第4話「緊張しているの? 可愛らしい」
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「悪いようにはしないわ。さあ、私に身を委ねて……」
ヴィオラの吐息にも似た囁きで、シーナの耳朶を震わせる。指先でなぞるシーナの頬は、まるで上等な絹のハンカチを思わせた。
その指はそのままうなじへ、肩へ、背中へと歩んで行き、流れるようにドレスの紐をほどく。そこから現れたコルセットが、まるで乙女の柔肌を守る鎧のように見えて、ヴィオラはくすりと笑った。
まるで迷宮のように編み上げられたコルセットの紐。それをヴィオラは器用に片手だけで攻略していった。
リネットを相手に鍛えた手管であった。ヴィオラはリネットに自分のドレスを着せ、一種のコスプレプレイを楽しんでいた。故に、着せるも脱がすも自由自在。
そしてコルセットの締め付けからシーナの肌が解き放たれた時、一際、柑橘の香りが強く広がった。
その香りを嗅いで、ヴィオラは思わずうっとりとする。
「素敵な香水だわ、シーナ。私のために選んでくれたのね」
露わになった産毛一本ない艷やかな背中を、ヴィオラは愛おしむように撫でる。それは天鵞絨よりも価値のある手触りだった。
シーナの身体が小刻みに震える。固く瞑られた目。桜の花びらのように結ばれた唇。そのすべてが、ヴィオラにはきらめく宝石のようにさえ思えた。
「緊張しているの? 可愛らしい。まるで子猫のよう」
そう囁いて、ヴィオラは乱れたドレスごとシーナを片手で強く抱きしめる。そうしながらも、空いた手は彼女のスカートをゆっくりと捲くりあげ、その腰近くにある豊穣な曲線を堪能した。
やがてその指は、シーナの花園近くまでたどり着きーー、
――この日、ヴィオラは初雪を踏み荒らす快感を得た。
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ヴィオラはそれからも、度々シーナを《お茶会》に誘った。
シーナは決まりきったように「お戯れを」と口にするが、招待を断ることは一度もなかった。それはつまり、そういうことなのだろう。
新たな恋人に有頂天になったヴィオラは、シーナを兎角猫可愛がりした。己の裁量の範疇ではあるが、新たなドレス(よく汚してしまうので)を買い与えたり、華美な装飾品で着飾らせたりしていた。父である公爵を通してアルヴェル家に便宜を図りもした。
無論、そのような可愛がり方だけではなく、たっぷりと二人だけの時間を、時にはリネットも交えて三人の濃密な時間の中、全身くまなく愛し、愛された。
それが、傍から見ればシーナがヴィオラから信を得て、うまく取り入ったように見えたのだろう。
実際どのような関係であるかは他人が知る由もない。だが、結果としてそう見えたことが、望外な副次効果を生み出していた。
二匹目の泥鰌を狙った、他家からの積極的な茶会への誘いである。
横紙破りを行い、自らヴィオラに声をかけたシーナを先例に、本来あるべき段取りを抜かしてヴィオラに直接招待をかける令嬢が大量発生した。
口うるさい侍女長あたりは公爵家に対して無礼であると憤怒していたが、誘いを受けた当のヴィオラは数々の招待状を見比べながら、
――モテ期が来た。
と、内なる三十代素人童貞が、前世ではついぞ訪れなかったチャンスに小躍りした。
しかし、今更、本当に今更ではあるが、ふと思う。
――私、もしかして二股かけてる?
リネットとシーナ。当たり前のように二人をの恋人扱いしていたが、彼女たちはそれを不満に思ってはいないのだろうか?
しかし、三人で愛し合った時も拒否は無かった。不満があるのなら口にするだろう。だって、
「嫌なら嫌と言いなさいと、何度も伝えていますしね」
そう、思っていた言葉が、こぼれ落ちていた。
そもそもである。上位の貴族というものは妾が複数人いて当たり前だ。
なるほど、将来嫁いだ相手が他に女を作っていても怒ったりしないというのはこの世界の常識なのかもしれない。
――なら、もっとたくさん恋人を作っても大丈夫ね。もちろん、愛は平等に注がなきゃいけませんわ。
一人腑に落ちたヴィオラは、これ以上考えるのをやめ、茶会の招待状を吟味し始めたのだった。
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そして、ヴィオラは相手から飛び込んで来たお茶会で、令嬢たちを見繕った。
その中で好みのタイプがいたら、ヴィオラから招待状を送り、秘密のお茶会を開くのだ。
もちろん、ヴィオラは己のポリシーに従って必ずこう伝える。
「嫌なら嫌と言いなさい」
もう幾人もの少女たちがその誘いを受けたが、誰一人「嫌」と言うものはいなかった。
それはやはり、そういうことなのだろう。
――百合ハーレム、キターーー!
ヴィオラは恋人になった乙女たちを、誰一人区別することなく平等に愛した。
ヴィオラは様々な愛の形を閨の中で示した。一日中口づけだけで過ごしたり、互いの蜜を啜り合ったりした。時には外で生まれたままの姿で愛を確かめることもした。四肢の自由を奪い、バラ鞭を打つなんてこともした。
もちろん、彼女たちが嫌だと言うことは決してしなかった。それが三十代素人童貞の矜持だからだ。
――誰一人ヴィオラのすることに否を唱えるものはおらず、全て受け入れられたことが、ほんの少しだけ不思議だった。
そんなふうに、ヴィオラが我が世の春を堪能していた時だった。
公爵から、第二王子との婚約の内示を受けたのは。
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いや、もう、マジで感想ください。寂しいんです(´・ω・`)
欲しがりですみません。




