03 転嫁
王城に戻ったディルクルムだが、国王や王妃の反応は芳しくなかった。
当然だ。
王太子の婚約者は、元老院の持ち回りで決まるのだから。
興奮するディルクルムを下がらせ、二人はそれぞれに独りごちる。
「白い髪に赤い目だと?」
執務室のある方角に目をやるクレプスクルム。
「勝手な事を⋯⋯」
扇で口元を隠し呟くセーレナ。
セーレナの政務上の苦悩など感知すること無く、クレプスクルムはその場を後にした。
その後ろ姿を苦々しくセーレナは見送った。
マグノリア王国の元老院は以下の十一部門で構成される。
『内務』マールム公爵 ガルシア家
『財務』ミニュスクール公爵 ラティオ家
『司法』リーブラ公爵 リヒター家
『農務』エピ公爵 バーレイ家
『商務』アルゲンテア侯爵 ティワリ家
『建築』フォンス侯爵 ラグナ家
『医療』バストン侯爵 ロペス家
『芸術』コルデラ侯爵 ギルランド家
『科学』アルジャブラ伯爵 アブドラ家
『エネルギー』シンティラ伯爵 ロッシ家
『教育』フルーメン伯爵 フェン家
王太子の伴侶はこの十一の部門の主家から選ばれる。
持ち回りであるが、適齢の女児がいなければ次の部門に送られる。
六十一代王妃アマーリエは『エネルギー』。
六十二代王妃クラーワは『農務』。
六十三代王妃セーレナは『財務』。
まず直近のこれらの部門は除外された。
そして本来であれば、次は『科学』であった。
釣り合いの取れる女児はいる。
だが、ここで十六年前の大事件が問題となった。
『内務』ジュゼッペ・ガルシア主導の王権奪取の目論見に、『科学』は加担していた。
『科学』としては脅され不本意な立場であったが、武器の開発をしたのだから罪は深い。
そんな状態で婚約者になど出来ようはずもない。
では、次はと言えば『医療』である。
こちらにも女児は二人ほどいる。
しかし、現在の『医療』主家ロペス家には、主犯の孫である『内務』出身のエミリオが婿入している。
彼は祖父の悪事には加担していない。
それどころか阻止するべく動いていた。
とはいえ、大逆人の孫である彼は、自らの血筋が王家に入ることを潔しとせず辞退した。
次いで候補に挙がったのは『芸術』だ。
しかしすでに部門内の男爵家から、王弟サピエンティア公爵アルドー・ルカ・マグノリアへ嫁いだ者がいる。
『平等であれ』という元老院に課せられた基本理念が問題になった。
臣籍降下したとはいえ、依然として継承権第二位である王弟と縁付いた部門から、王太子の妃まで差し出すことはできない。
そうして残ったのは四つの部門。
『司法』、『商務』、『建築』、『教育』。
年周りの良い女児はいない訳ではなかった。
だが彼らは難色を示した。
十六年前の国を揺るがす事件に当時の主家の嫡子らが少なからず関わり、真相を知っていた。
同じように他部門が反旗を翻せば、差し出す娘に災禍が及ぶのは当然の流れだ。
また、十一年前の戴冠の儀を終えたクレプスクルムの奇行は誰もが覚えていた。
儀式の後、クレプスクルムは私室に籠り、何人も寄せ付けなかった。
王妃や王太后ですら。
しかもその日を境に王妃への態度が豹変した。
まるでそこに王妃などいないかのように。
元老院の現当主たちには知る由もないことだが、二代前の六十一代国王ウェントゥスの死因もまた不安材料であった。
年々心を病み、害獣討伐へと無理やり連れ出されたウェントゥスは、その遠征先で錯乱して命を落としたという。
「そんなリスクだらけの王家に嫁がせられるものか」
彼らは言外に滲ませ、自分の部門に話が来るのを恐れた。




