011
ヒョウの獣人が一瞬で距離を詰め、クロのバッグを奪い取った。
「ははっ! ずいぶん重そうだな――」
持ち上げようとして、止まる。
「……?」
もう一度、力を入れる。
――動かない。
「な、なんだこれ……重すぎるぞ……!」
三人の獣人の視線が、ゆっくりとクロへ向いた。
クロは――
口元を歪めて笑った。
無言で上着を脱ぐ。
そして、それを軽く投げた。
ドンッ!!
布とは思えない衝撃音。
地面が砕け、土煙が舞い上がる。
露わになったのは、鍛え上げられた身体。
はっきりと割れた腹筋。
空気が、一変した。
三人の獣人が思わず後退する。
(……こいつ、人間じゃねぇ)
狼男が歯を食いしばった。
「ひ、ひるむな! ただの人間だ!」
リーダーである彼が、真っ先に飛びかかる。
――判断ミスだった。
クロは一歩踏み出し、軽く押しただけ。
それだけで――
狼男の身体が吹き飛び、
壁を突き破って地面に叩きつけられた。
「ぐぁっ!!」
次の瞬間、ヒョウの獣人が消える。
背後――高速移動。
だがクロは、わずかに身体をひねり――
蹴り。
衝撃と共に、ヒョウの獣人は壁へ叩きつけられ、
そのまま崩れ落ちた。
残ったライオンの獣人は、動けなかった。
脚が震え、
ズボンに黒い染みが広がる。
クロは何も言わず、バッグを拾い上げる。
肩にかけ、視線を前へ。
「……急いでるんだ。」
次の瞬間――
風を切る音だけを残し、
クロの姿は夜の中へ消えていった。
残されたのは、
破壊された壁と、
恐怖だけだった。




