第一話 年下の義母が出来ました。
「お父さん再婚しようと思うんだけど」
38歳というあらゆる意味で微妙な年齢の父さんがそう言った。
身内びいきになるかもしれないけれど、僕の父である子子子子零壱はイケメンと言っても差し支えのない容姿をしている。
童顔という訳ではなく、年齢相応の色気、と言って良いのだろうか。なんというか、その歳らしい恰好良さがある父さんは20歳の時に10歳年上である母さんと結婚している。
その時連れ子である僕の大好きな百々《もも》にぃ(当時5歳)を父親としてちゃんと愛して受け入れた。
まあ、元々子供がいる事を知って結婚したらしいし、百々にぃも父さんを年が離れた兄の様な関係で受け入れた。
それはとても良い事だろうし、その後母さんとの間に僕が生まれても百々にぃはちゃんと兄らしく接してくれたし、姐さん女房で連れ子有りな所を覗けばごくごく普通の家庭だ。
まあ、17歳の僕からすれば、38歳の父さんはちょっと若すぎる気がしないでもないけれど、別に問題はない。
問題はないんだ。
ただ、父さんは大人の色気(これは本人談)を醸し出す容姿の癖に精神面では結構少年の心を残していると言うか、いや、ちゃんとしてるんだよ?ちゃんと父親らしくしてるんだよ?だけどさ、何て言うか、ちょっと残念って言うか、何て言うか。
見た目と中身のギャップが激し過ぎると言うか、まあ、何て言うか。
ハッキリ言って残念メンという奴だ。
だから母さんが10年前に事故で亡くなった後も家事は料理以外出来ないという残念っぶりを発揮した事だけはハッキリ覚えている。
いや、そうでしょ?コンセント入ってない掃除機を持って「これ音しないな!十子さんもこのモードでやってれば良かったのに!」とのたまう姿は馬鹿・・・失礼。残念としか言いようがない。
「そんなモードねぇよ」僕が初めて父さんに向けた暴言がこれだった。
その時結構ショックを受けていたみたいだけど、百々にぃが「コンセント入ってないよ。零ちゃん」と言った事で色々と丸く収まった。
当時の僕は7歳で、天使みたいだね。とよく近所の奥様方に言われる程度には可愛らしいお子様だった訳だけど、そんな僕から飛び出した言葉に誰より驚いたのは僕自身だった事を今言っておきたい。
いや、本当にさ、驚いたのは僕だからね?
思わず、とかじゃないからね。考える前に口から零れ落ちた言葉だからね?
・・・まあ、いいや。
そんな残念メンな父さんはとりあえず母さんに一途で、女の子は普通に好きだけど、小学生が綺麗なお姉さんに「ぉおおおっ!」ってなる程度だ。
エロ本はそこら辺に隠してあるみたいだけど、とりあえず変な性癖はない事は確認できている。
そんな普通の男。まあ残念でイケメン。そんな感じの父さんは探偵なんてやってるけど、そこは別に良いや。別に殺人事件に遭遇している訳じゃないし、ただ犬猫探し不貞調査等のごく一般的な探偵さんです。時々便利屋まがいの事もしているみたいだけど、そこは、うん。どうでもいいや。
まあとりあえずそれで生計は立てられているし、百々にぃも僕の通ってる高校で教師やってるし、意外と裕福、けどまぁ、そんな贅沢はしない。そんな感じの家庭だから別に遺産とかそういうのはないし、うん。だからさ、本当にさ。
「こっちがお父さんの恋人の刹那ちゃんね。千代より1歳下だから高校1年生だね」
そう言って黒髪ボブの美少女を紹介する父さんにとりあえず僕はドン引きしている。
隣の百々にぃなんて一言も言葉発してないし。
っていうか、眼鏡かちゃかちゃし過ぎだよ。百々にぃ。フレーム壊れるよ?
「はじめまして。刹那と言います。歳は16歳。零壱さんとお付き合いさせて頂いています」
ああ、なんかちゃんと良い子だ。良い子だよ。刹那さん。
こんな残念メンと付き合ってくれている時点で良い子なのは決定だけどさ、なんだろうかな?この分かりやすい良い子具合。
父さんはもうちょっとちゃんとしようよ。刹那さん緊張してるんじゃないの?よく分かんないけど、とりあえず年上の息子が二人も出来るなんて困ってるって。知ってたのかもしれないけど、直接会うなんて、結構困ってる筈だよ。
・・・最初連れて来た時は、まあ、恋人だって言う前は再婚相手の娘さんかと思ったのは、まあ、父さんは母さんという前科?・・・前例があるからなんだけどさ。
うん。僕父さんの事年上好きだとばかり思ってたよ。
だからさ、22歳も年下の女の子連れてくるとは思わなかったなぁー。
「実はね、俺二人が反対しても結婚したいから。っていうからするから。・・・俺はそんな決意なんだけどね、せっちゃんはちゃんと了承して貰わなかったら結婚しないって言ってるんだよ。だからね、せっちゃんの事をちゃんと迎え入れて下さい。俺、せっちゃんとの事本気だから」
真剣な表情で馬鹿な事を言う父。
良い事言ってるんだけど、言葉のチョイスが悪い所為だと僕は思う。
「・・・零ちゃん。刹那さんは千代よりも年下なんだよ?」
「結婚は出来るよね!」
「・・・どこで出会ったの?」
「電車で痴漢に遭ってるのを」
「助けたんだ?」
そんなベタな形での馴れ初めって本当にあるんだな。そんな事を考えていたら父さんは首を横に振った。
「ううん。俺が遭ってるのを助けて貰って、逃げる犯人に回し蹴り食らわしてるせっちゃんの恰好良さに俺が思わずプロポーズした」
「お前が遭ったのかよ」
っていうか、どんな馴れ初めだ。別にとやかく言う気はないけど、そこは普通逆だろ。っていうか、刹那さん意外とアグレッシブ!
「あの時俺はこれは運命だと思ったんだよね。ここで告白しなかったら後悔するって!」
「・・・前、私もあの痴漢の被害に遭ったんですけど、取り逃がしてしまって」
「そう、なんだ」
ヤバイ。良い子だ。常識的だと思ってたけど、刹那さんも意外とアレだ!
「・・・零ちゃん。刹那さんのご両親は納得してるの?」
「私、家族はいないので」
・・・地雷、だったかな?
百々にぃも結構気まずげにしてるし。
「だからさ、そういう理由も含めて俺はせっちゃんと結婚したいんだ。俺の息子たちは最高の息子だから、せっちゃんも寂しくないよって言ったんだ」
「家族、欲しいな。とは思いました」
やばい。泣ける。とりあえず結構常識的な人だし、お母さんとかは今更呼べないけど、でも、家族にはなりたくはなってきた。
何となく思うだけだけど、父さんも刹那さんがいれば少しは残念な部分もカバーされるだろうし。
「僕は結婚反対する理由はないよ」
「・・・まあ、俺もないな」
僕と百々にぃがそう言えば父さんと刹那さんはとっても嬉しそうに笑った。
その笑顔に、結構緊張してたんだな。と気が付いた。
それぐらい、可愛らしく、自然に笑ったんだ。
まるで、花が咲くみたいに。
「実は千代と百々の高校に転校する事になってるから、仲良くしてやってくれ!」
「それ先に言えよ!」
僕のツッコミはどこまで響き渡ったんだろうか。
何か結構自分でも面白がりながら書けたので良かったです。
どうにか頑張ってウザい父、残念なイケメンを書こうと頑張っています。
長男の影が薄いですが、もう少ししたらちゃんとキャラが立つと思います。
笑えるホームドラマを目指したいと思います。