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続・囃子の音の物語

作者: 笹門 優
掲載日:2026/07/03

 以前書きました『囃子の音の物語』をよりホラーちっくに書き上げました(*^ω^*)「夏のホラー2026」参加作品になります。

 前作の続き、とも言えますしそうでないとも言えます。

 どうぞ、ご覧あれ





 遠くから響く太鼓の音に透子(とうこ)は身を震わせた。


 高く、高く響く笛の音はまるでトラツグミの様。 この薄暗くなる時間帯に、その音色は恐怖しか呼び起こさない。

 太鼓が遠くから聞こえるというなら、鈴の音、金棒の音なんてこんな場所まで聞こえてきそうにもないのに聞こえる不可思議に透子は怯えを隠せない。


 ――どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん


 聞こえる、響くのは聞き慣れない拍子の祭り囃子(まつりばやし)


 だが、それは何処から聞こえてくると言うのか。


 ――ここは廃村。


 廃墟マニアの彼氏 ――小宮(こみや) (えにし)(そそのか)されて連れてこられた誰もいない村なのだ。


 夕闇の中、紅く染まる周囲を切り裂くように、音が響く。

 切り裂かれた紅は深紅へ、薄闇へ色を置き換えその光量を徐々に落としていった。

 なのに縁は「そんなのは知ったこっちゃない」と言わんばかりに、朽ちた村の風景を見ては笑みを浮かべて、それらをカメラに収めている。


 ――どーん どーん ぴーひゃらひゃら しゃんしゃんしゃんしゃん


 調子を変え、時には強く、時には弱く。

 街灯すらない周辺に響いている祭り囃子。

 街灯がない、電柱がない、電気の通っていない周辺。

 車音もない、発電機の駆動音なんて聞こえない近辺。


「ちょっと縁くん……! 変な演出はやめてよ!?」


 夕闇の山村跡はゆっくりと薄暗い黄昏(たそがれ)の色から瞑色(めいしょく)へと変わっていき、懐中電灯から伸びる光芒だけが頼りない視界を確保する。


 透子は音の聞こえる方へ光を向けるが何が見える訳でもない。

 音源となるモノなんて発見できない。


 ――どーん どん ぴーひゃらひゃら しゃんしゃんしゃん


 これだけの大音量であるにも関わらず、だ。 山間部の虫までもが鳴き止み、周囲一帯が静まりかえる中、騒音レベルに近い祭り囃子だけがただ聞こえてくる。


 縁は透子に顔を向け、何やら口にしている様子だがその声は届かない。


「何っ!? 聞こえないよっ!?」


 透子は囃子の音に負けないよう声を張り上げるが、縁はこの声に何処か「引いた」様子を見せた。

 その様子に彼が何を考えているのか解らなくなった透子の、その心に生まれたのは絶望に近い感情。 そんな彼女の耳へ、一時(ひととき)だけ、急にラジオのチューニングが合った様に無数の声が入り込んで来る。


 ――祭りだ 祭りだ


 ――(まつ)れ 祀れ


 ――姫神さまを再び此処(ここ)


 ――村を此処へ 再び村を


 ――どんどん、ぴーひゃらひゃら、しゃんしゃんしゃん


 更に近づくお囃子、一層近づく喧噪。


 鈴の音は近く、金棒を突く震動すら伝わるようで、太鼓は鼓膜どころか腹の奥まで振るわせる。


 ――どーん どーん

 ――どーん どーん


「ちょっと、聞いてるの!? ねぇ! 縁くん!!」


 透子が彼の手を掴んだ時、彼女の真後ろで、『彼には聞こえていない』祭り囃子が鳴り響いた。


 ――どんどん ぴーひゃらひゃら しゃんしゃんしゃん

 ――どーん どーん ぴーひゃらひゃらひゃら しゃんしゃんしゃん


 ビクッとその身を震わせ透子は彼にその身を寄せた。

 縁はどう見ても怯えている彼女を不思議そうに見る。 見ている。


「――――?」


 彼の口が動く。

 何かを話している、聞いている。

 その言葉は彼女に届かない。 彼女の耳には祭り囃子しか聞こえていない。

 大音量の祭り囃子にあらゆる音が掻き消されてしまっている。


 ああ、何故だろうか。


 お囃子の音は目の前を通っていくのに、近くも遠くにも聞こえる雑多な声がそれでもすぐ側を通っていくのが解るのにその姿が見えないのはどうしてだろう?


 ――祀れ 祀れ


 ――姫神さまを祀れ


 ――祈れ 祈れ


 ――村の再建を祈れ


 ――我等の繁栄を祈れ


 轟音に近い祭り囃子、その合間に聞こえるのは、再び耳に入ってきたのは、祈りの声、願いの声、欲望の声。


 だがそれも直ぐに聞こえなくなり、雑音となって埋もれる。


 ――どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん……

 ――どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん……


 遠ざかっていく、音。

 遠ざかろうとする音。


 それに透子はほっとして息を吐いた。

 明らかに良くないものが去って行ったと、そう思った。


 その時だった。


 ――小鳥が居った

 ――おお 姫神様へ唄を捧げる小鳥じゃ


 耳元でそんな声が聞こえた瞬間、彼女はあっという間に『引き摺り込まれた』。

 縁を掴んでいた手は離され、その身は暗闇へと消えてしまう。


 その一瞬だけ、走る自動車に引っ張られるように姿を消す透子と、触れていた瞬間だけは彼女を認識していた小宮縁だったが、その指が離れると驚愕の表情は平淡になり、彼女の居たことすらも忘れ、そのまま写真を撮り始めた――。



 ――小鳥じゃ 小鳥じゃ


 ――姫神様へ唄を捧げる小鳥じゃ


 声の言う通りに小鳥 ――ソウシチョウへ姿を変えられた透子は悲しそうに、


 ――ヒョッ ヒョッ ピョロピョロピョロ


 と鳴いていたが自身の翼に気づいたのか、すぐに飛び立っていった。

 すっかり(くら)くなった空を、それでも自由に飛び、声の主たちの手が届かぬ先へ。


 ――ああ 逃げてしもうた


 ――ああ 小鳥が逃げてしもうた


 ――まあ良い 次の小鳥を捕まれば良い


 ――ああ 次の小鳥を捕まえればそれで良い


 ――姫神様へ唄を捧げさせる美しい小鳥を


 ――姫神様へ捧げる小鳥を







 ――――――捕らえようぞ


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― 新着の感想 ―
その存在が消え、それにともなってその存在の記憶さえも消滅してしまう。 そこには何も残っていない。 これは恐怖です。
幻想的で、詳細は分からないけど、それがまた怖いという印象でした。 最初遠くからだった囃子の音が、徐々に近づき、狂気を帯びて行く様子、そしてラストも事態が何も好転していない所にホラーとしてのゾクゾク感…
再び|*´ω`*)<失礼いたします。まずは、元姫神様や彼等、相思鳥などに続きの物語を考えておられたのなら、申し訳ありません。 ご返信を読ませていただき、胸が熱くなりました。 私が「元姫神様」の視点…
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