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かっこ悪いままの君でいい

作者: 半熟卵



走った。それは目的のない行動で。

ただどうしても今は君に会いたくて。会えるはずもない公園まで走った。

ポケットの中に入れっぱなしで止まっているそれを無事な方のイヤホンだけで聞く。

ボリュームを一気に上げると、もう周りの音が一切聞こえなくなっていく。


――――何かが変わる気がしたんだろうか。


誰もいない公園についた私はひたすらその場に立ち尽くす。

ここに来れば踏ん切りが付けられる?

昨日までの弱虫な私が変わる?

何も変わってないじゃないか。結局私は君の優しさに甘えていただけで。

それを突き放したのは自分の癖に――……。


『お前がそう言うなら構わないよ。』


嘘つき。そんなの嘘だってその涙が言ってんじゃない。

そんな優しさいらなかったよ。どうせならもっとかっこよく言いなさいよ。

男が涙流しながら、なんてそんなのかっこ悪いじゃないのよ。

片方のイヤホンから流れ続ける音楽。

それがひたすら左耳にだけ流れていて。


『俺はあんま気の利いたこと言えねぇけど。』


知ってるよ――――そんなかっこよくない君に惚れちゃったんだから。

皆の言うイメージとは真反対の、子供っぽくてかっこよくなんてない君。

それが逆になんか好きで、一緒にいればいつほど惹かれてた。


(なのに、)


別れを切り出した理由はひどく単純で、可愛くもない私は君のことを好きな子に取られたくなかったから。

いつかフラれるなら、思い出が浅いうちに――――悲しい想いを先取りして楽しとこう――――なんて。

だって君は人気者で、私なんてそのへんにいる普通の女の子で、なんて沢山の言い訳を用意しておいたのに。


たった一言で君と私を繋ぐものが切れてしまった。



『周りがどんなイメージしてっか分かんないけど、俺ロックよりバラードの方が好きだし、綺麗な子より可愛い子より一緒にいて楽しいこの方が好きだよ。』


誰も知らない君を知っている。

でも私を知らない君もいる。

弱くて情けなくてそのくせ苦労はしたくなくて――……。


『さみしい時とかは、呼んだらいつでもいっだら……やべ、噛んだ。』

『かっこ悪い。折角いい台詞っぽかったのに。』


「じゃあ、今来てよ……。」


自分勝手で、君のことより自分のことしか考えてないような奴なのに。


「ねぇ、」


片耳にだけ流れるバラード。

ゆっくりとした音楽は、時に大きくドラムを響かせて私を責め立てる。

握り締めたもう片方のポケットの中にある携帯。


「側にいてよ……。」


たったワンボタンで君の声が聞こえるのに、それを押す勇気も出ない。






「   」

「呼んだか?」


じゃり、砂を踏む音とこの場で聞こえるはずのない声に目を見開く。

ゆっくりと振り返れば、汗だくになりながら息を切らしている君の姿。


「なんで、」

「呼んだろ?」


びっくりして携帯を見てみるが、やっぱり着信履歴もリダイヤルもなくて。

携帯から顔を上げると、昨日と同じ、泣きそうな顔の君と目があった。


「嘘。俺が会いたいから、来た。ここにいる確証はなかったけど、でも、」


――――会えただろ?


そう言う君はやっぱりいつものかっこよくない君で。

でも今までで一番かっこよく見えた。それは、今の私が今までで一番弱くて情けないから?


「でも、私昨日……!」

「俺さ、」


昨日ここに君を呼び出した。

いつものように笑顔で私の名前を呼ぶ君に、私はさよならを告げた。

君はすごく驚いて、悲しそうに涙を流したけれど、理由も聞かずにそのまま背を向けた。

君の最初で最後の嘘はやっぱり私の為で、それが余計に苦しくて、私も同じように涙を流した。


「お前がそう言うならしょうがないって、未練がましいのはかっこ悪いからって潔く別れようと思った。だけど、」


それがつい昨日で、私のことなんてもう忘れて楽しくやってると思ってた。なのに、


「ここに来て、もし会えたら……言おうと思ってた。」


自分勝手なのは私。独りよがりなのも私。


「やっぱり好きだし、諦められないから。俺の独りよがりで自分勝手かも知れないけど……もう一度やり直してくれない?」

「……!」


だけど好きって気持ちは君に到底及んでいなかったようで。

だけどこの前みたいに泣きながら言う君はやっぱりかっこ悪くて。

だけどそんなかっこ悪い君の胸はひどく温かかった。


ごめん?ありがとう?どう言えばいいのか分からないけど。

できれば悲しい思いなんてしたくないけど、いつかやってくる悲しみなら、その時までは、この気持ちが君と同じその日までは、私も逃げないで君の側にいたいと思う。


――――今はまだ、かっこ悪いくても構わないから


流れる片耳だけの曲。

壊れたイヤホンは、まだ片方だけは使えるので、新しいのを買う必要はないかな、なんて。




YUIさんの『Good-bye days』を小説にしました。


壊れたイヤホン→二人の関係

左耳だけに音楽→一方通行の想い

新しいのは必要ない→このままでも大丈夫な二人の関係


を表しています。分かりにくくてすみませんm(_ _)m

読んでくれてありがとうございました!


半熟卵






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