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私(初老新米大怪盗)と阿部君(見習い怪盗)と明智君(ゴールデンレトリバー)の探偵物語  作者: バスバスキヨキヨ


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一件落着?

「その強奪犯が、当時白シカ組に所属していた組員の中の20名ほどです。強奪犯たちを全員スピード逮捕したのは、さすがの手腕でしたね。だけど、肝心の絵が見つからない。そして、組長の指示で犯行に及んだ証拠証人も全くない。監督責任で捕まえてもよかったのかもしれない。だけど捨て身になった組長が万が一絵を破壊したらと思うと、泳がせておくしかなかったのでしょう。その間、絵の発見に繋がる情報を必死に集めている、あなたの身を粉にした姿が目に浮かびます。そんなあなたの苦労が違う形で報われてしまった。なんと、その絵が、私たち……オホンっ、匿名の謎の勇者たちによって、ひょっこりと美術館に返されてしまったのです。それ自体はめでたいけれど、絵が盗まれたのは事実で、取り返したのは警察ではない。ということは、責任者が何らかの責任を取らされるのが常です。屈辱的だったでしょうね。警視、警視と尊敬されていた人が、任務の失敗を理由に巡査部長に降格したのだから。出世レースから完全に脱落したのは言わずもがなですよね。その原因を作った首謀者がのうのうと生きているのは、あえて考えないようにしていたのでしょう。そんな時に、たまたま、巡回中にこの家から悲鳴が聞こえてきた。腐っても正義感だけは残っていたあなたは、直感的に入ったのでしょう。すると、あの憎き白シカ組組長が倒れているじゃないですか。なんでこんな所に白シカ組組長が、なんて疑問すら湧かなかった、と私は想像します。その程度の余裕すらなかったのです。あなたの警察官人生を、いえ人生そのものを滅茶苦茶にした張本人が、目の前で倒れていたのだから。嫌でも、あの事件を思い出したことでしょう。その瞬間、あなたの正義感を復讐心があっさり上回ってしまったのは理解できます。我を忘れたあなたは、ほとんど無意識に暴力を振るったのではないですか? 気づけば、白シカ組組長は変わり果てた姿になっていた。あなたは救急車を呼ぼうとしたのかもしれません。だけど、こんな事をしてしまっては、今度は降格どころではない。警察を去らないといけないうえに、あなたが憎んでいるはずの、犯罪者の仲間入りです。立ち去るか救急車を呼ぶか、悩んだでしょうね。しかし答えなんて出るはずもなく、時間だけが無情にも過ぎていくだけでした。すると、この名探偵ひまわりのアンテナが事件を感知して、危険を顧みずに登場してしまった。焦ったでしょう? 私有地なので一瞬躊躇したんですけど、私の心に宿る正義の魂を抑えきれなかったんです。あなたは急いで隠れるしかなかった。そして私が呼んだ救急車やパトカーが来た時に合わせて、さも今来たかのように現れたのです。まさかあなたがずっとそこにいたなんて、誰も考えない。しかし冷静になってくると、監視カメラの存在に気づいた。万事休すと諦めたのでは? だけど、悪の神は、あなたを見捨てなかった。なんと驚くべきことに、屋敷にある監視カメラはすべてダミーだと、夫人が言い張ったのです。仮にも政治家だった家に一つも本物の監視カメラがないなんて、ありえない。常識的に夫人の言い分は怪しい。普通に考えれば、夫人は事件に関係しているはずです。しかし、夫人も何かしらの関係があるのかまでは考える余裕なんてなかったあなたは、当たり前に夫人に便乗します。さらに警察官の勘が働き、例えカメラが本物だとしても、データは消すと踏んだ。それでも、事件現場にあるカメラだけでも本当にダミーであってくれと、願っていたでしょうね。ただ、監視カメラの映像がなくても、日本の優秀な警察なら、あなたに辿り着くのは時間の問題です。なので、あなたはさり気なく捜査の邪魔をして、なんとか迷宮入りに持って行くことを画策した。まずは、第一発見者であるこの私を犯人に仕立てあげるのが最初です。まさかその選択が、あなたの罪を結果的に暴くだなんて、その時には思わなかったことでしょう。それに関しては同情してあげますね。世界一の名探偵が、まさかこんな所にいるなんて、ドラマじゃないんだから。私に解けない謎はない!」

 まずい。阿部君が調子に乗りすぎている。私が憎まれ役になるしかないな。これも仕事だ。なんと言っても2000万円だもんな。

 私は、そーっと阿部君のそばまで行き、囁いた。

「阿部君、話が逸れ始めているぞ」

 顔を真っ赤にした阿部君のボディブローが、私のみぞおちに軽くヒットした。阿部君が赤面したのは、怒ったからではなく恥ずかしかったからだ。結果、辱められて怒り狂ったのだけれど。私は、力を振り絞って再び明智君のそばまで戻り、膝をついて明智君の頭を撫でるふりをしながらい、痛みに耐えた。明智君は伝言役を免除されたことで、私に感謝していることだろう。素直に頭を撫でさせてくれている。

 こんなタイミングで明智君の頭を撫でるのは、不自然極まりないのは、みんなは承知している。ただ、私の不自然な行動の理由も承知している。何らかの暴力が振るわれたのを確信しているのだ。だけど阿部君のボディブローが早すぎて、私が何をされたのか具体的にはさっぱり分からない。しかし何事もなかったかのように、阿部君の話に耳を傾ける。それ以外の行動は命取りだからな。

 阿部君は、私のおかげで気を取り直したくせに、その感じを一切見せないで続ける。何事もなかったように見せたいのだ。顔の赤みもほとんど引いている。飛んできた小さな虫を軽く追い払っただけよと、目では訴えていたが。

「そこで、この事件現場となった夫人宅の警備をかってでるのは、本当に自然でしたね。警備の一環だと称して、すべての監視カメラを調べもしたんじゃないですか? 結果、どう見ても本物だと分かって、あなたは焦ったでしょう。しかしその頃には冷静になっていただろうし、元来頭の良いあなたは、なぜ夫人がダミーだと嘘をついたのか分かった。夫人は事件に関係あるに違いないと。当然ですよね。現場は夫人の家の敷地内なのだから。人が、それもどう考えても怪盗とか泥棒とかに見えない人が倒れているなんて、その家の人と何かがあったと考えるのが普通です。ただ、あなたにとっては、夫人が関係してようがしてなかろうが、どうでも良かった。重要なのは、夫人が監視カメラのデータの内容を見たのか見ていないのかでしたよね。もし見ていたのなら、弱みを握られてしまうかもしれない。警察に突き出すなら、とっくにしているだろう。だけどそれは自分が共犯者扱いされると考えて、絶対にそこまではしないはず。だけど弱みを握られて、夜中にコンビニまでお使いを頼まれるのはごめんだとも強く思ったでしょう。夫人がデータを見たのかどうかを、意地でも確かめないわけにはいかない。あなたは必要以上に夫人に顔を見られるようにしたのでは? あなたは大して用事もないのに、夫人に何度も話しかけたはず。『今日は良い天気ですよね』とか『おたくのチワワはかわいいですね』とか『連行された第一発見者の悲劇のヒロインは、めちゃくちゃかわいかったですよね』と、模範的なありきたりの会話やお世辞や本音を入り混ぜて。その結果、夫人はあなたを見ても顔色一つ変えなかった。あなたは確信したのでは? 夫人はデータを消去したしてないまでは分からないけど、内容はまだ知らないと。そしてこの先も見る可能性はないと。夫人からは、自分が犯人だと露見される恐れはないと、あなたは自信が持てたことでしょう。しかしあなたにとっては、一難去ってまた一難です。なんと、警視長たってのお願いで、この私率いるひまわり探偵社の面々が捜査をすることになってしまった」

「……」

 おいっ、真面目巡査部長、阿部君が一息ついたということは、お前に何かしらの反論を期待しているんだぞ。分かっているが、反論するのは命取りだとも分かっているのだな。しかしそれは、心の中を見透かされていると言っているようなものだ。負け戦だと観念しても、派手に散らないとだめじゃないか。

 阿部君ががっかりしているな。非常にまずい。せっかくここまで来たのに、諦めてたまるものか。そもそも阿部君は一の矢で攻めすぎたんだ。二の矢三の矢を放ちたかったのなら、ペース配分を考えないと。そこまで指導できなかった私のミスだな、うん。自分の失敗は自分で取り返すのが、阿部君と明智君以外の我々怪盗団の掟だ。

 明智君、すまない。今回だけは協力しておくれ。この失敗を活かして、次からはもっとさらに命がけで阿部君をおだてて、学習時間を多く取るから。阿部君は聞いてくれないとかは、今は考えないぞ。

 私は、真面目巡査部長の横で油性マジックの蓋を取ってから、笑顔で立った。そして誰かに話して欲しいセリフを呟く。明智君は、私の反対側で見せつけるようにシャドーボクシングを始めた。私と明智君の動きは、全く意味はないと信じておくれ。たまたま真面目巡査部長を挟んで、気ままに行動しているだけだ。

 ただ、真面目巡査部長に忠告というか助言を。お前に逆転はない。だけど、これからの行動で情状酌量はあるんだぞ。

「そ、そんなの、無理やりこじつけてるだけじゃないか。本音がやったという証拠でもあるのか? あるわけないな。だって、本官は世界一の無実なんだから」

 やればできるじゃないか。棒読みの2段階も上だ。迫真の演技とやらに見えなくもない。当事者だから、心の声がそのまま口から出たのだろうか。お前のために批評すると、後半部分の意味不明のアドリブはなくてもよかったぞ。でもまあ、とりあえず阿部君が満足げだから良しとするか。

 阿部君、いいぞ、続けておくれ。

「その言葉を待ってました。あなたは気づいて……」

「その言葉って、どの言葉だよ? 証拠か? それならはっきり証拠って言えよ。しかし残念だったな。念の為に監視カメラの向きを調べたら、あの現場は死角に……。あっ、別に本官が安心するためではないぞ。万が一あれがダミーではなくて、犯人が映ってたらいいなーと期待して確認したまでだからな。仕事熱心さを抑えきれなかっただけだぞ」

 お、おい。阿部君が話しているのを、一度ならず二度も遮るなんて、お前は死にたいのか? 一時反論できなかったのが嘘のように、ぺちゃくちゃ話しやがって。

 あ、阿部君、今のは、こいつが自主的に発言したんだからな。言い訳を声に出して言いたいが、阿部君を見ることすらできない。明智君は? 明智君、頼む。阿部君をなだめておくれ。

 あれ? 明智君が見当たらないな。さすが明智君だ。しかし夫人のチワワがどこにいるか分からないから、明智君はきっとこの大広間から出ていないはずだ。

 明智君を探している場合ではない。焼け石に水だろうけど、私が阿部君をなだめるか。と思ってすぐに、阿部君の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「なるほど」

 なるほど。阿部君は、敵が息を吹き返したのが、よほど嬉しかったようだな。なんとか逃げ切れるかもと一縷の望みを持った真面目巡査部長が、天国から地獄へと急降下するのを想像しているのだろう。「なるほど」の言葉が、良い意味で震えていたからな。と、阿部君をよく見ると、明智君が阿部君の背後に隠れている。

 明智君、やるじゃないか。そこしかないと言えば、そこしかない。灯台下暗しとは言っても、実際にやるのはなかなかの勇気が必要だっただろう。だけど瞬時に考え実行に移した明智君は、真の勇者だ。足がプルプルしているのは……床のその部分だけが不安定ということにしておくか。

 おっ、阿部君が続けるぞ。どうやら、笑わずに話せるのを待っていたようだ。真面目巡査部長も阿部君が「なるほど」の後にすぐ続けると思ったのか、大人しく待っている。中途半端に間が空いたから、少しバツが悪そうだな。大丈夫だ。そこは、待つが正解だったぞ。

「ご察しの通り、あれはダミーではないです。そして現場は、あなたの言う通りに、どのカメラからも死角となっていました。現場はね。だけど、それは大した事ではないですよね? そこに行くまでの道のりや、逃亡した後の足取りなんかが映っていれば問題ないです。もちろん時間も。なので、暴行の状況は映ってなくても、その時に現場の周囲をうろついていた人に容疑者を絞り込めるのです。あの日あの時、私有地である夫人宅の敷地内に、どれだけの人が行き来したのでしょうね? ちなみに、これだけの広大な夫人宅ですけど、一身上の都合により、現在はお手伝いさんや庭師さんはいないそうです。というわけで、想像の範囲は超えないですけど、被害者と夫人とあなたと私の4人だけが映っていたことでしょう。時間的に、私は省いてもいいですね。容疑者は、夫人とあなたに絞り込めました。ただ、夫人を加害者とするなら、そのすぐ後で映っているあなたの行動に矛盾が出ます。しばらく現場に滞在して、私の登場と同時にこそこそと逃げ回るなんて、ありえないのです。警察官の制服を着ていたあなたが、まずすべき事は、被害者の発見と同時に救急車の手配しかありません。お分かりですね? 夫人は犯人ではありません」

「そ、そんなあ……」

 いいぞ、その落胆ぶり。阿部君が小さくちいさくガッツポーズをしている。私も。明智君は震えが収まり、尻尾をブンブン振り回している。

 しかし終わりではない。阿部君の楽しみは、ここからだ。

「でも、安心しなさい。監視カメラについて長々と話したけれど、私も誰も見ていません。データはすべて消去されていました。誰かさんの手で。それはもう見事に。なので、復元もできませんでした」

「それを早く言えよー。よっしっ、これで本官が口を割らない限りは、捕まえようがないな。最後に笑うのは、正直者の私だー。ハッハッハッー、ハハハハハッー」

 いいぞ、阿部君。ズドンと落としたと思ったら、優しく持ち上げたな。こいつの心理状態は、壊滅状態と表裏一体だ。

「ハッハッハー、ヒッヒッヒー。ハハハヒヒヒハハー。私が後に笑いましたけど」

 ……。あ、阿部君、おふざけは、程々にな。

「……。こ、子どもじゃないんだぞ」

 まずい。阿部君は子ども扱いされると、ムキになってしまう。私の2000万円は……空の彼方は飛んでいったようだ。明智君は再び震え出している。明智君は阿部君との取り決めはないが、おそらく今晩の反省会を想像したのだろう。

 明智君、反省会だろうが祝勝会だろうが、阿部君がワインを飲むことに代わりがない。どのみち酔っ払った阿部君は、何かにつけ私たちに説教をする。明智君、後で真面目巡査部長に面会に行って、八つ当たりをしような。阿部君も一緒に行くと言うだろう。

「なによー、バカー! どう見ても、あなたが犯人じゃないの。口を割らないなら、明智君を……。明智君、見ててね。私、頑張るから」と言って、阿部君は明智君の頭を優しく撫でた。どうやら阿部君は、背後に明智君が隠れていたのを知っていたようだ。

 明智君、次に阿部君から隠れる時は、そこはやめた方がいいな。これだけの大広間なら、阿部君の視界に入っていようとも離れていれば……いや、阿部君の飛び道具の速さと命中率はとてつもないか。

 諦めるのが必要な時が、人生にはあるんだよ、明智君。私は2000万円は諦めたよ。もう前しか見ていない。どこかの金持ち悪人、首を洗って待ってろよ。近いうちに我々怪盗団がお邪魔する。

 ふうー。阿部君が頑張るらしいから、聞くとするか。どんな形であれ、特別捜査官から解放されますように。

「私を怒らせて思考力を低下させようとしても無駄よ。そんな卑劣なやり方に乗るわけないでしょ」

 真面目巡査部長は意図的に発したわけではないだろう。素直に思った事が口から出ただけだ。しかし、そんな言い訳はしないし、する意味もないし、言葉を挟む余地すらなかった。

 そして、阿部君は完全に真面目モードだった。これは、私の2000万円が復活したのかもしれない。いや、一喜一憂してないで、私も真面目になって、阿部君の演説を聞こう。

「私は、友だちのためにも、あなたを逮捕します。はっきり言って、今さら白シカ組組長の事なんてどうでもいいわ。許せないのは、私の大事な友だちの件よ。あなたは、絶対に手を出してはいけない人を、死ぬ目に合わした。本心は同じ目に合わしたい。だけど、心の広い私……いえ、私たちはしない。大事な友だちが奇跡の生還を果たしたのもあるけど、その友だちは卑劣な犯罪を憎むでしょうから。茶番はこれくらいにしましょうか。私たち、私と明智君とリーダーは、決定的な証拠を持ってます」

 偉いぞ、阿部君。その調子で落ち着いて行こう。明智君の件があったから、明智君のために頑張っているから、阿部君は実力を120パーセント出せている。私は観衆になっていても大丈夫だな。そして、2000万円が……。ヒヒッ。最後に笑うのは、私だったな。

 真面目巡査部長も、自分の事は自分でやるんだぞ。もう誰も手助けはしないからな。おっ、私の念が伝わったのか、真面目巡査部長が何か言いそうだ。いいぞ。タイミングもバッチリだ。やればできるじゃないか。さすが元警視だな。元警視の真の実力を見せてもらおう。

「そんなハッタリが、百戦錬磨の本官に通用すると思ってるのか? 片腹痛いわー。本官は……」

「オホホ。千戦練磨の私の方が上のようね。両腹痛いわん」

 あ、阿部君……。さっき阿部君のセリフを遮られたのを、根に持っていたのだな。そして再びあえて子どものようなセリフで、マウントを取るとは。やはり阿部君を敵に回してはいけないようだ。真面目巡査部長は、もうぐうの音も出ないだろう。だけど頑張れ。元警視だろ。

「……。一応聞いてやる。証拠は何だ?」

 おおー。軌道修正したな。予定では、おそらく自らのアリバイでも話そうとしたのだろう。だけど、阿部君の計算したかどうかは別として、くだらない言葉遊びで戦意喪失した。確かにあの阿部君の余裕は底しれぬ恐怖だ。しかし、元警視の意地が、自白をぎりぎり踏みとどまらせている。示された証拠の論破に、最後の可能性を見出したのだ。阿部君の話を先に聞いた方が手っ取り早いと、考えただけかもしれないが。

 被害者に付着していた髪の毛の事を、マリ先生の説明通りに阿部君が話すと、真面目巡査部長は抵抗を全く試みず、あっさり観念した。心なしか安心したように見えるのは、逃げ回る必要がなくなったというよりは、阿部君から解放されたからだろう。犯行に至った経緯も動機もすべて、阿部君の言う通りだと認める。

 阿部君は物足りなさそうにしているが、私はこれ以上は真面目巡査部長に奮起を促そうとは思えなかった。いや、セリフを一言だけお願いした。

「名探偵ひまわりに解けない謎はないな」と真面目巡査部長がぎりぎり全員に聞こえるように、思わず呟いてしまった感を上手に演じてくれた。

 阿部君を感無量を体全体で表している。明智君も。私は任務を遂行できたようだ。やはりハッピーエンドは気持ちがいいな。阿部君明智君、ありがとう。

 私と阿部君と明智君が幸せを噛み締めている間に、真面目巡査部長は、さらに明智君の件も自分の犯行だと認めた。こちらは、証拠がなかったというのもあるが、明智君の温情で立件すらされないだろう。

 明智君は、こういう優しい面を持っている。ただ、みんなで明智君を褒めないといけないのは、言うまでもない。

 阿部君が悦に浸っている時間は短かった。

 警視長は、悪徳政治家夫人に何か話している。

 白イノシシ会組長は、何とも言えない目で明智君を見ている。

 明智君は、隠れるように阿部君の背後で気配を消している。

 真面目巡査部長は、すぐに給料据え置き警部に逮捕され連行されようとしている。給料据え置き警部の、警部となってというより警察官となっての、初手柄だ。だけど、犯人が現役の警察官だからなのか、全く嬉しそうではない。一歩間違えれば自分もそうなると思ったのか、仲間に手錠をかけるのが情けなかったのか、私の知るところではない。

 私は、阿部君に対する借金が無くなった喜びを、もう少し噛み締めさせてもらおう。しばし、そっとしておいてくれるかい?

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