろうか。僕が靴を履き終えるまでそばで待っていた。
「――えっと、今日はありがとうございました。あの……飯とか作らせてもらって、はい。それじゃ、僕はこれで」
ぺこっと、一礼。ドアノブに手を掛けたその時、
「白木」
え、次は玄関回り掃けとか言うんじゃないの……? 振り返りざまに構えていたが、担任の表情を見たその時は違うと感じた。
「これ……部屋の鍵だ」
手渡されたのは一つの鍵だった。
「これって――」
担任の合鍵? え、嘘。マジで? いやいやいや、そんな展開早くないすか⁉ そんな手順も踏んでいないのにいきなりお家の合鍵だなん――
「部室の鍵だ」
「ですよね」
「部室の施錠は原則として顧問の仕事でな、いつも持っていくの忘れそうになるんだよ。白木に渡しておくから頼んだぞ?」
「……了解」
舞い上がった自分が可哀相で仕方ない。自分で自分を抱きしめてあげたい、マジで。
「それと……今日の事は誰にも言うなよ? 色々と勘違いされても困るからな。白木、お前だけの記憶として覚えておくだけにしてくれ」
「分かりましたよ」
誰にも言うなって言うくせに、覚えておけって犯行予告じゃん。
「あ、言っておくがガキには興味ないからな?」
「狙っていませんから⁉ ていうか、狙う人なんて――」
先生を狙う生徒だなんて……?
「いるさ。もっともガキには興味ないから断らせてもらったが、それでも他人が自分の事を好いてくれるのは嬉しい事だ。――だから、白木お前も私を好いても良いんだぞ? 告白は受けんがな」
「だからしませんって‼ ――ていうか、その……同性愛ってどう思います?」
「は? ……何をいきなり。うーん、人それぞれだろ? 肯定も否定もしない。炎上したくないからな」
「そうですか」
担任は部室を施錠したと言う。だとしたら、会ったはずだ。接触は避けることが出来ないのだ。「先生」と聞いていたが、性別は知らない。人に相談しにくい事というのは――。
僕は再度、ドアノブに手を掛けて扉を開けた。
「それでは」
徐々に閉まっていく向う側から、担任は僕に小さく手を振った。それに対し、小さくお辞儀を返して零れていた光は消えた。
結局は解決したのだろうか。思い切って面と向かって告白して振られて。これで解決として納得しているのだろうか。どう足掻いても無理な事に足掻き続けるほどの意欲はあるのだろうか。
諦めは時に人を救う。
次を探して欲しい。本当に、「この人だ」と想える人と出会ってほしい。
家路を歩きながら、ふと自分の衣類から甘い匂いが漂って来る。初めの印象とは大分変ってきているが、僕は担任の事をあまり理解できていなかった。
小さく手を振られたあの時――良い人だった。自分しか知らない担任の姿を見たような、そんな優越感にも浸れた。
距離も縮んだような気がした。
夜空は今日も綺麗で、時の流れを早くに感じる。学園に入学し、もう一ヵ月が経とうとしているのだ。
あの、自己紹介を思い出したら笑えてくる。確か、未来が見える能力者を捜すとか何とか。あの二人は覚えているのだろうか。
まだ浅いが大切な思い出に浸っていたが、一つ。そう、一つだけおかしい。
どうしても、納得がいかない。どうしてだ? 自分の不慮なのか、違うのか。
思えば、誰も言っていない。それが当たり前のようで見過ごしていたのだ。
――あれ。
「担任の名前って……何だっけ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
参パートはこれにて終了。
比較的、早めに終わりました!
別にネタが尽きたわけではありません!
言うなれば、次の物語へと続く間食のような感覚です!
引き続き
肆パートお楽しみください!!
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