表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユリカゴから宙へ ──漂う星々の記憶──  作者: 真野真名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/42

エピソード35、再会、そして喪失




 木星の重力圏は、逃げ場のない檻だった。


 〈ホシノナギサ〉を取り囲むように展開したGA ――大亜細亜共栄連邦――艦隊は、威圧的な沈黙を守っていた。レーダーに映る光点の数は十二。一隻の民間輸送船を捕らえるには、あまりに過剰な戦力だ。


 その中心に位置する駆逐艦から、再び通信が入る。


『抵抗は無意味だ。エンジンを切れ』


 高龍の声は、氷のように冷徹だった。


 戸来は通信機のマイクを握りしめたまま、ココを見た。彼女は顔を伏せ、微かに震えている。かつての指導者であり、自分を実験動物として扱った男の声。それがトラウマを呼び起こしているのは明らかだった。


「……断る」

 戸来は短く答えた。


「俺たちの船だ。行き先は俺たちが決める」


『所有権を主張するつもりか。その船籍データが改竄されたものであることは把握している』


 高龍は淡々と言い放つ。


『それに、お前たちは理解していない。その船が持つ価値を。NAG-13は、人類が次の段階へ進むための切符だ。それをただの運び屋が独占するなど、資源の浪費に過ぎない』


「浪費で結構だ。俺たちは運び屋だからな。荷物を届けるのが仕事だ」


『荷物? 何を運ぶつもりだ』


「自由だ」


 通信の向こうで、高龍が鼻で笑った気配がした。


『幼稚な感傷だ。……いいだろう。言葉で分からなければ、事実を見せるしかない』


 モニター上のGA艦隊の一部が動いた。

 一隻の無人輸送艦が、艦列から押し出されるように前進してくる。船体には実験用のマーカーが描かれ、あちこちにセンサーが増設されていた。


『あれは廃棄予定の標的艦だ。NAG-13の簡易版を搭載している』


「何をする気……」


 海斗が呻く。


『見るがいい。準備なき者が、近道を通ろうとした末路を』


 無人艦が加速した。

 その進路の先、何もない宇宙空間が不自然に歪み始める。

 自然発生した空間の重なり──「近道」の入り口だ。


 無人艦は躊躇なくその歪みへ突入した。

 次の瞬間、現象が起きた。

 爆発ではない。

 無人艦の船体が、艦首から順に「ほどけて」いった。


 まるで編み物が引っ張られて解けるように、金属の装甲が、構造材が、配管が、意味を持たない素粒子レベルの紐へと還元されていく。

 光すらも歪んで吸い込まれ、船があった場所には、ただ黒い虚無だけが残った。


 音のない消滅。

 圧倒的な喪失。


 海斗が息を呑み、言葉を失う。

 ココは目を背けず、ただ唇を噛んでその光景を凝視していた。


『見たか』


 高龍の声が響く。


『あれが失敗だ。座標データが消失し、存在そのものが宇宙の計算エラーとして処理される。……お前たちの船には、あれを防ぐためのオリジナルデータがある。それをよこせと言っている』


「渡せば、俺たちはどうなる」


『安全は保証する。ただし、その後は軍の管理下で研究に協力してもらう』


 つまり、飼い殺しだ。

 ココを再び実験台に戻し、ナギサを分解してデータを吸い出す。

 彼らにとって、人間も船も、ただの部品に過ぎない。


 高龍は淡々と告げた。


『一時間待つ。NAG-13の制御権を渡せ』


「なぜ一時間も?」

 海斗が問う。


《推測。先程の近道の入り口が安定し、安全にデータを吸い出すための接続確立にそれだけの時間を要するためです》


 ミナトが答える。慈悲ではない。技術的な都合だ。


「……一時間か」

 戸来は言った。


「十分だ。相談する」


『よかろう。一時間後、回答がなければ強制接舷する』


 通信が切れた。

 ブリッジに、重苦しい沈黙が降りた。

 海斗が震える声で言った。


「……どうするんすか。逃げ場なんてないですよ」


「あるわ」


 ココが顔を上げた。その瞳から、怯えは消えていた。


「一つだけ、彼らが手を出せない場所がある」


 彼女の視線は、先ほど無人艦が消えた空間の歪み──まだ微かに残る「近道」の入り口に向けられていた。


 戸来はニヤリと笑った。


「奇遇だな。俺も同じことを考えていた」


「マジっすか……」


 海斗が天井を仰ぐ。


「あのミンチ製造機に突っ込む気ですか?」


「ミンチにはならない。俺たちには準備がある――条件A、B、C。すべて揃っている」


 戸来はクルーを見回した。



「……やるぞ。奴らにデータは渡さない。俺たちが鍵なら、鍵をかけたままへし折ってやる」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ