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阿部君、いよいよ事件を語るのか?

「はい。明智君も聞いておいてね。どこから話そうかな。えっとおー、あ、そうそう。今日は珍しく日の出とともに起きてしまったんです。二度寝をしてもよかったんですけど、なんか全く眠くなかったんですよね。こんな事は滅多にないから、少し舞い上がっていたのかもしれないですね。それで何かする事はないかと考えたんです。するとすぐに、最近、怪盗活動を疎かにしていたのを思い出したんですよ。明智君はもう少し、リーダーはもっと必死に、やる気を見せてくださいね。なので私が二人に分までやってあげるしかないのかと。この怪盗団は私がしっかりしないと成立しないということですね」

 いやそれは、阿部君がいつも重役出勤をして明智君と少し遊んで、昼ごはん前には強制解散をするからじゃないのか。次のターゲットの話をする機会が、いつあると言うんだ? 私は阿部君と明智君の二人に借金があるから、どんな小さなミッションでもやる気満々なのだぞ。

 なにゆえリーダーである私が部下の二人に借金があるのか、単刀直入に言うと、この我が家兼アジトを現金一括で買うために借りたのだ。様々な疑問が頭に思い浮かんだ人も多々いるだろうが、今はそっとしておいてくれ。被害者の私が納得しようと、日々自分に言い聞かせている努力が無になってしまう。

 私が前向きなのに、阿部君が私のやる気を空回りさせていると分かってもらえただろう。ちなみに明智君は毎日の生活を謳歌している。しかしここで今、私の意見を阿部君に言うべきではない。ただ、話の続きを促すのみだ。ささやかな嫌味だけで我慢しよう。

「それで、奇跡的に珍しく早く起きてしまった阿部君は、それからどうしたんだい?」

「私たちに、たっくさんのお宝を盗られ、ついでに犯罪の証拠を警察に横流しをされた悪徳政治家の事を思い出したんです。あの時は時間に制約があったので、あの屋敷の隅々までは見られなかったことを」

「確かにあれだけの大きな屋敷なんて、そうそうないけど。それを何の下調べもしないで、ほんの10分20分で見て回るのは、無理な相談だね」

 我々怪盗団は、阿部君の一存で、基本的に下調べをしない。そんな時間があるなら、コスチュームに力を入れるタイプだ。そして言うまでもなく、私は阿部君に意見を言えない。いや、聞いてもらえない。私の怪盗歴がほぼないと知ってすぐに、阿部君は私を下に見出したのだ。怪盗歴が2、3週間も先輩の、私を。それに社長でもあるしリーダーでもあるし、明智君の飼い主でもあるのに。そう言えば、明智君もこの頃からときおり私を下に見る兆候が……。気のせい気のせい。

「おとり役のリーダーに体力の問題さえなかったなら、もう少し収穫もあったんですけどね。今さら言っても仕方がないし、初老のリーダーに求めることではないですね。ハハハ」「ワワワ」

「そうそう。終わった事は置いといて、悪徳政治家の事を思い出した後で、何をしたんだい?」

「そんなの決まってるじゃないですか。もうほとぼりが冷めた頃だし、何か価値のあるものがまだまだたくさんあると思って、様子を見に行ったんです」

「えっ? ええー! 朝っぱらから偵察に?」

 朝というのも驚くが、阿部君が偵察にだなんて……。そんな珍しい事をするから、事件に巻き込まれるんだ……なんて決して口には出さないぞ。目で訴えただけだ。自覚症状のない阿部君が気づくわけがない。

「はい。大丈夫ですよ。どっからどう見ても、模範的な通行人を演じていたので。それに明るくないと見えないものもあるんですよ」

 この阿部君に、そんな普通の演技ができるわけがない。欲望丸出しで歩くだけでなく、どこか隙間を見つけて覗いていたに決まっている。悪徳政治家宅へのミッション第二幕は、半永久的に延期だな。それが身のためだ。

 問題は、どのようにして阿部君を説得するかだけど。もっと遥かに価値のあるもの、もしくは大量の現金を隠し持っている人物を探すしかないな。警視長に言えば、それなりのデータベースを見せてくれるかも。捜査だと偽って。

 阿部君には、ひとまずゴマをすっておけばいいだろう。

「まあ阿部君なら、風景や状況に溶け込んだ完璧な通行人を演じるなんて、わけがないね。だけど恐いのは監視カメラだよ。それを見返された時に、普段通らない人としてピックアップされてしまうかも。その捜査の流れで、我が家兼「株式会社ラッキー』の本社兼数々の盗品を飾っているこのアジトに、聞き込みに来るかもしれないぞ」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。あそこにある監視カメラは、全てダミーだそうです」

「えっ! ダミー? いやいや、そんなことはないぞ。私たちが侵入して奴らと乱闘というか、一方的に撃ち殺されそうになった時があっただろ? その時に悪徳政治家は息子だか秘書だかに、カメラのスイッチを切ったかどうかを確認していたぞ」

「そうなんですか。いや、でも……」

「だいたいどうして阿部君は、あれをダミーだと思ったんだい? そんなあからさまなダミーや白々しい『監視カメラ作動中』と書かれた大きなステッカーでも貼ってあったのかい?」

「そういうことではなくて、私が悲劇の冤罪被害者として取り調べを受けている時に、警察官の人が言ってたんです」

「警察が?」

「はい。あんなに大きな屋敷だから、監視カメラの1つや2つくらいはあるはずですよね? なので私が、その監視カメラで私の無実を確認しなさいよー……じゃなくて、確認してもらえたら嬉しいような恥ずかしいような……でもなくて、カメラを見ましょうよとものすごく低姿勢風にお願いしたんです。すると担当の警察官が、『カメラはダミーだ!』の一刀両断だったんです」

「そうなんだ。でも悪徳な政治家がダミーなんて使うかなあ。他人を信用しないような奴だよ。うーん、何か怪しいな。阿部君が巻き込まれた事件に関係があるかもしれないぞ。……って、まだ事件の概要を聞いてないじゃないか」

「そうでしたね。リーダーが話を逸らすからですよ。せっかく私が気持ちよく話してたのに」

「すまないね。それじゃ、き……悲劇のヒロインで名探偵、続きをお願いできるかい?」

「分かりましたわ」

 阿部君をおだてる方法も板についてきたぞ。さすが、私。

「偵察に行ったまでは話しましたね。それでその時は、屋敷に設置してある監視カメラに怪しまれないように、のびのびと歩いてたんです。どこに監視カメラがあるのかは、全く分からなかったですけど。なので必死にさり気なく横目で監視カメラを探しまくりましたよ。正門と裏門にあるのは当たり前ですけど、ああいう腹黒い人はそこら中を監視してるはずですからね。屋敷の周囲360度すべてを監視していても驚かないですよ。でもまさか監視カメラがダミーだなんて想像すらしてませんでした。それで気づけば、いつの間にか正門の前まで来てたんです。そしたら、なんと、あの大きな正門が開いてるじゃないですか」

「そら開いてることもあるんじゃない。あの屋敷には少なくとも悪徳政治家夫人が住んでるだろうからね」

「そうですけど。あれだけのお屋敷なら、普通は誰かが出入りしたらすぐに閉めるじゃないですか」

「そうだね。すぐに閉まったでしょ?」

「いえ。私もすぐに閉まると思ってたんです。電動か手動か分からないですけど、そこにいて門が閉まるのを見ていると、私も見られる可能性が高いじゃないですか。それで近くの大きな木の裏に隠れて様子を見てたのに、全然閉まらないんです」

「……。あれ? でも、私たちが以前忍び込んだ時には、門が開いてたじゃないか。その門は開けっ放しにしていることが多いのかもしれないぞ」

「よく思い出しましたね。リーダーのくせにというかリーダーの割になかなかの記憶ですね。でも私は、大きな木の裏に隠れてからほんの3秒で思い出しましたけどね」

 不毛な争いは何も実を結ばない。何よりも私は、心が広いでお馴染みのリーダーだ。

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