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世界の終わる日の話

作者: 氷川変電所

「なんか緊張するね」

「本当に来るのかな」

屋上に上がった二人は夜風にさらされていた。

「来るっていうか、来ないっていうか」

「終わりは来るけど、明日は来ないのね」

「明日の俺はもう存在してないってことでしょ」

「想像できない」


今日は世界最後の日。

急に「明日世界は終わります」と誰かから伝えられたわけではない。

世界中の誰もが、ずっと前からこの日が来ると知っていた。

最後の日が、この日だということもずっと前から知っていた。

そしてそれが、今日になったというだけだ。


「結局今日はなにも特別なことはしなかったね」

「そうね」

「よくたとえ話であるじゃん、もし明日世界が終わるとしたら今日何する?って」

「おいしいもの食べるとか」

「罪悪の限りを尽くすとか」

「まず思いつくのそれ…?」

「なにもしなかったね」

「すればよかったのに、罪悪の限り」

「いざとなると思いつかないもんだね」


「あの月なんか空に張り付いてるみたいだね」

「確かに。どこか不自然」

「あんなに黄色いものだったっけ」

「白かったり黄色かったり、たまに赤くなったり」

「月も忙しいのね」

「まぁ月もこれでおやすみね」

「お疲れ様でした」


「どうせだったら終わりの瞬間ってものを見てみたいよね」

「それはできないわ」

「なんでさ」

「私たちが見てるのはすべて一瞬分だけ過去の世界だもの」

「それもそうか」

「光にだって有限の速度があるもの」

「脳が処理するのも時間がかかるか」

「たぶん電燈のスイッチを切ったように終わるのよ」

「そっかぁ残念だな」

「終わりの瞬間もわからず終わっていくのよ」

「それはなんか面白そうだね」


「にしてもいつ終わるんだろうね」

「今日で終わりってことは日付が変わる瞬間じゃないかしら」

「じゃああと2時間ちょっとか」

「どのタイミングで終わっても今日で終わりには間違いないもの」

「今まで終わってなかったってだけでもラッキーなのか」

「ラッキーなのかは知らないけど」

「このままいくと24時ぴったりに終わりそうだね」

「そうね」


「あと10分ね」

「なんか大晦日みたいだね」


「じゃあさ」

「ん?」

「24時ぴったりになったら特別なことしようよ」

「はぁ」

「どうせ僕らは知覚できない」

「いいけどなにするのよ」

「それはお楽しみ」


二人を月が見守る。


「あと1分だね」

「いい加減なにするか言いなさいよ」

「しょうがないなぁ」

「で?」

「なにもしないよ」

「…はぁ?」

「ちょっとどぎまぎさせたかっただけ」

「なにそれ」

「なんてね」

――――――。


世界は終わった。


抱き合った二人を月が見ていた。



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