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005

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翌朝。

何か黒いものが、クロの顔面にぶつかった。


バサッ。


それは漆黒のマント。

薄くて冷たく、不思議な質感だった。


クロは拾い上げてまじまじと見る。


「……これ、何?」


カマスは腕を組んだまま言う。


「着ろ。迷彩マントだ。場所に合わせて色が変わる。

……まあ、魔力を感知できる奴には無意味だがな。」


クロは瞬きをする。


「お、おお……かっこいい。」


カマスは門の方を指さした。


「行くぞ。今すぐだ。」


「え、何? もう!?」


クロが慌てて顔を上げたとき――


カマスの姿は、もうどこにもなかった。


完全に消えていた。


「は? どこ行った……?」


その瞬間、スマホが振動する。


差出人:カマス

『渋谷スクランブル交差点まで走れ。

お前の“最速”でな。

俺はもう着いてる。』


クロの口がぽかんと開く。


「はぁ!? もう着いてる!?」


道を見る。


佐賀一族 → 渋谷スクランブル交差点

距離:40km


「……マジかよ。」


だが、選択肢はなかった。


クロは大きく息を吸い込み――

全力で走り出した。


現在の最高速度――

時速40km。


渋谷までほぼ一時間。


そして本当に、一時間後――

汗だくで、息も絶え絶えになりながら、渋谷へ辿り着いた。


だが、カマスの姿は見当たらない。


クロは人混みの中をぐるぐる探し回る。

左へ、右へ、横断歩道を渡り、また戻り――


そして、パチンコ店の前を通りかかった時。


クロは固まった。


ネオンの中で――

カマスがパチンコを打っていた。


クロは店に飛び込む。


「何してるんですか!!」


カマスは画面から目を離さずに言った。


「遅すぎるんだよ。

お前を待ってる間に金がだいぶ溶けた。」


クロは拳を握りしめる。


(時速40で走ったんだぞ!? それでも遅いの!?)


文句を言う前に、カマスはクロの襟をつかんだ。


「来い。アパートに行く。」


そのままクロを引きずり、渋谷の雑踏を抜け、

古いマンションの一室へ。


部屋に入ると――

一人の男が床に座り、ゲームコントローラーを握っていた。


横には、曲がったコンバースの靴が放り投げられている。


男はちらりともこちらを見ない。


「よう、カマス。そっちのガキは?」


カマスはクロの背中を押した。


「俺の弟子だ。

壊すなよ。」


男はゲームを止め、ゆっくりと笑みを浮かべた。

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