絶叫
この前、不思議な体験をしたんだ。
*
大学の友人たち五人で、旅行に行った帰りだった。……時刻は零時過ぎ。助手席に座る俺の横で車を運転していた友人、ナオキが、突然叫んだ。
「……オイッ! なんだアレッ‼︎」
――それは、森の中に突然現れた。
……といっても、別にそんな変わったものでもなんでもない。それは――
「廃工場、だろ」
後ろに座っていた友人の内の一人が、眠そうに言う。
「イヤイヤ! ションテン低いってぇ!」
ナオキは声高らかに言った。……イヤ、お前がテンション高いだけだろ……。そう思いながら俺は――嫌な予感がしていた。
「Let's! 肝試しぃー!」
……これが、深夜テンションってやつなのだろうか。俺たちが反論する間も与えず、隣の友人はハンドルを切った。
*
車を止め、俺たち五人は外に出た。……心霊スポットでもなんでもない、ただの廃工場だ。確かに夜で雰囲気はあるが、イマイチ盛り上がらない。
「オイ! 静かになッ! シィーッ!」
一番はしゃいでるナオキが、言う。車に常備してあった懐中電灯を持って、先導するように歩いた。
――錆びて壊れていた鍵のおかげで、俺たちはなんなく工場内に入ることができてしまった。蒸し暑く、埃臭い。……機械類は外に持って行かれてしまったようで、中はひたすらに広かった。……すると、
「なぁ! こっちに階段あんぞ!」
……ナオキが、見つけなくてもいい階段を見つけた。見ると、工場内全体を見渡せる部屋が高い場所に作られている。
俺たち四人は、イヤイヤながらナオキについて行き、一緒に二階へ上がった。
「……せぇーのっ! で、開けるかんな!」
ナオキが扉を前にして、小声で言う。……ここまで来たこともあり、なんとしてでも“幽霊”が見たいらしい。
「……せぇーのっ‼︎」
――BANG‼︎
……。
…………目が合った。
中には、スーツを着た――半透明の――おじさんが一人。……いた。
「……ッ‼︎」
「……! ……ギャァアアァアァァアァァァァァアァァァァァァァァァァッ‼︎」
――絶叫が、広い工場内に響き渡った。
……その悲鳴を上げたのは、俺たちではなく。
……おじさんだった。
「逃げんぞッ!」
俺は言い、みんなを促した。
ダッシュで階段を駆け下り、工場内を突っ切ると、車へと向かう。
全員が乗り込むと、ナオキは急いでキーを差し込み、回した。
――見ると、表情は青ざめている。――見たいと思いながらも、ほんとに居るとは思わなかった――そんな表情だった。
車が走りだし、一般道に乗っても、俺たちはしばらく黙っていた。
……やがて、高速に乗ったとき。ナオキがプッ、と吹き出して、みんな笑った。
――まさか、幽霊を驚かせてしまうだなんて。……絶叫するおじさんの顔はその時になって思い返すと、なんだかたまらなく可笑しかった。
*
「……思うにな。心霊スポットに居る幽霊ってぇのは、人に慣れてる。だから、脅かしてやろう、ってな感じのスタンスで、待ってやがんだな」
――これは、ナオキの勝手な仮説である。
「……でも、あの工場は心霊スポットでもなんでもなかった。だからあのおっさんも、まさか人が来るとは思ってなかったわけだ」
「ふむふむ」
「……俺たちは幽霊を見ると、ビックリするだろ? 『わぁー! 幽霊だぁーっ!』ってな感じで。そんな感じで、あのおっさんは驚いたんだ。『わぁー! 生きてる人間だぁーっ!』ってな感じで』
「ほう」
「……ってことでよ! こんどはちゃんとした、心霊スポット! 行こうゼッ!」
……呪われてしまえ。お前は。
俺はもう、幽霊なんか御免だ。