弐:危ない一人歩き。――終了。
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お付き合いください‼
日時 四月二十九日。午前十時。 場所 第一能力混在学園教室棟一階能力部部室。
能力部は土日又は祝日に活動はしていなかった。休みの日ぐらいは寮でゆっくりと過ごしたいという僕の思考と、うちのクラスの担任兼能力部顧問の思考が一致したからである。
しかし、今日は祝日であって学業はお休みであって部活は元気に活動していた。とは言ってもそれは仕方のない事であり、もっと言ってしまえば僕らの作業が遅れているという事の結果でもあった。
「全能の人」事件は解決した。が、報告書が完成していなかった。加えて昨夜、「夜遅くまで学園内に男女二人が残っていた」と生徒会へ警備の方から連絡が入り、その男女は生徒会の手によって即座に特定され、罰として今日に奉仕活動を命じられていた。
警備員さん、ご苦労様です。
「ちょっと、白木君。手が止まっていますよ? 早くその報告書を仕上げて生徒会へ提出し、その流れで奉仕作業なのですから急いだ方が良いのではないですか? この学園の生徒会は厳しいという噂ですから、ね。白木君も自業自得とはいえ、命が欲しいのであればその止まっている手を動かしてください……ね?」
佐伯は怒っていた。笑顔がぎこちない。とても怖い。――しかし、僕は何も文句が言えないのだ。むしろ、申し訳なさが募りに募ってしまう。
理由は簡単だ。佐伯はなかなか部室へと帰ってこない僕を心配して学園内を血眼になって探し回ってくれていたらしい。「全能の人」へと会うための場所は僕しか知らなかったようなのだ。
そんな佐伯に僕は語らなくてはいけない。語らなくてはならない義務である。「全能の人」が誕生した経緯、それに伴う僕と楓の関係、何よりも僕の過去を語らなくてはならない。
この時間帯の部室は新鮮であったが、僕の過去は常套である。果たして佐伯に納得してもらえるだろうか。
そんな不安を抱きながらも、僕は報告書を書き上げる手段として過去を明かす。
以下、報告書。
夏足 楓は後悔を背負い、贖罪を抱えていた。彼女が行った行為は理由があろうと一人の人間として残酷なものであったからだ。
傷害罪として扱われた彼女の行為は退学を結末として幕を閉じそれまでのはずであった。しかし、一人の人間の存在が彼女を終わらせはしなかった。
白木 月乃、僕である。彼女は僕の仇を取るべくして当時の彼氏を含む男子生徒六人を半殺しに病院送りにした。僕は彼らの状態は知らないが、僕が彼らに受けた暴行は消えるものではなかった。
僕は首から胸にかけて大きな切り傷が痛々しく痕として残っているのだ。痛々しくとは言ったが、今となっては痛みを感じることない。ただの痕なのだ。やんちゃな男の子が怪我をして痕が残っているようなものであり僕はさして、気にしてはいなかった。
だが、彼女は違った。学校を去る前、僕の傷痕に気付いてしまった彼女の表情は落ちていた。落ちていたという表現が正しいのかは分からないが、本当に落ちていたのだ。そして、涙を流し謝罪をした。
何度も何度も頭を下げられ、謝られた。先に言った通り、意識するほどに気にしていなかった僕は彼女の謝罪に対し動揺交じりに、大丈夫。とだけしか言えなかった。今思えばあの時、冷静に彼女と向き合いその場で解決させることが出来ていたのなら、こうして報告書を書く羽目になることはなかったのだと思う。
学校を去り、彼女のことを知らない学校でまた新たな生活をスタートしたのだが、彼女の中ではあの日から止まっていた。
一生背負っていかなくてはならない傷痕を自分のせいで負わせてしまったという想いを彼女は一生背負っていくこととなった。
そして、償わなければ。という彼女の強い想いは、叶ってしまったのだ。第一能力混在学園への進学、白木 月乃との再会、それこそが彼女をもっと追い詰める事となりまた原動力となった。
彼女は入学時から僕の存在を知っており、今まで僕との接触を図っていたと言う。それから、僕の傷痕を消す術の医療費を稼ぐため、彼女は罪を犯したのだ。
「全能の人」と名乗って――
根から腐っている訳ではない彼女は犯罪染みた行為で金を稼ぐのには抵抗があり、人助けとして金を稼いでいた訳でもあった。法律ではなく校則を犯したのだが、学園内に置いて校則は法律に等しいものである。処罰対象者である事は間違いない。「全能の人」として稼いだ金は全額返金となり自宅謹慎の処分であろう。
恩人に処分を与えなくてはならない、僕にとってそれは痛いことである。だが、それによって彼女の心に負った傷痕は消えたのだ。柵から解放されたのだ。
彼女の中で止まっていた時間は動き出した。僕は彼女に感謝している。この傷痕は蔑む過去ではなく、称えるべき彼女の証なのだと僕はそう思いたい。
そしてもう一つ言わなければならない事がある。
夏足 楓の能力について。彼女の能力は「人の願いを叶える」ものではなく「人の潜在能力を引き出す」というものである。いわば、才能と言ったもの。部活生の依頼者が多い点にはそれが関係し、また叶えられない願いがあるという事についても関係してある。叶えられないのではなく、引き出す才能がないということであり、つまるところその人たちは努力で培ないといけないのでる。
だが、この真実を明かすことには多少の不安もある。願う事に頼り、叶えてもらえず、この真実を知った人は「才能が無い」で終わってしまう。
努力は才能には勝ることは出来ない。僕はそう思うが、努力でしか得られない事だってあるのだと思う。
自分は才能が無いと諦めるか、根気強く成し遂げるか。「全能の人」に頼り、願いを叶えてもらえなかった「才能が無い」人たちの選別になることだろう。
以上、報告書。
日時 同日。正午過ぎ。 場所 第一能力混在学園内西区域。
報告書を提出し、ホッと一息いれさせてくれないのが生徒会である。地に落ちた葉っぱや、散らかっているゴミ、僕は奉仕作業に勤しんでいた。
掃除は人の心も綺麗にする。という言葉はあながち間違いではないのだと思う。心地よい風に吹かれているからなのだろうか、自分の手によって学園が綺麗になっていくからなのだろうか、佐伯に過去を明かし変な誤解が解けたからなのだろうか、僕の心情は爽やかだった。
とは言っても、楓の事は気になっているし能力部に依頼を持ち込んだ弓道部の男子生徒の事も気が気でない。
いずれは、「全能の人」の真相も広がることだろう。退部者が何人ほど出てしまうのか、能力部に責任を問われないだろうかと、色々な不安も込み上げてくる。
「はあ……噂話か」
やはり、噂話は厄介である。いや、噂話の真相を暴くことが禁忌であるのか。もう、分からなくなる。色々な情報が飛び回るこの世の中で何が正しく何が間違いなのか、詮索スキルを極めていかなくてはならない。
そこで留まる嘘や噂なら多少可愛いものであるが勝手に一人歩きし、やがて取り返しのつかないような事態が発生してからでは、誰かが泣くのだ。嘘や噂に良いことはない。
「僕も気を付けようか」
そう、言い聞かせるように口に出して意識付けした直後に聞き慣れた声で自分の名前が呼ばれ凍り付いた。恐る恐る振り返ると、
「さ、定留……?」
いつもの笑顔でそこに立っていた。手には見覚えのあるファイルを持っている。
「白木君ってさぁ、なーんかズレてるよねぇ。――この報告書なに?」
「な、何って……報告書は報告書ですけど……」
「いや、これ短編小説でしょ⁉ 報告書の意味分かってる⁉ ったく白木君は毎回毎回――」
ここの生徒会は厳しいと噂がある。誰からが発症であるかは分からない。しかし、その噂は広がりに広がり、生徒たちの耳に入る。校則違反防止に繋がるかも知れない。だが――
「今日中に書き直しねっ!」
結局、噂は噂であって欲しいと、僕は半泣きながら強く思う。
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