死にゆく私へ
死のうと思って、遺書を書いていた。
ちょうどいい紙がなかったので、学校でもらった進路通信の裏に、シャープペンで文字を並べては、消しゴムで消す。
「んーと、『私は私の必要性がわからなくなり』……って、これじゃなんだか中二病ぽいかもなあ。『私は何を頼って生きていけばいいの?』……ああ気持ち悪い」
書きたいことは大体決まっていた。まあ要するに、自分を見失った、それだけだ。……ただ私は国語力に乏しく、それを文にして記すには相当頭を悩ませなければならなかった。国語の授業ちゃんと受けておけばよかった、と今更後悔する。ま、『遺書の書き方』なんて授業見たこと無いけど。
書いては消し、書いては消し……。繰り返しているうちに、紙を真っ二つに破いてしまった。
「あーあ……」
また新しい紙を探しにかかる。いつ死ねるんだろうか。
本物の遺書は見たことがある。今から7年前、母の寝室で。
茶を基調とした整頓された、綺麗な寝室。その天井から降りたロープに母がぶら下がってて、そのすぐ下に黄色く染まった遺書があった。
父が読んでいるのを少し覗き見した。難しい漢字が、縦書きに美しく並んでいたようだったが、内容まではわからなかった。
父は泣かなかった。
まるで心が無いかのように、母を抱えあげてロープから降ろし、静かに手を合わせただけだった。眉が少し、真ん中に寄っていたような気がする。
その時私は? ……思い出せない。泣いていた、と思う。何かを叫んでいた? なんだっけ。
握っていたペンが、いつの間にか床に転がっていた。
拾い上げようとしてふと見えた、ごみ箱に捨てた教科書たち。私の汗と涙と痛みが詰まっている。国語の教科書も、あった。表紙の赤い文字に、吐き気を催す。
机の陰から、紙の端がはみ出しているのが見えた。学校で配られ、目も通さずに放ってあった図書館通信だ。表には字がびっしりと並んでいて、かわいらしいうさぎのキャラクターが本の紹介をしているが、裏はまっさらだった。……いや、何か小さな文字で書いてある。
「なるほどね」
サインペンのようなもので書かれた字は本当に弱弱しくて、少し滲んでいた。それを見て、胸がきゅっと締まるように痛むのを感じる。滲んだ所に重なるようにして、涙が落ちた。
「あなたを救ってあげよう。さあ、死ぬのよ」
弱弱しい文字の上にシャープペンで一言書き添えて、私は椅子の上に立つ。
「さよなら、すべて」
椅子を蹴る時、部屋の隅に母の笑顔が見えた気がした。
死にゆく私へ
ぜんぶ わたしがわるい
読者さま方、まずは目を御通し下さってありがとうございました。
そして、本当にごめんなさい。ここまで読者さま方の想像にお任せする形になりまして、申し訳ない。でも、こういうものを書いてみたかったのです。
今回も前2作と変わらず鬱々としていて自分でも気持ちが悪くなりました。決して心を病んでいるわけではありません。
次は連載いきたいなーなんて……。実はプロローグと第1話は書けてます。ただ、載せる勇気がありません。
それでは、この辺で御暇とさせていただきます。
ご感想などいただけると嬉しいです。さようならー!