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「――っ!」


クロは叫び声をあげて飛び起きた。


全身が震えていた。

額には冷たい汗。

胸はまだ痛い。

まるで本当に死んだ瞬間をもう一度味わったようだ。


あの悪夢――

いや、悪夢ではない。


現実だった。


一族が燃える光景。

日本中が自分の一族を追い詰める音。

父が倒れる瞬間。

そして自分自身の死。

暗闇に落ちていく恐怖。


クロは荒い呼吸をしながら周りを見回した。


その瞬間、気づく。


「……ここ、俺の部屋じゃない。」


天井は木でできている。

壁も古くて、どこか田舎の家のようだ。

東京のアパートじゃない。

見慣れた机も、パソコンもない。


胸が一気にざわつく。


「どこだよ…ここ…?」


パニック寸前。


そして――

頭に鋭い痛みが走った。


「ぐっ……!!」


大量の記憶がクロの脳に流れ込んだ。


見知らぬ少年の人生。

18歳。

白い髪。

魔術を使う一族で修行している。

笑った顔。

泣いた顔。

苦しんだ顔。


その名前は――


クロ。


「同じ名前……?」


記憶の波は止まらない。


この白髪のクロは、すでに死んでいた。

何かに襲われ、この家で息絶えた。

そして今――


東京で死んだクロが

この”別のクロ”の身体に入り込んだ。


「……これ、俺の身体じゃない。」


手を見る。

小さくて違う形。

鼓動も違う。

息の仕方も違う。


間違いなく――


転生した。


魔術が存在する日本。

異世界の日本。


クロの胸に小さな興奮が湧く。


「転生…? 本当に? マジで…?」


だがその直後――

最悪の記憶が脳裏に突き刺さる。


一年後、

日本中の人間が俺の一族を殺す。


かつての現実。

自分が確かに経験した地獄。


クロの目の色が変わった。


「……だから俺はここに来たんだな。」


これはただの転生じゃない。

やり直しでもない。


未来を変えるためのチャンスだ。


クロは拳をゆっくり握りしめた。


「必ず変えてやる。

一族を殺させはしない。」


死んだ世界から来た少年。

新しい身体を得た少年。


クロの二つの魂が重なり、

ここから運命が動き出す。

クロは家の外へ出た。


しばらくの間、ただ呆然と立ち尽くした。


巨大なヴィラが四方を取り囲み、

その中心には想像以上に広い修練場が広がっている。

いくつもの建物が並び、それらはすべて――


サガ一族のものだった。

クロの一族。

そして、その頂点に立つのは父――族長。


状況を飲み込む前に、何かがクロの顔めがけて飛んできた。


ゴンッ。


冷たいコーラの缶が胸にぶつかり、クロはなんとか受け止めた。


「兄ちゃん! どこ行ってたんだよ!」


白い短髪、鋭い目つき、そして明るい笑顔の少年が走り寄ってくる。

年齢はたぶん十六歳くらい。


彼は マコト。

クロの弟。

――記憶によれば、天才と呼ばれている。


マコトは腰に手を当て、むっと顔をしかめた。


「なんで修行してないの? 兄ちゃんが次のサガ一族の族長になるんだよ!」


クロは瞬きをした。


そうだ。

この世界では自分が次期族長。

……弟がその座につく可能性もあるけれど。


クロは小さく笑った。


「なぁマコト。お前が修行して、いつか俺を殺して族長になってもいいんだぞ?」


マコトの表情が固まった。


「……なに言ってんの?」

腕を組んで続ける。

「族長なんてなりたくないよ。俺は普通に生きて、好きな女の子と結婚して、平和に年取って死にたいだけ。特別になんてなりたくないよ。」


クロは一瞬、言葉を失った。


前世の世界では、力のために人が人を殺した。

なのに――弟はそれを拒む。


胸のどこかが温かくなった。


クロは優しく笑った。


「それでいいんだ、マコト。本当に。」

コーラを開けながら言う。

「だから今日は本気で修行を始める。お前を守れるように。」


マコトは瞬きをして――大笑いした。


「兄ちゃん、それ百回くらい言ってるじゃん! 一回もやらなかったでしょ!」

肩を軽く小突く。

「冗談でしょ?」


だが――今回は冗談じゃない。


クロの脳裏に、この身体の“死”の記憶がよみがえる。

弱さ。

恐怖。

無力。


あれを繰り返すわけにはいかない。


二度と。

この人生では絶対に。


クロは本邸へ歩き出した。


「父さんに会いに行く。魔術の師匠と、武術の師匠、二人ほしい。」


マコトは眉を上げた。


「……本気なの?」


クロは力強くうなずいた。


「弱いままだったら、また死ぬ。もう同じ死に方はしない。」


マコトはしばらく黙ってクロを見たあと、ふっと笑った。


「わかったよ、兄ちゃん。応援する。」


クロは深呼吸し、族長のいる本殿へ向かう。


これが第一歩だ。

未来を変えるための戦いの始まり。


一年後、日本中が一族を殺しに来る――


その未来に抗うため。


そして今回は、絶対に――逃げない。

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