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異世界転生した俺のスキルは《最適解AI》 ~全部任せたら最強になったけど、人間やめそうです~

作者: 四条 アイ
掲載日:2026/02/18

「どこだ……ここは……、死んだのか、俺」


気づいたら、真っ白な空間に立っていた。


山田蓮、享年二十八歳。

死因は過労。

まあ、そんなものか、と思った。


特に悔いはない。

いや、あるとすれば——自分で何も決められなかった人生だったな、ということだ。


就職も、親の言う通り。

転職も、上司に言われた通り。

彼女と別れたのも、友人に「合わないよ」と言われたから。


自分で選んで、自分で失敗するのが——怖かった。


「山田蓮さんですね」


背後から女性の声が聞こえた。


振り向くと、白いローブを纏った女性が立っていた。

髪が白く光っている。というか全体的に光っている。

女神、というやつだろう。


「はい」


「あなたを異世界に転生させます。ついては、スキルを一つ付与します」


「あ、はい」


「あなたに与えるスキルは——《神託AI》です」


女神が手を広げた。光が集まる。


「《神託AI》は、あらゆる選択を最適化します。戦闘、外交、生存戦略。どんな場面でも、最良の行動を提示します」


「最強じゃないですか」


思わず声が出た。


チートだ。完全なチートだ。


「ただし」


女神の声が、少し変わった。


「このスキルは、あなたが自分で下した判断には作動しません。AIが提示した選択肢の中から選んだ場合のみ、補助が有効です」


「……つまり?」


「自分で考えて動く限り、スキルは使えません。AIに従う限り、あなたは最強です」


沈黙が落ちた。


俺は少し考えた。いや、ほとんど考えなかった。


「——わかりました。お願いします」


女神が、どこか悲しそうな顔をした気がした。

気のせいだと思った。


転生先は、剣と魔法の世界だった。


名前はそのまま。

体は二十歳くらいに若返った。

そして——右目の端に、常に小さなウィンドウが浮かぶようになった。


《神託AI》だ。


最初のテストは、森の中だった。


うっそうと生い茂る森。


周りを見回していると、突然、ゴブリンが三体飛び出してきた。


——ウィンドウに文字が流れる。


《推奨行動:左の個体から順に攻撃。最初の一撃は喉元を狙う。回避は右側へ。成功率94.3%》


「言われた通りにやってみるか」


剣を抜いた。


左。喉。右に回避。


気づいたら、三体とも倒れていた。


「……強い」


自分でも驚いた。


次は盗賊団との遭遇。


《推奨行動:リーダーへの先制攻撃。声帯を狙う。他は威圧で制圧可能。成功率88.7%》


また言われた通りに動いた。

また、勝った。


その次も。その次の次も。


三ヶ月後——俺は冒険者ランクBになっていた。


「蓮さん、強すぎませんか」


パーティメンバーのカリナが言った。


元気のいい女剣士だ。転生して初めてできた友人みたいなものだ。


「なんで毎回あんなに的確なんですか? まるで全部知ってるみたいで」


「……勘がいいんだよ」


嘘は言っていない。AIの勘がいいだけだ。


「ふーん」


カリナは納得していないような顔をしたが、それ以上は聞いてこなかった。


もう一人、魔法使いのセイジという男もいた。

物静かで、あまり喋らない。でも腕は確かだった。


「おい蓮。今日の依頼、どうする?」


「えっと——」


ウィンドウを見る。


《推奨行動:依頼Bを受諾。報酬効率1.47倍。危険度最小。》


「依頼Bにしよう」


「わかった」


会話が終わる。


なんて楽なんだ、と思った。

迷わなくていい。悩まなくていい。失敗しない。


これが正解だ、と思った。


——その頃はまだ、そう思っていた。



半年が経った。


俺たちのパーティはAランクに届こうとしていた。


カリナが笑う回数が減った。


最初は気づかなかった。

でも、ある日飯を食いながら、セイジが言った。


「蓮。最近、カリナの誘いを全部断ってるの知ってるか」


「……断ってた?」


「街の食堂に行こうって誘いとか。依頼の後に酒飲もうって話とか。全部お前が断った」


「それは、AIが——」


言いかけて止まった。


そうだ。全部、ウィンドウに従っていた。


《非推奨:飲食による時間消費は効率を下げる》

《非推奨:感情的交流は判断の歪みを生じさせる可能性がある》


俺はその通りにしていた。


「別に、忙しかっただけだ」


「そうか」


セイジはそれ以上何も言わなかった。


その夜、俺は少し考えた。


AIは正しい。効率的だ。無駄がない。


でも——最近、カリナが何を考えているか、全然わからなくなってきた。


セイジが怒っているのかどうかも、わからなかった。


いや、そもそも——俺が何を感じているか、が。


《感情処理は判断の精度を下げます。合理的な思考を推奨します》


ウィンドウがそう言った。


「……そうだな」


俺はそう答えて、眠った。


その依頼は、Aランク初の討伐任務だった。


魔族の上位個体——《屍王ヴァルカン》。


王都郊外の廃城に潜伏しているとの情報があった。


「行けますか?」


依頼主の騎士団長が聞いた。


ウィンドウを確認する。


《戦力評価:現パーティにて対応可能。成功率71.2%。ただし戦術的撤退の準備を推奨。》


「行けます」


俺は答えた。


廃城に入った。


最初は順調だった。


AIの指示通りに動く。

カリナが前衛で斬り込む。

セイジが後衛から魔法でサポート。

俺が中衛で指揮する。


三層までは順調に攻略した。


だが、問題は四層で起きた。


《屍王ヴァルカン》が予想外の速さで動いた。


奴の腐敗した腕が、カリナを吹き飛ばした。


壁に激突して、動かなくなった。


セイジが叫ぶ。


「カリナ!」


《状況評価:カリナ・ライドは重傷。即時回収は困難。屍王の攻撃範囲内。救出を試みた場合、パーティ全滅リスク67%。》


ウィンドウに、続きが出た。


《推奨行動:カリナ・ライドを放棄し、撤退。生存率最大化。》


俺は、ウィンドウを見つめた。


放棄。


放棄、か。


セイジが俺を見た。


「蓮。どうする」


その目が言っていた。お前が決めるんだろ、と。


ウィンドウは変わらない。


《推奨行動:撤退。カリナ・ライドを放棄。成功率82.4%》


俺は——


初めて、ウィンドウから目を離した。


カリナを見た。

壁際で倒れている。まだ、かすかに胸が動いていた。


生きている。


俺の中で、何かが動いた。


怖い、とかじゃなかった。

損得でもなかった。


ただ——嫌だ、と思った。


「セイジ。俺が前に出る。お前はカリナを頼む」


「蓮、でも——」


「早く」


剣を握り直した。


ウィンドウが点滅した。


《警告:AIの推奨を無視した行動です。補助を停止します。》


「知ってる」


走った。


怖かった。

めちゃくちゃ怖かった。


AIなしの俺は、ただの元社畜だ。

勘もない。経験も浅い。戦術センスもない。


屍王が振り向いた。


でかい。速い。


腕が飛んできた。


——間に合わないと思った瞬間、体が反応した。


半年間、AIに従いながら積み上げた経験が、体に残っていた。


ギリギリで躱した。


返しの一撃を首に入れた。


《屍王ヴァルカン》が、よろめいた。


セイジが叫ぶ。


「今だ!」


火炎の魔法が炸裂した。


轟音とともに、廃城が揺れた。


煙が晴れた。


屍王は、消えていた。


「……勝った」


俺は膝をついた。


腕が震えていた。足も震えていた。


でも——心臓が、うるさかった。


こんなに動悸がしたのは、いつぶりだろう。


《神託AI:権限縮小》


《非合理的選択を検出しました。以降、助言精度を67%に制限します。》


それを読んで——俺は少し笑った。


それから三ヶ月後。


《神託AI》の精度は、今や52%まで落ちていた。


「依頼Fにしよう」


「え、難しいですよ?」


「面白そうだからいいじゃないか」


くだらない会話だった。


最適でも何でもなかった。


でも——楽しかった。


《現在の助言精度:52%》


まあ、いいか。


最適じゃなくても——俺の人生だ。


俺が決めて、俺が失敗して、俺が笑う。


それでいい。


《——しかし、あなたの選択を尊重します》


「……なんだよ、最初からそう言えよ」


そして——走った。


仲間のいる方へ。


自分で決めた道を。

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