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『有色』と『  』のA mix  作者: 金木犀
見られない色
14/53

参:能力でなく虚しい体質。――開始。

参パート開始しました!!

少々長いですが、お付き合いください‼

日時 四月三十日。午後四時半過ぎ。 場所 第一(だいいち)能力(のうりょく)混在(こんざい)学園(がくえん)教室棟(きょうしつとう)一階(いっかい)能力部(のうりょくぶ)部室(ぶしつ)



 相談(Consultation)問題を解決のために話し合ったり、他人の意見を聞いたりすること。生きていく中に置いて、必ず問題は発生する。そして必ずしも解決しなくてはいけないという訳ではない。だが、解決しなくても良い問題は問題として挙げられるのだろうか。あやふやである。

 他人に答えを求める。確かに間違ってはいない解決方法であるが、他人に求めた所で自分なりに納得する答えへと導くことが出来るのか。――妥協という事もある。

 つまるところ、こんな前置きに意味は無い。僕は逃げているのだ。


「つまり……うん、告白する術が思いつかないからどうしたら良いか教えてほしいってことで良いのか?」

「……そうなんです。私、自分なりに結構考えてみたんですよ? メールで告白しようか、手紙で告白しようか、面と向かって告白しようか……でも、メールのアドレスは持っていないし、手紙で告白しようとなると字とか綺麗じゃないから恥ずかしいし、面と向かって告白なんてもっと恥ずかしくて出来ないです……」

「告白する全ての術が出来ないとなると、もう喋る事すら無理って事になるが……そもそも、メールのアドレスも持っていない相手を好きになるって何があったんだ?」

「別にロマンチックな事があったってわけじゃないんだけど……ちょっと、ね?」

「ちょっと、ね? って顔を染めて言われても僕は全く理解できてないからな」

「……鈍感だな」

「いや、鈍感ってか――これで君の言いたいことが分かっちゃったらそれ僕の能力だから。あの……相談しに来て言いたい事を察してってツンデレの彼女さん? 無理だから」

「はぁ、だったら言います」

「え、ここ取調室なの?」

「私……恋をしてはいけない人に恋をしてしまったのです。――禁断の恋ならず近代の恋って感じですかね。……ほら、少女漫画でもよくあるじゃないですか? 主人公の少女がある人に恋をする、しかしそれは叶わぬ恋。みたいな、近代的少女漫画の甘くて酸っぱい、純情で可憐な恋事象の矢を放つ恋のキューピットが現実の私を射抜いたのです。だから、色々な少女漫画を読破して学んで、恋の参考書的な雑誌も読破して、ここ最近、お財布がすっからかんで……先ほど喉が渇いて死んでしまいそうだった私にジュースを奢ってくれた白木君には感謝しています。そして今、私の恋愛相談を聞いてくれている展開に転がるだなんて思っていなかったから、私にジュースを奢るのは必然だったのかな。それもまた運命的な私と白木君の出会いになるね」

「……で?」

「それで私の恋愛相談に戻るけど、結末を言っちゃうと私、先生に恋をしたんです。……驚きましたか?」

「いや、薄々分かっちゃいたけれど……」

「なーんだ、驚くかと思ったのに」

「僕を驚かせに来たわけじゃないんだろ? だったら話の続きを頼む」

「ともかく、白木君が驚かなくても一般的に考えたら驚くことなんだよ。だから、友達にも相談することも出来なくて、うじうじしている私に、喉が渇いて死んでしまいそうな私に、声を掛けてくれたのが白木君、あなたでした」

「そりゃ、自販機前に女子生徒が飲み物を買う素振りも見せず二十分近く棒立ちしていたら僕でなくても声を掛けるよ。もっとも医学的な知識を持っている人が声を掛けるべきだったかな」

「私が先生に恋心を抱く前に白木君に出会っていたら恋に落ちていたよ。あ、でも私が先生に恋心を抱いて、うじうじして喉が渇いて死にそうな状況にならないと意味がないか。あはは」

「話が脱線に脱線してるから‼ 頼むから、話を……話を……」

「それで白木君――どうやって告白したら良いのかな?」

「もう……助けてくれ」

「――あ、ごめんね。ケータイが鳴っているからちょっと出てくる!」

 女子生徒はそう言って慌ただしく携帯を片手に部室を出て行った。

「……はあ」

 久しく感じる沈黙に僕は一息吐く。なんと恐ろしい人なんだ……。僕の無力さ故なのか、そもそも僕が相手では荷が重かったのか、どちらにしろ僕は改めて思う。

 佐伯……どうして学校に来ていないんだ。僕はこの数時間で佐伯という人間の存在を溢れるほどに、余すほどに、愛おしく思うよ。

 佐伯については体調不良と聞いているが、体調に不良なく学校に来ている僕は今の状況に置かれ体調不良になりそうだ。

 一人でも部活をやっていけると思っていた僕自身が腹立たしい。無理ではないか。女子生徒一人の悩みすら聞いてやることのできない僕は、どれほどまでに仕事の出来ない人間なのか。

 そう、自分を責めても誰も慰めてはくれない。気付いた僕は開き直ることにした。そして、考えてみて欲しい。

 今回の相談(依頼なのか分からないが)相手は、僕にとって似合ってはいない。未だ自分の能力がどんなものなのか理解していないが僕は有色の生徒である。従って、僕は有色の生徒の気持ちを多少は理解できるのだ。自分の能力に取り巻く問題や悩み、能力行使による善や悪。それらは中学時代の思い出により痛感して来た。

 だから、そんな僕だからこそ、佐伯の目線で見ている世界の問題だけではなく、僕の目線で見ている世界の問題だって解決に導くことが出来たのだ。それは確かに逆にも言える事だ。

 だがしかし、僕は正直侮っていた。無色の生徒を侮っていたのだ。例え、一緒の人間だとしても人種が違えば行う行動すら当たり前のように違う。

 今回を例に挙げるのならば、女子生徒のよう自分に好きな相手が出来たとする。もしそれが、有色の生徒の話であれば、意中の相手を思うがままに操り自分の事を好きにさせる能力だってある訳で、すんなりと付き合えてしまう事だって出来てしまうのだ。これは当然、人権侵害となり罰せられるのだが、バレなければどうだろうか。

 実際に僕が通っていた中学ではそういった事象があった。その件については何とか解決したのだが、被害者である女子生徒は心に深い傷を負ったことだろう。

 では、逆に無色の生徒はどうだろうか。能力も使えない人間らはどうやって意中の相手を自分に目を向けさせるのか。理屈では簡単なのだろうが、実行するのは難であろう。それはこの短時間で良く分かった。

 純粋な恋心であり、また純愛を望む彼ら彼女らの恋模様は僕が持つ模様とは相反しているのかも知れない。

 そういったマイナス地点から始まったこの相談は、有色の生徒でないだけ幾分マシな方だったと思えるが、先も言った通り無色の生徒を僕は侮っていた。

 相談者の彼女は自己中心の体質を持っているに違いない。と僕は思うのだ。能力ではなく体質である。今までの過去を見ると、この物語の構成上、登場人物の会話には僕の心情が挟まれている。しかし、彼女との会話中では僕の心情は一切、入る隙間が無いのだ。一ミリも、それ以下も、無いのだ。言ってしまえばゼロである。

 その為、実は僕の口数は少ないという事がバレてしまうのである。否、彼女の口数の多さ故の錯覚と捉えてもらいたい。

 彼女を中心として世界は回っているのだ。そういう体質なのだ。入り込む隙間も、抜け出す隙間も、彼女の自己に吸い込まれてしまっているのである。結論、有色の生徒よりも無色の生徒の方が言ってしまえば怖い存在である。故に、彼ら彼女らは自覚してはいないのだから。

 こうやって、長々と僕の持論染みた話が出来るのだって彼女が現にこの部屋に居ないからであり、再び帰って来たのなら――

「たっだいまー」

「……こうなるのだ」

「こうなる……?」

「いや、何でもない……こっちの話だ。それで、話は続けられるのか?」

「続けますよ、続けますとも、だって解決してないんだもん」

「――分かった。それじゃあ、話を続けようか。……えっと、結局はどうやって先生に告白するかって問題だよな? それについて僕は思うんだが――もう、生徒や先生という立場を気にすることなく面と向かって『好きです』って想いを伝えた方が良いんじゃないのか? まどろっこしく手紙やメールではなく、互いの表情やその場の雰囲気を踏まえた方が、ちゃんと思いが伝わると僕は思うぞ」

「その方がちゃんと想いが伝わる……ですか」

「そうだ、そうに違いない。――だが、それもまた勇気のいる事だとも思う。『もし、振られたらどうしよう』だなんて事は誰しもが考える事だ。不安な気持ちは十分に分かる。……しかしだな、そんな事を言っていちゃ何も始まらないだろう? やはり、何事も実行することが大切なんだ。――どうだ、思い切って伝えてみたら」

「……でも、でもさ」

「なんだ?」

「……やっぱり、恥ずかしいじゃん⁉ そんな大胆なこと出来ないよ‼ できっこないよ‼ ――だって、考えてみてよ? もし、振られちゃったらどうしたらいいの? 顔も見ること出来ないじゃん? 先生の授業だって集中できないし、もし授業中に名指しで当てられちゃったりしたら答えられないよ。無言の沈黙が余計に心を痛みつけるよ。……白木君は、私みたいな状況になったことがないから、そんな綺麗事が言えるんだよ。一か八かの勝負に白木君は、そんな当たり前のようなアドバイスをするの? 不安で仕方ない選手に『お前は、今まで頑張って来た。だから、絶対に勝つ。自分を信じろ』と、言えちゃうの? 負けたらどうするの? 責任とれるの? 取れないじゃん。負けた試合は後にどう足掻いても覆せないんだから、取れる訳ないじゃん。無責任なこと言わないでよ。他人事のように言わないでよ。私は、本気で先生の事が好きで、本気に白木君に相談しているのにどうしてそんな事が言えちゃうの? 白木君は本気で相談に乗ってくれていたんじゃないの? 口では私の相談に協力的なこと言っといて心では嘲笑っていたの? 白木君はそんな人なの? そこまでの人なの? 人の悩みも人の気持ちもおかずにして白飯が進んじゃう人なの? 違うよね? 白木君は違うよね? 違うって言い切れちゃうよね? 私の悩みを解決してくれるよね? 私の納得のいくように導いてくれるよね? 私だけの道しるべになってくれるよね? ねえ、白木君。お願いだからちゃんと考えて? 私の為に考えて? 考えて考えて考えて、必ず正解に辿り着ける道を私に教えて」

「……すまない、少しトイレに行ってきていいか?」

「え? いいけど……速やかに戻ってきてよ?」

「……ああ」

「――あ、それと白木君。――逃げたりしないで……ね?」

 ガチャン。

 部室の扉をしっかりと閉め、僕は廊下を全速力で走る。

「やばいやばいやばいやばい‼ マジで怖いから‼ サイコパスだから‼」

 決して振り返ってはいけない。後ろを向いてはいけない。今は部室から出来るだけ離れる事だけを考えろ。

 僕は友人を人質に取られているかの如く、全速力で走った。というか、逃げた。逃げるしかなかったんだ。許してくれ。あの空間にあれ以上いたら、僕は正気ではいられないはずだ。絶対におかしくなっていたはずだ。何もかもがどうにでもよくなっていたはずだ。怖い、人間が怖い。恐ろしく悍ましい。無邪気で純粋な心の持ち主かと思っていたが、邪気で純粋な心の持ち主だった。

 無我夢中で辿り着いたこの場所にトイレなんて見渡すがどこにもなかった。いや、どこにもなくていい。とりあえずは、部室から離れられたことで十分だ。もう、十二分だ。

 はあ、はあ、と乱雑に吐かれる息を僕は落ち着かせようとその場にしゃがみ込む。ひんやりと廊下が冷たくて気持ちが良い。多少は落ち着けそうだ。

 しかし、僕の呼吸が徐々に整っていくにつれて恐怖が徐々に増してきた。

「……戻らないと」

 僕は何を言っているんだ。もう一度あの地獄へと自らの足で戻るというのか。あり得ない。そんな事はあり得ない。怖い怖い怖い。動きたくない。行きたくない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 僕の意思とは裏腹に体は地獄へ戻ろうと動き始めている。死ぬ気で踏ん張るしかない。

「誰か……誰か……助け……て」

 次第に視界が霞んでいく。キーンと耳障りな音が聴覚を刺す。ふわりと体が軽くなっていく。そして、僕は落ちた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


今日は二話分の更新とさせていただきます!

お付き合いください!


また、評価、感想、ブクマの登録の程もよろしくもよろしくお願いします‼

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