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私(初老新米大怪盗)と阿部君(見習い怪盗)と明智君(ゴールデンレトリバー)の探偵物語  作者: バスバスキヨキヨ


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突然ですが……

 数々の種類の疲れのおかげで速攻で眠れたと思ったら、阿部君が夜明け前に私を叩き起こした。はっきり言って、予想いや確信していたので全く驚かない。阿部君のことだから捜査が楽しみで、遠足の日の子供のようにバカみたいに早く自然と目が覚めるに決まっていたのだ。

 私もだろ、なんて言うなよ。私は最高責任者だから、そんな阿部君の動きに対応し補助をしてあげるために、いつでもすぐに起きられるように準備していただけだ。阿部君の起きる1時間前から狸寝入りなんて、決してしてなかったからな。

 こんな説明をしている間に、阿部君は明智君を起こしに行ってしまった。これはまずいと思ったが、時すでに遅しだ。私はほくそ笑み……いや、心から阿部君の無事を神様に祈った。なぜなら明智君の寝起きの機嫌の悪いのは以前に説明したと思うが、尋常ではない機嫌の悪さなのだ。さらにいつもよりも早い時間なのだから、想像もできないほど凶暴になっていることだろう。

 今日の捜査は、阿部君抜きで行くのは確定した。いや、阿部君は病院に直行だから、後で被害者の状態を聞き込みに行った時に、病院で合流だな。もしかすると阿部君は気を利かせて、先に聞き込みをしているだろうか。してないな。しているわけがないな。明智君に噛まれた所が痛いとピーピー泣きわめくのが関の山だ。

 どうせ被害者の匂いを明智君に嗅がせるために病院に行くのが主な理由だから、そもそも阿部君にできる事なんてほとんどないが。明智君の通訳ぐらいか。被害者が未だに身元不明だったらだけど。それに聞き込みだって私がやらないと、相手から重要な事柄を引き出せないだろう。

 阿部君がピーピー泣いていようが、聞き込みのマネごとをしていようが、捜査に影響はないのだ。

 と考えていると、阿部君が明智君を叩き起こす寸前だ。え? なぜ分かるかって? それは、私と明智君はこの大豪邸の居間で、私はベッド、明智君はソファーの上という具合で寝るのが常だからだ。ボロアパートのワンルームに住んでいる頃からそうしていたので、癖が抜けないというかそれが当たり前って感じだな。

 それなら、阿部君が明智君を起こす前に止められるじゃないかと、言うなよ。人間、痛い目にあって学習することが大事な時もあるのだ。今が、それだ。阿部君のためなのだ。だから私は心を鬼にしつつも、複雑な心境で、阿部君の無事を祈っている。

 と言ってるそばから、阿部君が明智君を揺すり始めた。これで、私にはもうどうしようもなくなったようだ。さあ明智君が脇目も振らず阿部君をかじると思ったその時、バカ犬……じゃなくて明智君が私が今まで聞いたことのない嬉しそうな「ワオーン!」を発して、阿部君とともにダイニングキッチンの方へ向かった。

 一瞬しか見えなかったが、明智君は笑顔だったような。ただ、目は充血していて明らかな寝不足を表していたが。もしかしたら明智君までもが自分が『名探偵明智君』になって活躍するのを楽しみにしているのか。それもおそらく一睡もできなかったくらいに。警視長に言われた時は、それほど乗り気ではなかったはずだ。どうせ阿部君が反対すると思って、感情を押し殺していたのだろう。それが……。明智君、良かったなあ。気持ちは、分からなくも……。それだけに、明智君だけでもしっかり眠ってほしかったぞ。

 阿部君もほとんど眠れなかっただろう。私も、まあ、その、いつもよりは睡眠時間が短いのに、明智君までもが。こんな睡眠不足トリオで、まともな捜査ができるのだろうか。

 こうなったら、せめて豪華な朝ごはんで元気をつけておくしかないな。私は、ここぞという時に食べようと思って冷凍庫で眠らせている、うなぎの蒲焼が一番に思い浮かんだ。そしてそれを、私の海よりも広い心で、味オンチの阿部君と穀潰しの明智君にも分け与えてあげよう。

 二人は時間が惜しいとかなんとか言って、買い置きの食パンをくわえながら、私に遅いとか文句を言うだろう。早く行ったからって、早く事件が解決するとは限らないのに。逆に焦りが間違った判断を下すことが多いのだ。とは言っても私がいさえすれば、事件はものの見事に解決するがな。二人は私の描く脚本通りに動いていればいい。なので、まずは、焦るなと言おう。

 あわてんぼうの二人に、私の緻密な構想を教授するために、早くダイニングキッチンに行かないといけなくなったな。いや、だめだ。焦りは禁物だった。

 私は必死で自分を押し殺し、ゆっくりとダイニングキッチンに行き、ゆっくりとドアを開けた。これをゆっくりする必要はあったのだろうか。考えてはいけないな。忘れよう。そんな事よりも、私の目に写ったのは、二人が私のうなぎの蒲焼を食べているところだった。あんなに上手く隠しておいたうなぎの蒲焼を、見つけられたというのか。なんて奴らだ。なかなかやるじゃないか。

 どうせ二人に振る舞うつもりだったから、怒りはしない。ただ、二人が食べ終わって手持ち無沙汰になっている前で、ゆうゆうと味わってやるだけだ。幸い二人は3尾あったうちの一番群を抜いて大きいうなぎの蒲焼には、手を付けてうないようだし。奴らなりに遠慮したのだろうが、当たり前のことだな。

 私は二人がうなぎの蒲焼を食していることはおろか、そこに誰もいないかのように振る舞い冷蔵庫に向かった。そして神々しいものでも触るかのように、ゆっくりと冷凍庫を開ける。実際に神々しいうなぎの蒲焼があるので、芝居がからなくても自然とできてしまったようだ。冷凍庫の中の二重底の、ちなみに二重底は二段になっている、蓋を外す。

 奴らはまさか二重底がさらに二段になっているだなんて、考えられなかった。最初に底板を外してうなぎの蒲焼が2尾隠れていたから、そこがゴールだと決めつけたようだ。私の思い描いたように行動しているじゃないか。疑り深いじゃなくて、慎重で知的な私の作戦勝ちだな。

 こんな初歩的な能書きを呟いていないで、うなぎの蒲焼を早く取り出すとするか。奴ら、驚くぞ。そして今までの数々の私に対する非礼を侘びて、必死に私に媚びるだろう。私のうなぎの蒲焼に比べたら小さいとはいえ、一尾一万円もするうなぎの蒲焼を丸々一匹食べ終えていたとしても。

 なぜなら、この冷凍庫の奥底に隠してあるうなぎの蒲焼は、例え満腹でも誰もが一口だけでもと懇願してしまう逸品なのだから。二人に借金はしていても、なんとかバレないように貯めたへそくりで奮発して買っておいて良かった。最初に値段だけを見た時はぼったくりだと思ったが、いざ現品を見ると一尾30万円も納得できる。いや、安すぎるとさえ言っても過言ではない。

 四国の山奥で捕れた天然物で、それも10年に3尾捕れるか捕れないかというくらいの大物で、なおかつ大きさに比例して味も図抜けている。それに……。何? 説明が長すぎる? いいじゃないか。一尾30万円なんだぞ。いや、まあいいか。わ、私には、は、はしたお金だ、な。

 さあ、うなちゃん、久しぶりのご対面といこうか。

 私は、冷凍庫の中の最後の隠し蓋を外した。

「………………」

 おそらく、ほとんどの人が想像……いや、分かっていたのだろう。そう、そこには、底には……ハハッ、ショックで下らないダジャレを言ってしまった。

 あんなに楽しみにしていた、一尾30万円のうなぎの蒲焼が……。

 なるほど。二人は、まず私のうなぎの蒲焼を食べて、デザート代わりに一尾一万円のうなぎの蒲焼を食べているのだな。うん、うん、気持ちは分かるぞ。いやー、あまりに怒ると、おそろしく冷静になるというのは、本当のようだな。

 ただ、冷静だけど、二人に仕返しをしようとは思わないな。

 ただただ、何もしたくないぞ。気力がなくなってしまった。なので捜査に行く気もない。

 この物語は、残念ながら、これで終わりだ。事件が解決しないどころか、捜査が始まりもしない推理小説があってもいいじゃないか。なかなか斬新だろ?

 それでは、みなさんさようなら……。

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