弐:危ない一人歩き。ーー続・弐。
お付き合いください!
日時 同日。 場所 第一能力混在学園内西区域。
廊下に一人ぽつんと、僕は思った。聞き込みとは、人に話しかける行為の事を言っているのだけど、果たして僕にそんな事が出来るのだろうか。……いや、別に話しかけると言う行為が出来ない訳ではない。話しかけてその先があるのだろうかと、そこを心配しているのだ。
うわ、学園内でナンパ? なにこいつ、手汗がハンパないんだけどーちょーウケるー あの、警察呼びますよ? ――自分の想像がとっても虚しい。 ……あ、もちろん女子生徒にしか話しかけませんよ? 男子に声を掛けて良いことなんて無かったもんで、はい。
背筋を伸ばして、気合を入れ直す。今頃、佐伯は「全能の人」について有力な情報を得ているに違いない。そんな佐伯と釣り合いを保ち、能力部の存在をこの学園に定着させなくてはならない。ここで弱音を吐くようじゃ男としてまだまだだぜ、白木。――自分を奮起する。
お、丁度良い所に目の前から女子生徒が一人こちらに歩いてくるではないか。祝・記念すべき聞き込み一人目……って……。
「え、もしかして……月乃……?」
向かってきた女子生徒は僕と目が合い、逆に向うから話しかけられた。それも懐かしいと思ってしまう程、変わらぬ声色で。
「……か、楓、なのか……?」
「そうそう! うちうち‼ えー月乃も混在やったんか‼ うっそー、こんな事あるの⁉」
欲しかったぬいぐるみが駅前のお店で見つかったようなテンションのこの女子生徒、そして僕の事を下の名前で呼ぶ唯一の女子生徒。声には出さないが、僕こそ驚いている。
夏足 楓とは約二年ぶりの再会となる。僕が中学一年生の時、「女の子みたいな名前だねー」と僕のコンプレックスでもあるのにも関わらず土足で踏み込んできた無礼な奴と、早々と印象付いた女子であった。珍しく気に入ったのか楓はそれ以来、僕の事を「月乃」と呼び、僕も同じ様に「楓」と下の名前で呼ぶようにした。
当然、付き合っているのではないか? という疑問が浮上したが当時、楓には一つ上の学年に彼氏がおり僕と楓は付き合ってはいなかったが、そんな噂は楓の彼氏の耳にも入り放課後、僕はその彼氏を主とする怖―い先輩らに呼び出しをくらい、フルボッコにされるという痛々しい思い出を持っている。
どうして僕と楓の再会が約二年ぶりなのか、それは楓が転校していったのだ。いや、していったと言うより、せざるを得なかったと言うべきだろうか。僕がフルボッコされた次の日、ミイラ男の仮装でもしてるの? って、具合の僕を見て楓が勘付いたのだ。
楓は一人で彼氏を主とする怖―い先輩らをフルボッコのもう一つ上のランク、半殺しで病院送りにしたのだ。当然、楓は中学を移動となった。それ以来、である。
「それにしても変わっていないなー月乃は‼ ほうほう、身長は伸びたかな~?」
楓は背伸びをして、僕の身長を測る。中学時代の僕らに身長差は無かった。確かに、二年の時が経っていた。が、楓の雰囲気は二年前と変わることなく、あの日々の思い出がよみがえる一方だった。
「……楓は元気にしていたか?」
「当ったり前よー、うちが元気じゃない時があったか? うちは年がら年中元気百倍や! あ、水には弱くないよ? あはは」
あはは、元気で何よりです。うん、変わった所は元気が増したところかな?
「って、月乃はこんな所でなにしてんのー? ここって壱から伍組までの生徒しかみらんから、月乃って壱、弐、参、伍のどれか組やったの?」
「いや、僕は陸組だから教室はもう少し向うの方なんだがな……ちょっと、部活の活動でこの辺りを――」
「え、待って‼ 月乃、部活やってるの⁉ うっそー、そんな事あるんだ‼ すっげー‼」
祝福するように肩パンパンする程に、僕が部活しているのって珍しいのね。逆上がり出来るって言ったら気絶するレベルだろこれ。
「ま、まあな。そ、その部活の活動でやらなくちゃいけない事があって……この辺りを歩いていたところだ」
「へー、何? 廊下徘徊部とかー⁉」
「違う」
何その部活、目的と存在意義を是非とも教えてもらいたい。あはは、と冗談であろうトークをかます楓をよく見ると、左腕にテーピング巻いていた。それも手首あたり、手首をくじいたのだろうか。
「……左の手首どうかしたのか? 挫いたとか――」
「ああ、これ⁉ え、あ、そうそう、手首を挫いちゃってさー‼ もう、ほんとサイアクーって感じ、あははー‼」
余計にテンパる楓を不自然に思えたが、手首を挫くほどのお転婆な性格を今更に恥じているのだろうか。それならば、あまり触れる事はやめておこう。確か、中学まで空手を嗜んでいたとか……そんな楓でも、今ではちゃんと女子高校生しているのだ。伸びた長い髪を見る限り空手は辞めたのだろう。
「それじゃー月乃、うちはこれから急ぎの用事があるから……また、学園内で見かけたら話しかけるよ! またね‼」
挫いたという左の手首を右手で覆い、去ろうとする楓に最後問うた。
「……「全能の人」うーん、知らないなー‼ ご、ごめんね! それじゃ‼」
急ぎ足で楓は去って行った。廊下を走ると生徒会がうるさいぞと忠告しようとも思ったが、それも既に届くことなく、曲がり角にすぐ入った為に楓の姿は見えなくなった。
「……知らない、か」
ズキンと胸が痛む。「全能の人」という言葉を聞いた瞬間に楓の表情は曇った。それを楓は隠すようにテンションで覆う。楓が「全能の人」を知っているのは間違いない。しかし、どうして隠したのか。
そして僕はこの夜にもう一つ思い出した。
夏足 楓の能力がどのようなものだったのか。どうして女子中学生一人で五、六人の男子中学生を半殺しに出来たのか。――空手を嗜んでいようとも、どう考えても難しいのだ。
二年越しに今、はっきりさせるしかないようだ。二年前のお礼と共に――。
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